第3話

長方形の舞台で二人の男が向かい合っていた。


片方は黒髪黒眼の少年。まだ幼さが抜けないが整った顔立ちだ。体に革鎧を纏い。腰を落とし、左手に盾、右手に木剣を構えている。


もう一方は白髪碧眼、妙齢の男だ。手にはなにも持たず、極めて自然体だ。


両者の距離は20メートルほど。


戦いは唐突に始まった。少年がおよそ人間とは思えない速度で駆け出し、一息の内に肉薄して斬りかかる。


「やあああッ!」


一般人には避けられぬであろう速さで繰り出された斬撃を男はなんとも無いように躱す。


「イヤアアアアッ!」


渾身の一撃を躱された少年はそのままの勢いで連撃にうつる。


右薙、袈裟斬り、逆袈裟、喉を狙った刺突、蹴り、左薙。


神速の勢いで繰り出されるどれもを男は紙一重で避けてみせる。


そして少年に生じた一瞬の隙をついて組み伏せてしまう。


時間にして1分にも満たない戦いは男の勝ちで終わった。



——————————————




この屋敷に来てから半月が経った。

戦闘訓練は順調と言っていい。

日々つよくなるのを実感する。


「今のはなかなか良かったですよ、レン様。」


そう言って話しかけてきたのは僕の戦闘訓練の教官をしてくれている男、ゲント・ハーバルだった。


一見すると普通の男だが、その実、迷宮四層攻略者だというのだから驚きだ。

おそらくそんじょそこらの探求者じゃ歯が立たないだろう。かくいう僕も戦闘訓練が始まって五ヶ月。彼に一撃も入れられていない。

しかし彼の言うように最初の斬りは良かった。会心の一撃と言ってもいい。


「簡単に躱す癖に良く言いますよ。少しは手加減してくれません?」


僕が嫌味を言ってみると彼はこれでも手加減してるんですけどねえと苦笑する。

驚いた、手加減してあの強さなのか。

剣の聖痕もかなり使い慣れて来たが彼にはまだ及ばない。恐ろしい男だ。いつ勝てるようになるのだろうか。


「迷宮デビューも3日後に迫っているのに大丈夫かな...」


思わず弱音を吐いてしまう。迷宮の魔物に僕の剣は通用するのだろうか。


「大丈夫ですよ。今のレン様の強さであれば四層でもやっていけます。私が保証しますよ」


ゲントはこう言うが不安で仕方ない。


迷宮は現在第五層まで攻略されている。深くなれば深くなるほど魔物は強くなる。第二層までは初級探求者が潜っても問題なく戦える。第三層になれば中級探求者でなければ一戦しただけで尻尾巻いて逃げ帰ることになるらしい。そこから先はもう人外魔境、地獄絵図。上級探求者だけで構成されたパーティでも毎日のように死者が出るほどだという。


そんな魑魅魍魎が跋扈する迷宮に僕は三日後足を踏み入れるわけだ。弱音の一つだって出る。


「さあ、立ってください。あと20戦ですよ」


...やっぱり迷宮の方が楽かもしれない。




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迷宮の果てで会いましょう @Napp

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