宇宙一ハッピーな星とともに
「うっ……はぁっ、はあっ……はあっ」
また体内が茹で上がるように熱くなって、息が荒くなってくる。立っているのも辛いぐらいだ。さすがに男の娘パワーを使いすぎた。
だが、今は俺の体よりもペン子さんのほうが心配だ。あれからピクリともしていないし……。
「待ってて、ゆりちゃん……今、ボクが治してあげるから」
弥生はペン子さんの頭に手をかざすと――そこに光を照射する。あの手刀といい、弥生はやっぱり宇宙人で魔法使いなのか……? もはや男だとか女だとか、そういう次元をさらにに超えてしまっている。
弥生の回復魔法(?)によって、信じがたいことにペン子さんの傷は本当に治癒していった。みるみるうちに、出血が止まり、傷口が塞がっていく。
「あ、あれ……? す、すごいです……痛みがまったくなくなりましたっ……」
ペン子さんは不思議そうに呟きながら、起き上がる。
「ふむ……双木、貴様は本当に魔法使いなのか……?」
「うん……ボクの星では、多くの人間が魔法は使えるからね。科学も地球以上に発達しているし……それより、ゆーくん、大丈夫? かなり、辛そうだけど……」
「あ……ああ、でも、ちょっと落ち着いてきたかな……」
「あっ、ゆ、雄太さん……本当に、すみません……大事なことを隠していて」
「いえ……まぁ、この際、水に流しますよ……。ここで戦わなかったら、とんでもないことになっていたと思いますし」
仲間はもちろん、なんだかんだで応援してくれているファンや、学校の生徒たちが傷つく姿は見たくない。それに、皆殺しとか物騒なことを言ってたしな……。そんなことを許すわけにはいかない。
しかし、このまま戦い続けたら、本当に俺はこの姿のままになってしまうのか。
……。
ま、まぁ……それはそれで、そんなに悪くない気がしてくる。俺も毒されてきた!
ともかく、この状態で戻れるのか試してみよう。これで戻れなかったら、本格的に男の娘として生きていく覚悟を決めないといけないかもしれないっ。
「…………元通りになぁ~れ♪」
緊張しながらも、いつもの台詞を口にする。
いつもは瞬時に戻るのだが――今回は、なにも起こらない。
「……戻らない、か」
うわぁ……これ、本格的に男の娘としての道を歩まねばならんのか、俺はっ……! ま、まだ心の準備がっ。
「あれ……? …………おっ!」
5秒ぐらいしてから、ようやく体が光の渦に包まれ始めた。
そして、光が収まったときには、いつもの冴えない俺に戻っていた。
「な、なんだっ! 戻れたじゃないかっ! ……ふう、無駄に焦らしやがってっ! なにはともあれ、これで一件落着か!」
胸を撫で下ろす俺だったが――
「あぁあああんっ!? 美少女が牝野に変身したぞぉ!?」
「なぬぅううっ!? あの美少女の正体は牝野だったというのかぁあああ!?」
「詐欺だぁあああああああああああああああああああああああああ!」
「マジ激おこぷんぷん丸空母仕様なんですケド!?」
し、しまった! こいつらの見ている前で変身を解くとか、軽率すぎたああああっ! なにやってんだ、俺っ! うっかりにもほどがあるだろっ!?
「……ってか、あのペンギンみたいなの着ているの百合宮さんじゃね?」
「それにさっき、弥生の手からなんか出てたじゃん! マジ意味不っ!」
「なんか宇宙人とか魔法使いとか変なこと言ってなかった?」
しかも、今になって色々と気がつきやがった!
うわあ、面倒な事態になった!
