時の流れにリボンをかけて

平原佑記

小さな魔女の贈り物

 顔を上げると、夜空を切り裂く三日月が、風によって細切れにされた薄い雲の切れ端を、ゆっくりと染め上げていくところだった。

 時計の針はちょうど12を通り過ぎ、どこからともなく鳴り響く鐘の音が、シンと冷えた空気を微かに震わせる。

 どうやら世間はクリスマスへと、その足を踏み出したようだ。

 まるで蒔絵のように、散りばめられた星々までもが心なしか華やいで見える今宵。その空にほど近い、幾何学的な模様と流線型のフォルムが目を惹く繭のような建築物の。新宿のシンボルタワーでもあるその場所で、一人の少女が幻想的に輝くクリスマスツリーを見下ろしていた。


「おい、エメ」


 吹きすさぶ空っ風に煽られ広がった、腰まで届く長い髪を苦労して手で押さえれば、その拍子に上空からかけられる声。

 夜空に溶けるような真っ黒いワンピースの裾はためかせたエメは、上着を羽織るでもないのに平然と振り返り、更に五メートルほど上からこちらを見下ろす男を認め、白い息を都会の闇へと放った。


「レーヴ。箒、新調したの?」

「まあね。もう古かったし、今日は忙しいからスピード出るヤツ奮発したんだ。サンタクロース商会と魔術師商会、年に一度の威信をかけた闘いだから」

「どちらがより、多くのプレゼントを配れるか?」

「そそ。サンタクロースは物理的なプレゼント、魔術師は心情的なプレゼント。どうやってカウントしてんのかはしらねぇけど、成績良けりゃボーナス出るしな。……ってか」


 一度言葉を切ったレーヴはエメの周囲をぐるりと見回し、


「お前は相変わらず、賑やかにしてんのな」


 と、苦笑を浮かべた。


『それは、我々のことか? 小童こわっぱ


 すると、頭に直接響く不思議な声と共にエメの身体を駆け上がり、華奢な肩にもかかわらず難なくその身を落ち着かせたのは、光で溢れた街並みよりもよっぽど暗く艶やかな肢体。ピンと伸びた耳に、挑発するように揺れる尻尾。漆黒という言葉すら似合うほどの吸い込まれそうな闇の中、金色に光る大きな二つの目。

 見つめればそれはギョロリと動き、レーヴを鋭く見据えた。


「おうおう、お前さんも貫禄たっぷりになって来たね~。えーっと、……黒猫さん?」

「カクヨム」

「……あれ? そんな変な名前だったっけ?」

トゥエール・ッツェリン。略してカクヨム。変じゃないし。

 てかキムタクっぽくてカッコいいし」

『うむ。ナウでヤングじゃ!』

「あっははっ。わりぃわりぃ」


 口とは裏腹、全く悪びれもせず笑い飛ばすと、レーヴはエメの隣にふわりと降り立った。


「おっと、ととっと。さ、さみぃぃぃ」

 瞬間、一際大きな風が二人の間を吹き抜けていく。

 バランスを崩したレーヴは慌てて箒でその身を支え、堪らずといったようにコートの襟を掻き合わせた。


『軟弱者っ。おぬし顔はそこそこ精悍じゃのに、如何せん情けない。人間じゃあるまいし、煩悩に捕われ過ぎとるんじゃないのか?』

「良いんだよ。これが俺のスタイル。ね?」


 カクヨムからは同意は得られないと悟ったのか、レーヴは小首を傾げ、もう片方の肩に居座るフクロウへと渾身の艶笑を向ける。


『……知らない』

「レーヴ、嫌われてる?」

「え? 通じねぇの? 俺の美貌」

「この子、雄だし」

「マジかっ! て、いやいや、これって、お前の教育方針のせいじゃないの?」

 そっちのハムスターちゃんは? げ、カメレオンちゃんまでいるの?


