番外

『ゼロからわかるブラックホール』

大須賀おおすがけん

『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』

講談社BLUE BACKS 2011年6月20日第1刷発行


「お前、また本読んでるのか」

 会社の昼休み、新書を開いていた私に、先輩が話しかけてきた。

「何の本だ?」

「『ゼロからわかるブラックホール』です」

 書店の紙カバーを外して表紙を見せると、先輩が言う。

「……いつもとは随分、毛色の違うものを読んでないか?」

「最近、『人類が初めて目にしたブラックホール!』ってニュースがあったでしょう。思わず、昔買ったコレを出してきちゃいました」

 先輩に尋ねる。

「ブラックホールって、物理学っぽいブラックホールと、天文学っぽいブラックホールがある気がしませんか」

「藪から棒に何だ」

「アインシュタインが予言したりシュヴァルツシルトが計算したりホーキング博士が『蒸発する』って言ったりしてるのが物理学っぽいほうで、今回見つかったのが天文学っぽいです」

「いきなり意味わからんぞ」

「一般相対論? とか量子論? とかの難しい理論から、計算していったら出てくる話と。宇宙にある何かを観測して、結果を検討したらコレはブラックホールに違いない。っていう、研究の方向性の違いがある気がするんですよね」

「……そういうもんか?」

 先輩が首を傾げる。

「天文学っぽいブラックホールにも、『電波望遠鏡を使って観測した結果』『X線望遠鏡を使って観測した結果』『重力波望遠鏡を使って観測した結果』みたいな観測方法の違いがあるし、『観測結果を上手に再現できるか否か、コンピュータの中でシミュレーションした結果』なんかもあります」

「ちょっと待て、何か増えてきたぞ」

「ブラックホール自体も、重さ別で種類があって。太陽みたいな星が超新星爆発したあとにできる恒星質量ブラックホールは、太陽十個分くらい。銀河の中心にある超巨大ブラックホールは、太陽数百万個とか数百億個とか。中間質量ブラックホールっていう、恒星質量ブラックホールと超巨大ブラックホールの間くらいのもありますね。

 あ、最近ニュースになった奴は、『超巨大ブラックホール』を『電波望遠鏡を使って観測した結果』に該当します」

「……ほぉ」

 先輩が生返事になってきたような気がするが、構わず続ける。

「何でも吸い込んでしまうブラックホール本体と、ブラックホールの周りで回転しながら輝いているガス円盤と、ブラックホールから勢いよく噴き出しているジェットと。『ブラックホール』という単語一つだけで、絡んでくる話が山ほどあるんですよ。

 こういう本を書かれる専門家の先生って、もちろんその中のどれかのプロなんですが、オールマイティーではないはずなんですよね。でも、この本のすごいところは!」

 力説する。

「これ1冊で! その辺の話が全部! 載ってるんです! なのに全部わかりやすい! 『ゼロからわかる』ってタイトルはダテじゃない!」

「お、おう」

「私、ブラックホール本何冊か読んでますが、とりあえず1冊読んでみたいって人がいたら、迷わずコレを薦めますね。

 著者さんの専門は、コンピュータの中での円盤とかジェットとかのシミュレーションで、それを扱った章がやっぱり一番気合入ってて面白いんですけれど。

 ブラックホールが蒸発するっていうホーキング放射に関しても、〈私もすべてを理解していると自信を持って断言することはできません〉と言いつつ、〈私なりにかなり思い切ってかみくだいた議論を展開させていただきます〉って説明してくれるんです。何か、わかった気分になれてうれしいですよね」

「気分になるだけかよ!」

「……ホーキング放射の話は、一晩経ったら忘れますね……著者さんには申し訳ないですが……」

「まぁ、偉い先生が、自分も全部は理解してないかもって言ってるわけだしな……」

 ホーキング博士にも申し訳ない。

「著者の先生が、ご自身の専門分野に振り切った話を繰り広げてくれるブラックホール本も、それはそれで大好きですよ。

 ブルーバックスの『巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る』は、先日記者会見していらしたあの先生が2017年の観測直前に書かれた本で、イベント・ホライズン・テレスコープを使って実際どのようにブラックホールの撮像に挑むかって内容で面白かったです。

 ブラックホールを撮像したらこういう風に見えるはず、ってのは、以前からコンピュータの中でシミュレーションされているんですが。どういう計算をしてどうやって画像を作るかという研究に関しては、小説投稿サイト「カクヨム」に天文学者の先生が投稿された『ブラックホールシャドーを求めて』って作品が、めちゃくちゃ詳しくて楽しいです。あれが無料で読めるなんてすごい。

 っていうか、せっかく素晴らしい作品が投稿されてるんだし、カラー図版付きで本になったら確実に私が買うのでお願いですから書籍化してください」

「誰に言ってるんだお前」

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