「こ……ここは私が説明します!」
ペン子さんは観客のほうを向いて、話し始める。
「皆さん……今まで隠していて、申し訳ありませんでしたっ! 実は、私は男の娘戦士推進団体の職員なんですっ。そして、牝野さんには無理を言って、男の娘戦士として戦ってもらっていました。なので、皆さんを騙そうとしていたわけではないんです。……ですが、結果として誤解を招いてしまったのは、私の責任です。本当に、申し訳ありません!」
そう言って、ペン子さんは深々と頭を下げた。そうされてしまえば、観客も矛を収めるほかないようだった。
「ま、マジであれが牝野なのかよ……!」
「……にしても、牝野があんなに綺麗になるなんてなぁ……」
「美少女すぎだろ。いや、美少男なのか?」
「……俺、やっぱりBLに走ろうかな……」
微妙に身の危険を感じないでもないが……まぁ、なんとか納得してくれたみたいだ。そして、今度は弥生が前に出る。
「ぼ、ボクも……説明するよ。みんな、今まで黙っててごめんねっ。ボクは宇宙人で魔法使いなんだ。本当は地球を侵略するためのスパイだったんだけど……これからは、地球のために戦わせてほしい! それに、またみんなと一緒に学校で過ごしたいんだ!」
「双木が宇宙人で魔法使い……?」
「ううっ、わけがわからなくて頭が追いつかねー!」
「こんなにかわいいんだから地球人のわけないじゃないかっ!」
……まぁ、こいつらにわざわざ説明することもなかった気もするが……。
「まー、よくわかんねーけど、面白そうだからいいんじゃねーの?」
結局、その一言で済んでしまうんだから、ありがたい連中なのかもしれない。
「それにしても……今回は皆に迷惑をかけた。……わたしとしたことが、ここまで助けられることになるとは……」
珍しく、乙女が俺たちに頭を下げてくる。いやっ、その必要なんてこれっぽっちもないのだが。
「俺たちは仲間なんだから、そんな気にすることないだろ? 俺だって、ペン子さんに助けてもらったし、あのとき弥生が一瞬の隙をついてくれなかったら、どうにもならなかった。俺たちの誰一人欠けても、勝つことはできなかったんじゃないか?」
ついでに言うと、己の欲望に忠実なファンどもが乱入しなかったら、勝機がなかったわけで、すっごい複雑な気分だ。
「……ええと、弥生。あの女は四天王とか言ってたけど、やっぱり他にも幹部がいるのか?」
「う、うん……でも、大丈夫だよ! ゆーくんのことは絶対にボクが守るからっ♪それに、今回の活躍で、そう簡単に地球を侵略しようとはしないと思うよ! ゆーくんも、おとちゃんも、ゆりちゃんも、そして学校のみんなもすごい活躍したから! 僕がこうして過去を振り切ることができたのもゆーくんやみんなのおかげだよっ! ……でも、やっぱりゆーくんのキスが一番うれしかったな♪」
そう言って、弥生はいつものように俺に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと待て、こんな衆人環視の中でっ」
「あははは♪ ねぇ、今度はボクからキスしていい?」
「なっ、そ、それはだめだ! ……ってか、まだ俺はそっちの世界に行くにはまだ心の準備がっ!」
勢いで、好きとか言ってキスしちまったが。ライク以上ではあるものに、ラブかというと違うっ。それに、ペン子さんにも気があるのは確かなのだがっ!
「いーじゃん、減るもんじゃないしー! んーっ♪」
「まったく、破廉恥な……」
「きゃっ……弥生さん、すごい大胆です……」
「うわぁああああああっ……!」
乙女とペン子さん、そして観客の見ている中で、俺は思いっきり弥生にキスをされてしまう。
こうして、俺たちは宇宙を超え、性別を超え、常識を超えて、地球の危機を救うことができた。
仮にもし新たな侵略者が現れたとしても、俺と、弥生と、乙女と、ペン子さん、男の娘戦士推進団体のメンバー……そして、誠に遺憾ながら濃ゆいファンとアホなクラスメイトたちがいれば、俺たちはずっと地球を守ることができると思う。
とにもかくにも、地球にはとりあえずの平和が訪れたのだ。
なんだかんだで、俺もこの自由すぎる地球が好きだから。
これからも男の娘戦士としてやっていけるだろう。
(第一部)完
超かわいいJK風男の娘戦士になってしまった俺はアホなクラスメイトや濃ゆいファンから応援されて恥ずかしい動画を撮られながら宇宙からの侵略者と戦う!? 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha
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