 エメを囲む多くの生き物に次々問いかけていくが、結局最後の一匹になっても色よい返事はもらえないようだった。


「分が悪いから、退散退散……」


 すごすごと箒に跨ろうとする彼目掛けて。

「……何しに来たの?」

「え? あ、そうだそうだ! いっけね、忘れるとこだった」


 レーヴはハットをかぶり直すと、チェスターコートの内ポケットへと手を入れる。


「ほらよ」


 言葉と共に出てきた手には、赤いリボンが握られていた。


「え?」

「俺らに誰かからプレゼントもらっちゃいけないなんて決まり、ないだろ?」

「……え?」


 差し出される手と、向けられる優しい眼差し。エメの瞳はその二つを忙しなく往復するだけで、一向に手を伸ばす気配がない。

 動物たちも、害をなすようなならず者からなら主を守ろうと動けるのだが、何とも癪なことに、このちゃらんぽらんな性格に反し、今のレーヴからは純粋な好意しか伝わってこないのだ。動物だからこそ敏感に察知できる人の機微。それだけに、今はカクヨムですら不本意ながらといった態度を示しつつも、結局は静観する姿勢を取っていた。


「仕事遅れるから、勝手につけるぞ」


 やがて痺れを切らしたようにエメの背後に回ると、リボンを器用に小さな頭に巻き付け始める。


「ちょっ」


 エメがその行動を理解し漸く我に返った頃には、メリークリスマス! 大声で叫びながら遠ざかる背中が、イルミネーションの光を投影しつつ消えていくところだった。


『おぬしはいつも黒一色じゃからな。じゃが華やかなのも、存外似合うぞ』

「カクヨム……」


 滑らかな感触を一撫でして、箒に跨り下降する。

 ガラス張りの建物に映った自分。


「これって……魔女子さん?」

『ということは、わしは……』

「ジョジョ?」

『そうとも! 我こそが希代の波紋の使い手っ!』


 ヒョォォォォ。


「……わたしは承太郎が好きなのだけれど」

「な、なにっ!? って突っ込むのはそこじゃないわいっ』

「え?」

『ジョジョではない、ジジじゃ!』

「あなた、ジジなの?」

『キムタクである!』

「……」

『いかん! 間違えたっ! カクヨムである!』

「うん、そうよね」

『…………さぁ、クリスマスじゃ! 忙しくなるぞっ!』

「ふふ、そうね、行こう」


 闇夜を滑空する一人と動物たち。一匹、哀愁漂う背中なのであった。



『行先は?』

「……さっき見つけた」

『そうか』


 ポツリと零せば、打って変わって憂い顔となってしまったエメを、心配そうに見つめる面々。


 クリスマス。現世うつしよに住む人間にとっては、何とも楽しく心地好い日であろう。けれどもエメが担う“プレゼント”は、必ずしも楽しいものばかりではない。

 そんなことは長い年月の中で百も承知のはずなのに、カクヨムは夜風に晒され赤くなった頬を暖めるように擦り寄り、願わずにはいられない。

 この優しい小さな少女の心が、少しでも軽くなりますように――と。



☆ ☆ ☆



「ねえ、佳奈子」

「どうしました? 壮介さん」


 小さなダイニングテーブル。向かい合って座る二人の前には、蝋燭の光に照らされ宝石のように輝く大ぶりの苺が乗ったショートケーキと、泡の立ち昇るフルートグラスが一組ずつ。

