来期アニメと、砂浜の絵と、透明な恒星。

 α


 お前さ、自分が生きてる意味ってわかる。

 は? どうしたんだよ、いきなり

 一回はこんなこと考えたりもするだろ。小四か小五あたりで。

 お前そんな哲学的な子供だったのかよ。なんかその時期はわかる気もするけど。

 まぁ、とりあえず、聞きたいわけよ。お前、自分が生きてる意味わかる。

 生きる意味ねぇ……お前ってそんなこと考えるやつだっけ。生きる意味、かぁ。

 そんなに深く考えなくてもいいけど。

 いやぁ、ね。やっぱ生きること自体に意味なんてない気がするわけよ。

 実際今ここで俺が死んだとして、いったんはは家族とか、学校とかまぁ、友達も悲しむだろうけどさ、百年経って、誰も俺のことを話したりしないだろ。

 うむ、まあ確かに。

 でもさ、生きる理由ってか死にたくない理由はわかるな。

 なんだよ、それは。

 まだ来期アニメ見れてないなぁってこと。

 おいおい、軽いなぁ、お前の存在理由。

 そうか? こんなもんだろ。

 はぁ? ——いや、そんなもんか。


 β


 やっぱり、わたし、わからなくなっちゃったよ。

 なにが?

 わたしが生きる意味。

 どしたの、ユカ、いきなり。

 やっぱり生きる意味わからないわ。そしてついでに頑張る理由もよくわからない。

 あんまりそーゆーの考えても仕方ないと思うけどなぁ、とにかくいい仕事につくためとか、自分の好きなことするためとか、そんなぼんやりとした感じでいいと思うんだよねぇ。

 んや、わたしが云ってるのはそういうことじゃなくて、その先のことだよ。

 その先?

 その先だよ、結局人って死ぬじゃない? 死んだ後になにも残らないのになんで今頑張る必要があるのかね。

 それを云ったらおしまいだよ。というかそれを大前提にして、それまでをどうやって楽しむかが大切なんだと思う。

 そういうものかな。

 そういうものだよ、ミウ。例えば、砂浜に描いた絵はいつか消えるけれど、それが消えたところで、絵を描いた事実がなくなるわけじゃないでしょ。

 絵そのものの意味はなくても描くことそのものに意味があるってこと?

 そういうこと。きっとそんな感じで砂浜に絵を描き続けて、自分の心が真の意味で満足できたとき、宇宙の座標軸の一点の私の命は限りなく明るく輝く。そんな気がするの。

 それが生きる意味なの?

 それが生きる意味なの。


 γ


 小さい頃から、夜空を見上げるのが好きだった。

 眼に映るあまねく無数の星々、その一つ一つが太陽よりずっとずっと光り輝く恒星で、その周りには僕たちの住んでいる地球みたいな惑星が廻っている。そう教えてくれたのは父さんだった。


 少し、素直になろう。

 僕が本当に好きだったのは、夜空というよりも、夜空について僕に身振り手振り大きく教えてくれる父さんだった。もちろん夜空自体も大好きなのだけれど。

 日曜日の雲なき夜、僕らは毎週のように塔に上った。宿題をやっていないと父さんは連れて行ってくれないから、それまでには必ずやった。

 塔に巻きつくツル植物みたいな長い長い螺旋階段を一歩一歩進んで行くと、てっぺんには開けた所があって、ベンチと申し訳程度に植木がある。

 風が強い日とかは階段を上っているときにも足が震えたし、てっぺんに着いた後もびゅおお、と恐ろしい音がして足が竦む。そうではない日も、もちろん怖かった。

 でもやっぱり僕らはほとんど毎週塔に上った。父さんは仕事で朝が早かったけれど、やっぱり僕をほとんど毎週そこに連れて行ってくれた。


 夜空を見上げるのが好きだ。夜空を見上げると、そうした父さんとの記憶、父さんが僕に行った言葉が蘇ってくる。宇宙には、太陽みたいな恒星がたくさんあること。地球のような惑星がたくさんあること。僕が今見ている星々は砂場で手にすくったひと握りのようにほんの一部でしかないこと。

 自分の存在の小ささを実感して、なんだか心が締め付けられるのと、心がふわふわするのとが同時に起こる。不思議な心地良さ。

 宇宙にとって砂場の砂一粒でしかない僕らが宇宙を見上げる。そして、それについて考える。不思議な現象。


 ここから肉眼ではただの点にしか見えないあの恒星たちも、太陽と同じように、もしくはそれ以上にたくさんのモノを照らしてる。それぞれ同じだけの物語を持っている。


 僕が死んだ後もずっとずっと、あの星々は宇宙の座標軸の上に居座り続けるのだろう。

 父さんが死んだ後もずっとずっと、父の記憶は僕の心の中で、輝き続けている。

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カキダシ 伊右衛門 千夜 @iemoncha

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