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『シュメル――人類最古の文明』
『シュメル――人類最古の文明』中公新書 2019年12月20日10版
「お前は相変わらず、本読んでるな」
会社の昼休み、新書を開いていた私に、先輩が話しかけてきた。
「何の本だ?」
「『シュメル』です」
本の表紙を見せる。
「シュメル? シュメールじゃないのか?」
「あ、それ私も疑問だったんですが、この本の〈はじめに〉に面白いこと書いてありました」
〈第二次世界大戦中に、「
「……意外な裏話が……」
「著者曰く〈「シュメル」の方がアッカド語の原音に近い〉から、この本ではシュメルと表記したそうです」
この本を買うまでの経緯を、先輩に語る。
「小説投稿サイトのカクヨムで、公式連載の『神々のいない星で』を追っかけてまして。シュメル神話の神々が登場するんですが、私、シュメル全くわからないんですよ。
第二部になると、地中海付近に関係があるらしい、素性を隠している神様が出てきます。ギリシャ神話は多少知ってるつもりですけど、正体を推理するには他の神話の知識も必要かなーと思ってたとき、ネットで『古代オリエントの神々』って本を見かけて、ついポチッちゃいました。
シュメルのイナンナ女神がアッカドのイシュタルで、他の土地に伝わってアシュタルトと習合したりアプロディテになったりするのが、超面白くてですね! 同じ著者が書いた本を、
「推理はどうした」
「海か川の女神を調べたかったんですが、『古代オリエントの神々』にはあまり載ってないので、別方向から頑張りました」
ちなみに一応、予想は当たった。
「この本によると、メソポタミアってのはギリシア語で〈(両)河の間の土地〉という意味。ユーフラテス河とティグリス河に挟まれた地域です。『チグリスとユーフラテス』と言いたくなりますが」
「何の話だ」
SF小説のタイトルである。
「メソポタミアのうち、バグダードより北側がアッシリア、南側がバビロニア。バビロニアのうち、北側がアッカド、南側がシュメルです。
〈シュメルという地名はアッカド語で、シュメル語ではキエンギという〉って書いてあるので、『じゃあ、シュメル人は自分たちのことを〝シュメル人〟とは思ってなかったのか?』と考えたら、何だかよくわからなくなってきたので、シュメル人だと思うことにしました」
「聞いてるこっちも、ワケわからん……」
先輩が悩み始めたが、話を先に進める。
「シュメル人、最古の文字を発明したんですよね。トークンとブッラという粘土製の謎物体からウルク
〈シュメル語を表記する楔形文字は、我が国の「万葉仮名」のように文章のなかで表語文字と表音文字の両方に使い分ける〉そうです。発音を表す部分と意味を表す部分が合わさって一文字になってたりして、漢字みたい。
アッカド語はじめ、近隣の他のいろんな言語が楔形文字を借用して自分たちの文章を書いたため、楔形文字が書かれた粘土板が出土しても、各種言語を読める〈粘土板読み〉、文献資料を専門に読む研究者の育成が追いつかないらしく。初版2005年の時点での話ですけれど。
私、高校時代にコレ読んでたら、〈粘土板読み〉目指してたかもしれません」
「そこまでハマるか」
「読み終わった後に、クリスティの『メソポタミヤの殺人』引っ張り出して再読しました。アッシリアの発掘調査隊の話ですが、この隊員が〈粘土板読み〉か! って。
ところで私、以前、某大学の近所に住んでまして。バスに乗ったら、席に座ってる学生さんらしき女性が、単語カードをめくってたんですけど、立ち位置的にカードが目に入ったんですよ。
楔形文字でした」
「……そっか、そういう学科の学生だと、覚えるんだな……」
先輩がしみじみと納得する。
「あれが、私の人生で一番、楔形文字が身近にあった日だと思います」
「普通は身近にないぞ」
「大学で思い出しましたが、シュメルの書記は読み書きできないといけないから、学校があります。少し後の時代には〈元祖「学園もの」とでもいうべき、学校を題材とした文学も存在〉して、『学校時代』という作品がすごいんですよ。
生徒が学校で、字が間違っていると言っては先生に鞭で叩かれ、シュメル語の発音が悪いと言っては鞭で叩かれます」
〈そこで生徒は父に先生をお招きして、もてなしてほしいと頼む。父は先生を家に招き、なつめやし酒を飲ませ、食事を出し、さらに新しい服などを贈って先生をもてなした。もてなされた先生は手のひらを返したように、この生徒をほめる。〉
「……〝学園もの〟って、そういうのだったか……?」
○○しか紹介する気のない読書案内 卯月 @auduki
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