 互いのシャンパンが少し減り、佳奈子のケーキが二かけらほど齧られた頃、意を決したように壮介は顔を上げた。

 夫婦の足元にはクリーム色のゴールデンレトリバーが眠っており、その前にも犬用の小さなケーキが置かれていたが、それはまだ手を付けられた様子はなかった。


「定年より一年早く、退職しようと思うんだ」

「まあ」


 フォークを置き、驚いたように目を見開く佳奈子。けれども、その口元は穏やかな弧を描いていた。


「それは、素敵ですね」


 そして、満面の笑み。


「怒らないのかい?」

「怒る? 何故? 私が今考えていることとあなたの心が同じなのならば、それはとても素敵なことに他ならないわ」


 佳奈子は椅子を降りると、足元で蹲るゴールデンレトリバーの頭を優しく撫でた。


「私たちにとって、この子は子供みたいなものですもの」

倉科くらしな先生が昨日仰ってた。あと三ヶ月生きたら、御の字だそうだ」


 壮介もしゃがみ込むと、その背中をそっと撫でる。


「僕は意外と真面目だったからね。有給も溜まってるし、多分間に合うと思うんだ。というか、ラッキーならきっと待っててくれる。一緒に過ごす、最後の時間をさ。

 そして、僕たちの、倉科先生の予想を超えて、もっともっと長い時を生きてくれたなら、そのときはみんなで旅行へ行かないか? ラッキーはこの近所しか知らない。海だって見たことない。だからその命が続く限り、多くの場所へ」

「まあまあ、それはもっと素敵な提案ですね!

 それに意外じゃないわ。あなたはいつだって、とっても真面目」

「ははっ。喜んでいいのかな? ……ん?」


 と、壮介が徐に窓の外へと目をやった。


「どうかしました?」

「あ、いや、今窓の外が光ったような気がしたんだ」


 佳奈子も倣って目を向けたが、そこはいつも通り濃紺のベールが下りる、ささやかな庭。


「どこかのお宅のイルミネーションじゃなくて?」

「分からない。ごめん、そうかもしれない」

「クリスマスですからね、今日はどこもかしこも綺麗にお化粧していて、幻想的です」

「うん。あ、そうだ、明日っていうか、もう今日か。タイムズスクエアの所のツリー、見に行こうか。ラッキーも」

「まあ、それは名案ですね」


 佳奈子がはしゃいだ声を上げれば、むくりと顔を上げたラッキーがその頬をぺろりと舐めた。


「ラッキーも賛成だそうだ」

「ふふっ」





「はい、チーズ」

「まずはやっぱり渋谷のハチ公から。同じ犬としてね」


 ――そして宣告された三ヶ月が過ぎて。


「レインボーブリッジよ。大きいわねぇ」

「人工の砂浜だって捨てたもんじゃないだろ? ラッキー」

「ワンッ」


 ――やがて春が過ぎ。


「ラッキーよ、大志を抱け!」

「壮介さん、ラッキー、博士と同じポーズでお願いね!」


 ――夏が過ぎ。


「おお、これが“塔のへつり”かぁ。百万年なんて、気が遠くなるほど長い時間だなぁ」

「ええ、本当に。それに紅葉がとても綺麗」

「マイナスイオンがラッキーに良さそうだ」


 ――歩行が少しずつ困難になった秋が過ぎても。


「桂浜ー!」

「海が綺麗だね、ラッキー」

「坂本竜馬、大きいなぁ」

「ワンッ」


 ――そして遂に、季節は一つ巡り。


「今日はいい天気だなぁ」

「ええ、本当に」


 二人と一匹、陽が差し込むリビングで、たくさんの笑顔が咲く写真に囲まれて。


「人生を、よく旅に例えたりするけれども、僕は旅もまた人生だと思うんだ」


 カウチに座り、佳奈子もラッキーも静かに耳を傾ける。


「ワクワクしたり、感動したり、疲れて休憩したり、美味しい物を食べたり」

「本当、そう言われたらそうですね」

「……ラッキーは、残された時間の中での、旅という二つ目の人生を、楽しんでくれただろうか?」


 もう歩くことすらままならない。

 北海道から沖縄まで、正真正銘日本を一周した頃、旅は緩やかに終わりを告げた。


「楽しくなかったら、こんなに長く生きたと思いますか?」


 言葉にしたら、どうしたって声は震えてしまった。

 家族で過ごす時間は、いつだって笑顔でいたいと思うのに、そんな建前なんか捨ててしまえと、心が哭いているようだった。


「……うん。でも最近ラッキーは、夜中になると声を上げる。きっと、痛くて苦しいんだ。その切ない鳴き声が、もう楽にしてくれって言ってるように思えてならない。

 佳奈子、かなこ……僕は余計なことして、辛い時間を長引かせたことになりはしないだろうか?」

「……壮介さん」


 訪れた、流れ落ちる涙の音すら聞こえそうなほどの静寂。それは二人と一匹の、騒がしくも楽しかった日々を、深く深く心の奥底に無理やり押し込めたような、そんな哀しみに満ちていた。


