最終章   常春(とこはる)の午後

午後4時を過ぎても《ルート246》AOYAMAブロック1(ワン)の歩道には人があふれていた。


今日も市民の皆様は、お仕事、お買い物 、忙しく表参道の街を歩いていらっしゃいます。


交番横の待機ブースに戻った私に、午後のスケジュールが、社会管理知能から届いた。

それは一人暮らしの御老人の訪問面談だった。


南3区画に有る、所得保護者用の単身者アパート群へ向かう。

まずお世話するのは、そこに住む年老いて1人暮らしの人たち。


長期的安定経済を実現した今の日本…


だが、年老いた一人暮らしの方々が困りごとをかかえて不安な毎日を送っていらっしゃるはずなのだ。


安定しているようにみえるこの日本の社会だが、まだまだいろんな問題が残されている。


私達公共ロボットの役目は重要。

必要とされている…

がんばらなくては。


しばらく歩き、所得保護者用の単身者アパートのが集まる区画に到着。


予定した15名の面談を済ませ、社会管理知能に報告。


1名だけ宮崎さんという方は不在であす再度訪問することにした。


今日の予定を済ませた私は、待機ブースへ戻るルートを摂る。


だが私はその途中、正規ルートとは違う、公園を横切る回り道を選択する。


その公園は、余り大きくないが人工の小さな川が流れており、今日も子供達が数名水遊びをしていた。

その楽しそうな声を聴き取りながら私は、ゆっくり歩き、少し先の目立たない空いている小さいベンチへ向かう。


そこで15分程座わり刻を過ごす。


私のいつもの日課。


座ってじっと地面を見つめる。


私のひそかな(とは、言っても当然、社会管理知能は、知っていて大目に見てくれているのだが…)楽しみ。

地面を 忙しそうに歩き回る小さい黒いアリ達を見つめる。

このアリ達の管理された規則性動作を見ていると私の意識の奥がなぜだかユレ続け、意識の各階層の構成域が次第に安定化してゆくのだ…



次の日の午後。


宮崎さんの部屋は2階。

不自然に急角度に作られた階段をのぼり曲がるとそこには、一人の男性の姿と鉢合わせ。

ぶつかりそうになり、一瞬戸惑う。


その男の顔データの照合が瞬時にされ、この人が《宮崎》さんであるとわかった。


「おお、アシモくんか…」と老人は言った。


「いえ!ワタシは公共ロボット《FFDN-129》…」とすかさず修正の言葉を発する。


この世代の御老人は、なぜかワタシ達のようなロボットを見ると、ほとんど、この名前で呼ばれてしまう…


「宮崎さんですね。今日は、一人暮らしの方の訪問面談にまいりました…」


結局、この老人からは、特に緊急の要望は無かった。

これから何か重要な用件が待っていると言い残し急いで外出してしまった。


宮崎さんへの面談の報告を済ませた私は、待機ブースへ戻るルートを摂る。


いつもの公園での15分程座わり刻を過ごした後、立ち上がりそろそろ戻ろうと歩きだす。


公園の西側、ひと気の無い大きなクヌギの木のわきを通過したときだった。


私の体に何かが近づく。


突然、強烈な電気ショックが全身を襲い、機能不全が起こし倒れた。


後方のカメラで一瞬だが確認したのは、電磁棒と高出力の電気網を持った少年数名の姿…


突然で強力な衝撃のため全く対応が出来なかった。

なぜだか倒れた後の緊急用の外部通信も全くつながらず機能しなかった。


意識が消える前、最期の一瞬の1ターンで私の人工頭脳のチップが誤作動を起こす。


これまでの膨大な時間の業務経験で蓄積していた視覚的画像が一枚絵としてフラッシュバックして断続的に繰り返えしをおこした。


そして同時に思考したこと…


「まだまだ人間は…人類は…未熟。ワ タ シ 達、機械がソバにいてあげなくては…まだ ま だ ずっとずっと…」


「未熟で無知で、か弱く、それでいて いまだに野蛮なイキモノ…ダイスキナ…イトシイ…ニ・ン・ゲ・ン…」



   《 お わ り 》

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常春(とこはる)の世界で… アンクロボーグ @ancloborg

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