第二十話「逃走」

アメリアをあえて自宅に送り届けてのはその実家の権力による警備の厚さと侵入してくるものが大っぴらにしたくないという事情を悟ったものだった。

そこへ俺たちが明日の朝迎えに行くと言えば、

さて狭い酒場であんなに大声で叫んでいた連中がいたからと言って聞いていない……聞き耳を立てていない連中が一人もいないと断定できるだろうか。

「ありえないな」

「こういう時の楽観視は死亡フラグ一直線だしな」

そういって話すのはアメリアの屋敷のそばで闇に姿を溶け込ませた新人アサシン(姿だけ)の二人。

「こいつらから逃げる時……やったか?って呟いてもいいか?」

「つぶやいた瞬間に置いていくけどな」

「手厳しいなぁ、そんなに細かいことにまで気を配ってたら禿るぞ」

「はげねぇよ」

「いいや禿るね」

「だからはげねぇって!」

「二人とも何を?」

「「うぇいぃ⁉」

そこに立つは昼間の酒場で一緒だった三人のうちのもう一人、二人が迎えに来た、否。さらいに来たアメリアその人であった。

「随分と早かったな、というか荷物まぁまぁ持ってるのに警備に良く見つからずにここまで来れたな」

「協力者はいるのよ……少ないけど」

「その協力者さんが都市の外まで逃がしてくれたら最高かつ最も楽に進めそうなん だがな」

「私にこれ以上協力した証拠を作るのは彼女のこれからにもよくないから」

それもそうだ、と二人は妙に納得してうなずいた。

 それにそんな不穏な話をしてはいるがおそらく彼女の両親は彼女が事を起こそうとしていることを察知しているだろう。

可愛い子には旅をさせよとか、思い出される言葉はいくつかあるがいずれも親が子供を思ってのことだ、親が彼女の決断に気づいていると考えるとその協力者さんは処分されるわけがないのである。

大体商人としての地位を彼女に譲るという話も今すぐというわけではなく旅をさせて経験を積んでからという話だったし、殺し屋的な存在も出てくる意味が分からないのだがこういう時は早とちりして後継者の選抜に入ったとかそんなことをあることないこと交えて喋ったやつがいるのだろう。

人のうわさも75日とは言うがそんなに待っていたらおそらく首と体がお別れするか何かで命が途切れるだろう。

「さて行こうか、藤堂」

「……ああ、さっさと行こう。夜行馬車ってのがあるのも不思議っちゃ不思議なんだが暗い場所で馬は走ってくれるものなのかね」

「そういう風にしつけてるんじゃないかしら」

「たぶんそうだろうね、睡眠とか昼夜逆転するのは人間と同じで体には悪影響だろうに夜行馬車とか考えたやつはもっと利便性以外のことに目を向けるべきだな」

神宮寺の奴はなにやらまじめなことを言っているがそういうキャラの気分なのだろう。

放っておいてあげるのが一番だ。

さっきまでの暗殺者もどきの不審者丸出しの格好はどこへやったのか彼らは街の空気に溶け込んでいる。

馬車乗り場に行くためにはどうしても街中を通るのが最も安全でこうも人が多いと知り合いに気づきにくい、気付かれにくい。

……これはギルドのお姉さん(クエスト発注間違えた人)の話によると俺たちが逃げ切るためには馬車に乗ることが条件らしい。

要は、彼らは商会の長としての権限を欲しているだけなのだ。

今俺たちが逃げていると思われると……つまり一時的に姿を隠してこの国に潜伏するつもりだと判断されるとアメリアが商会を継いでしまうので殺しに来るだろう。

だが旅、それも年単位で帰ってこないとなれば彼らは殺す理由がなくなる。

アメリアの両親は旅を数年単位で帰ってこないものと考えているためその間に他の勢力は商会を手に入れてしまえばいいのだ。

死んでしまったことにして後継者として名乗りを上げるなり、アメリアを味方につけたり婿候補となればいずれ商会は彼らのものとなる。

わざわざ人を殺して汚名を受けるリスクを負うことなく商会の長としての権限を手に入れることができるなら確かに俺もそちらを選ぶが。

乗った時点でまず他国へ行くことが決まるのが夜行バスで、途中下車などが一切聞かないのが夜行バスなのでまず乗った時点で攻撃は止むのだとか。

とんだご都合主義である。

そして随分と甘い連中だ、と俺は思った。

追い出したらそれで問題なしと思っているそうだがそんなんでよく今までやってこられたなぁ……。

馬車乗り場外観の端に入ってくる。

あの場所にたどり着けたならば俺たちの勝ち。

残り、約百メートル。

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僕ですか……ただの男子高校生ですよ? ゆうさと(新米剣士) @yuusato

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