「――そんなわけないじゃないっ!」


 と、突如、それを破る、微かだけれども力強い声。


「え?」


『こら、おいおい』

『離してっ、レーヴ!』


「今、何か聞こえませんでした?」

「うん。でも」


 視線を巡らせ耳をすませるが、先程聞こえた声の気配は、もうどこにもなかった。


『お前はいつも飄々としてるくせに、動物のこととなるとどうも感情的になるのがいただけない。人間の記憶を書き換えることは可能だが、そうするとお前を待つのは、くそ忙しい最中さなかの始末書だぞ』

『だって!』

『だってもヘチマもねぇ。お前が掛けたのは、あいつが、が、未練がなくなったと思えたその瞬間まで、肉体に流れる時間を停止させる、そういう魔法だ。つまりはあいつの意志でここまで生きた。悪戯に命を延ばしたわけじゃない。決してお前が苦しめたわけじゃないんだ。

 それに、力を使っての医療行為は禁止されている。魔法ってのはそういう制限のある代物だ』

『……そうだけどっ』

『けどは聞かない。

 お前はあいつとあいつの家族に、掛け替えのない時間と、最高に幸せな想い出をプレゼントした。傍で見守っていたお前が、そんなの一番分かってるんじゃないのかよ。

 ――自分を責めるな。責めたら、お前が可哀想だ。責めたら……俺が許さない』


 頭に置かれた大きな手は、少し乱暴にエメの頭をかき混ぜた。

 動物たちも、優しくそっとその身を寄せる。


『う、ううぅ……』


 感情なんて、ちっともままならない。

 俯き、唇を噛みしめたって、震えるそれも、零れる涙も、止めることは叶わなかった。


「あら、雪」


 すると。


「本当だ。天気雪? 聞いたことない。ラッキー、ラッキー? 雪だぞ」


 蹲った姿勢のまま、少しだけ目を開いたラッキーは、庭先のある一点で視線を止めた。暫くじっと見つめたのち、佳奈子の腕の中、やっとのことで身じろぎすると、甘えたように頬を擦り寄せる。


「うふふ、ラッキー、あなたとっても温かいわ」


 同じように、壮介の頬にも顔を寄せた。

 満足げに一舐めしてゆっくりとその身を預け、そして静かに、安らかに、二人が同時に瞬きをしたその刹那。

 まるでそのときを待っていたかのように――そっと息を引き取った。


「ラッキー?」


 佳奈子が頭にキスをする。やんわり抱きしめたけれども、震える腕はどうすることもできなかった。


「晴れているのに雪が降るなんて……最後に神様が、ラッキーに見せてくれたのかしら」


 もう息をしていないなんて信じられないくらい、温かい身体を慈しむように撫でる。

 お疲れ様、胸がつかえて言葉にはならなかったけれども。


「涎まみれの僕のメガネが、何だか恋しいよ」

 流れる涙は、そのままに。

「町内会費として取っておいた二千円を食べてしまったこともあったわ」

 それでも笑顔になれるのは。

『たくさんの想い出を、ありがとう』


 共に過ごした日々が、間違いなく幸福であったから。


 陽の光を浴びる、床を埋め尽くさんばかりの写真たちは、まるで温かな日々を象徴するかのように輝いていた。



『ラッキー、わたしはあなたを、あなたの家族を、幸せにできた?』

 

