第29話 対策そして共闘
「助けてくれよぉ!こんなことになるなんて!」
「わかりましたから。すぐに近くの門から集落を出てファーノ地区へ向かってください」
ユリウスは混乱している住民達を集落の外へ誘導する。
彼女達は一度ユリウスの提案を黙殺あるいは無視し、危険と忠告した住居地区へ戻った人間であり、ユリウスにとっては手を差し伸べる義理は無いのだが、キベルシアと溢れるほど蘇生された魔物という脅威に対して優位を保つには広範囲を対象とした大規模な魔法を使いたいユリウスにとっては集落内に住民がいるのは好ましくない。
「くっ……それにしても……」
ユリウスは目の前の光景に思わず歯噛みする。
「目を覚まして!逃げましょうよ!」
「あれは……敵……潰すべきもの……」
キベルシアの支配下にある自警団員は未だにその支配を受け続け、その現実を受け入れようとしない彼らの家内が傷付きながら身をもって止めようとしている。
自警団員も住民であるため集落の外に誘導したいが、あの状況ではユリウスには誘導しようがない。
「こうするしかないのか……!」
ユリウスは数秒魔力を練り、目の前で組み合っている自警団員とその妻に向かって転移魔法を放つ。
二人は白い魔力に包まれ、一瞬でその場から姿を消した。
彼らの転送先はファーノ地区側の集落の外だ。
自警団に対する洗脳が土地神によるものならば集落から出てしまえば、その支配は及ばなくなる。
支配が及ばなくなれば洗脳は解け、そこからは個人の判断が出来るようになるはすだ。
それでも彼らが集落へ戻るようならこれ以上ユリウスが助力する必要もない。
「これで少しずつやっていくしか……ないか」
ユリウスは直剣を振り回して周囲の蘇生された魔物を薙ぎ倒しながらぼやいた。
もちろんユリウスの魔力は無限ではない。
集落に来てから戦闘が起きてない日は毎日枯渇するほど魔法を使っていたため、その反動で魔力内包量は集落に来る前より数段増えているが、それでも魔力切れの心配が無くなる程ではない。
蘇生された魔物を一掃するための魔力は残さなくてはいけないため、転移魔法も使用できる回数が自ずと限られてくる。
全員を転移魔法で飛ばすことはさすがに出来そうにない。
「おおおおお!!!」
「!?」
周囲の魔物を一通り撃破したユリウスの後ろから雄叫びと共に一人の自警団員が斬りかかってきた。
ユリウスは一歩後退り、その自警団員の剣を直剣で受け止める。
「はん……見た顔じゃないか」
斬りかかってきたのはリスマルの父親、リスリッドだった。
しかしユリウスの言葉も聞こえていないようにリスリッドは、
「殺す……倒す……」
と呪文のように呟きながらユリウスへ剣を押し付けてくる。
こういう状態になった自警団員は執念こそ物凄いものの、元々の動きと比べるとかなり反応が悪くなるのをユリウスはこれまでの観察で感じていた。
ユリウスは素早く体重移動をしてリスリッドに足払いを仕掛け、その足払いに反応できなかったリスリッドは両足を払われて脇腹から倒れる。
ユリウスは体勢を崩したリスリッドの剣を直剣で弾き飛ばし、自分の直剣を地面に刺して右手でリスリッドの胸ぐらを掴む。
「いい加減に……目を覚ましな!」
そして振りかぶった左手の拳をリスリッドの顔面めがけて勢い良く放つ。
ゴッという鈍い音と共にユリウスの拳はリスリッドの顎に綺麗に入りリスリッドは倒れて動かなくなった。
ユリウスは近くに魔物が湧いていないことを確認し、近くにあった井戸まで行って汲んだ水をリスリッドの顔に思い切りかける。
「がはっ!?ゲホッゲホッ……」
冷水の影響でリスリッドの意識が回復したようで、リスリッドはむせながら起き上がる。
ユリウスを見ても襲ってくる様子もなく、気落ちした表情で座り込むだけだった。
「お目覚めだね。気分はいかが?」
「気分か……最悪だ。守り神はどんな状況でもこの集落を守ってくれるとばかり思っていた。俺達も、集落そのものも……あんたを潰すための道具にするなんて……」
「そこまでだ。落ち込むのは、力を尽くしてからにしろ」
ユリウスは地面に刺した自分の直剣を抜き、続いて弾き飛ばしたリスリッドの剣を拾う。
「力を、尽くす?」
「そうだ。まだ終わってない、まだ誰も死んでない。貴方に出来ることはたくさんある」
リスリッドはユリウスの言葉を聞くと、力強く自分の剣を受け取る。
「教えてくれ、俺に出来ることを。集落の仲間のためならどんなことだってしてやる」
「……良い目だね。存分に使ってやろう。状況説明したいところだけども……」
二人の周囲を大量に蘇生された魔物が囲っていた。
ユリウスとリスリッドは背中を合わせて剣を構える。
「まずはゆっくり話せる環境を整えよう」
「任せろ。魔物共め……操られた鬱憤晴らしになってもらうぞ」
僕は僕として 純須川スミス @kuzusyu
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