第2話
ふと目が覚めた。しばらくぼーっと宙を見つめる。寝起きの悪い僕はこうしないと二度寝してしまう。
やがて意識がはっきりとしてくる。
ここはどこだろう。見渡して見れば何やら高価そうな家具の数々。それによく見ると僕が今寝ているベッドもとんでもなく高価そうだ。全体的なイメージとしてはどっかの国の王様とかが寝ていそうな寝室。
何故そんなところに僕はいるのか。うーむと考え込むと思い当たった。気絶する前に出会った8人組。あれに捕まったのでは。しかし少女2人組みはともかく、あの小汚い男達がこんな豪邸に住むだろうか。
そんなことを考えていると不意に扉が開く。中に入って来たのはザ・メイドといった服装をした若い女性。思わずメイドさんと呼びたくなる。
そのメイドさんは僕を見ると、こう言った。
「お目覚めになられましたか、勇者さま。」
本当にどういうことなのだろうか。
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困惑のまま、旦那さまがお待ちです、とメイドさんに着替えさせられ、案内されたのはこれまた豪奢な部屋だった。しかし旦那さまとやらは見当たらない。
思わずメイドさんを見やる。
鬼がいた。
「椅子にかけてお待ちください」
そう言ってメイドさんは出て行った。閉まった扉の向こうからとても人に仕える者の声とは思えない怒声が聞こえる。
旦那さまはお待ちじゃなかったのかよとも思ったが、怒気を漲らせたメイドさんにそんなことを言う勇気は無い。
あれは怒らせてはいけないタイプの人だ。母と同じだ。
言われた通り座って待つとすぐに旦那さまと思われる二十代前半と思われる男がボコボコの顔で現れた。
「いやあ悪い悪い。待たせたね。さあ、話を始めよう」
話?僕は連れられてきただけで話なんて無いんだが。
「いや...話ってなんですか?」
そう言うと男はあれ?と首を傾げる。
「女神さまから言われなかった?◼︎◼︎を渡る時に」
その言葉に僕は混乱する。
「女神さま?◼︎◼︎を渡る?どう言う事ですか?」
そう聞くと、彼はあちゃーっと頭を抱える。
「あー、そういうパターンかあ...」
頭を抱えたまま何かを考え込んでいるようだ。
それにつられて僕も考え込む。
さっきから思っていたが、彼は恐らく◼︎◼︎人では無いだろう。外見からも分かる。ブロンドの髪、眼は紫。鼻も高く、おそらくイケメンと言われるタイプだ。
それに言語も◼︎◼︎語では無い。いや、聞こえるのは間違いなく◼︎◼︎語だが、声と口が一致していない。そしておそらくそれは僕も同じだ。話していると違和感がある。
◼︎◼︎ってなんだ?
あれ、そういえばこの男どうやって部屋に入ってきた?扉は開かなかった。窓も開いていなかったし...
まずい。
脳が揺れる様な感覚、
僕は何を考えていた?
全部普通のことじゃないか。
ふと男が上げて口を開く。
「君、名前と出身は分かる?」
名前と出身?
「名前は◼︎◼︎◼︎◼︎、出身は◼︎◼︎の◼︎◼︎...
...すみません。分からないです」
「...分かった。じゃあこっちが君について分かっていることを教えよう」
彼が言うに僕の名前はレン。ディタン王国の辺境に在るセトメト村村長の三男らしい。
そう言われるとなんだかしっくりくる様な気がする。そうか...僕はレンか...カッコいい名前じゃないか。
「僕のことは分かりましたけど何故ここにいるんです?」
「ああ、それについては今から説明する」
そう言うと彼は説明を始めた。
「君に来てもらった理由、それはこのディタン王国に存在する迷宮を攻略してもらうためだ。
迷宮と言っても何のことか分からないだろう。簡単にいえば魔物が出現する迷路だ。小国であるディタン王国が豊かで、国民が平和に日々を過ごせているのもこれによるところが大きい。迷宮には金銀財宝が山のように眠っているからね」
彼は一息おいて更に続けた。
「迷宮に出てくる魔物は危険なものばかりだ。罠だってある。一般市民が潜るととんでもなく危ないわけだ。そこで、国はギルドというものを作って登録した者以外を迷宮に入れ無いようにした。巷では探求者や冒険者なんて呼ばれてる。
迷宮に入れるのは基本的にギルドに登録した者だけ」
「だけど例外もある。それが君のような聖痕が現れたものだ」
彼はそう言いながらこちらの左肩を指す。
袖をまくってみるとたしかにある。剣のような形をした痣だ。
「聖痕持ちが現れれば国に直ぐに伝わる。
そして聖痕持つものには莫大な財産を与えられる代わりに迷宮に潜る義務が発生する。強制的にだ。それにしても剣の聖痕か、迷宮向きだねえ」
そう言って彼は紅茶の入ったカップを口に運んだ。
それにしても迷宮の攻略か。僕なんかに出来るんだろうか。
「最初は辛いだろうけどね。まあ死ぬことはないさ。聖痕は持つものに人を超えた力を与えるから。剣の聖痕は特に強力だね。まあもし迷宮内で死んだとしても蘇生は出来るから安心してよ」
「強力な力?」
僕が疑問をぶつけると男は意外そうに眼を向けた。
「そっちか。まあ、しょうがないのかな?剣の聖痕なら、そうだね...最低でも拳で巨岩を砕くくらいかな?聖痕のなかでも強弱があるからねぇ、中には一撃で城を崩す子もいるし...」
一撃で城を崩すってそれはもう人といえないのでは無いだろうか。
僕の場合どのくらいなのだろう。強いといいけど...魔物は強力みたいだし。
「心配しなくてもいきなり迷宮に放り出す何てことはしないよ。しばらくはここで戦闘訓練を受けてもらう。衣食住の心配はしなくていい」
それはありがたいが、彼はなぜこんなに面倒見てくれるのか。
「そりゃ僕はギルド長だからね、こういう聖痕持ちへのフォローも仕事の内なのさ」
なんだそうだったのか。
あ、そういえば。
「さっきメイドみたいな人に勇者さまって呼ばれたんですけどあれもなにか意味があるんですか?」
そう聞いてみると彼は苦笑して言った。
「レシアか。彼女は古の勇者の英雄譚に憧れているんだよ。だから君みたいな聖痕持ちは皆『勇者さま』なのさ」
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