 まるで慰めるように涙を舐め取ったラッキーを、エメは堪らず抱きしめた。


『辛かったじゃろうに、お前は実に優しいのぉ。

 ようこそ、今日からおぬしも我らの一員じゃ。歓迎するぞ』


 お決まりの定位置、エメの右肩から、カクヨムが顔を出した。

 その顔もラッキーはペロリ。


『なんとも素晴らしい! これならすぐに、人の言葉も話せるようになるじゃろうて』


 庭先を振り返る。


『もう、良いの?』


 問いかければラッキーは、もう一度だけ名残惜しげに振り返り、千切れんばかりに尻尾を振った。


『ワン!』


 さようならとも、ありがとうともつかない、切ない声で一鳴きし、エメへとそのつぶらな瞳を向ける。しかしよくよく見れば、別れを悟った哀しい瞳。

 忍びなくて、断ち切るように、温かな家へ背を向けた、


 ――そのときだった。


「あらあら、壮介さん」

「これはっ……!」


 陽光と雪が織り成す、目が眩むほどの幻想的な景色の中、真っ白い雪に真っ黒なワンピースのコントラストが鮮やかに浮かび上がる。

 けれどもその存在は対照的で、どこか儚く、不確かなほど淡く、にもかかわらず凛と佇む、赤いリボンの少女が二人の瞳に映し出された。

 傍らには、ラッキーと、たくさんの動物たち。


「――え? どうして」


 驚いたような声音に振り返れば、合うはずのない視線が、しっかりと絡み合う。

 目を見開くエメ。

 そして。


『始末書は、俺が書く』


 振り向けば、レーヴがそっと微笑んでいた。


「あらあらまあまあ! あなたは、もしかして……天使かしら?

 あなたが、ラッキーの水先案内人をしてくれるの?」


 膝の上で横たわるラッキーを壮介に預け、サンダルを突っ掛け出てくる佳奈子。

 戸惑うことしかできないエメが視線を彷徨わせれば、縁側まで乗り出した壮介の、驚くほど優しい眼差しが自分を捉えていることに気づいた。


「水先案内人というよりは……」

 彼は、エメの周りを取り囲む動物たちをぐるりと見回し、

「新しいラッキーの家族、かな?」

 そして、薄く微笑んだ。


「まあ……! 天使が家族なんて、心強いわね、ラッキー」


 その頭を、少し強めに一撫でした佳奈子。目を細めるラッキーは、この手の感触を、きっと、ずっと、忘れないに違いない。

 穏やかに降り注がれる笑顔は、冬特有の柔らかく澄んだ、この陽射しのようで。


 震える唇。でも今度は、哀しい涙じゃなかった。

 エメは深く礼をすると、ラッキーをきつく抱きしめた。


「必ず、ずっと大切にします。そして、ラッキーが幸せだと思えるように、そう思ってもらえるように……愛情を、たくさん注ぎます。お二人と同じくらいっ!」


 微笑む涙の雨の中。


「ワンッ!」


 ラッキーの一際元気な鳴き声を合図に、レーヴは魔法を解いた。


『……ありがとう』

『良いんだ。俺が勝手にやったことだから』

『それでも、ありがとう』

『うむ、おぬしにしては素晴らしいアイデアじゃった』

『ははっ、ありがとう、カクヨム。だって俺たち』


 ――同じ気持ちだろ?


『生意気じゃわい』


 もう二度と戻ることはできないけれども、空へと向かうエメとラッキーの足取りは、さほど重くない。

 肩口からそっと振り返れば、もうこちらの姿は見えていないはずなのに、壮介と佳奈子はラッキーの亡骸を抱きしめながら、空に向かっていつまでも手を振っていた。


「――少しは心、軽くなったか?」

「……え?」

「いいや、何でもない」


 目を細め、見据えた空に粉雪が舞い踊った。


 今年ももうすぐクリスマスが来る。

 けれどもエメは、二人から向けられた明確な優しさと感謝に、レーヴが煩わしさを顧みず砕いてくれた心に、いつも寄り添ってくれる可愛くて温かい仲間に、哀しい気持ちばかりじゃないと、今確かに思うことができた。



☆ ☆ ☆



『新参者、おぬしの名前は今日からイギーじゃ』

「…………カクヨム、ダメよ」

『なんじゃ、つまらんのぉ』

『ワウ?』


おしまい♡

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