第9話 クリスマスに咲く微笑み

 ケイティーは、何処だ?

 僕はある女の子を探している。

 その女の子は、人混みに紛れて独りうずくまって泣いてるかもしれない。

 その女の子は、誰かの助けを求めてるかもしれない。

 その女の子は、きっと救われたい思いでずっと我慢をしていたかもしれない。

 僕は、レンガの街の大通りを探す。でも見つからない。

 教会の方を探してみよう。

 暗闇の路地に入り、走る。教会への近道だ。

 そして、昨日……不思議なお爺さんと出会った。最初は、ホームレスであり次に会うと、サンタクロースになり魔法を見せてくれた。そして最後には、僕のお爺ちゃんだった不思議な人。

 でも路地は、いつもの路地で誰もいなかった。

 教会に行っても今日は、正式な由緒正しい聖歌隊が讃美歌を歌うだけでケイティーはいなかった。

 学校にも、レンガの街を走り回ってもケイティーは、いなかった。

 ケイティーに伝えたかったのは、それだけじゃない。

 ――会いたいよ。

 ケイティーはもしかしたら、あそこにいるかもしれない。

 昨日、彼女は両親に会いたいと願った場所。ケイティーのなかであの場所が両親に近い場所なのかもしれない。

 ――静かな丘。

 ケイティーはそこにいる。


 静かな丘に着く頃には、辺りは暗くまるで、昨日のような陰鬱とした雰囲気がそのまま続いているようでした。

 そこにいたのは、ケイティーです。

 ケイティーは、うずくまって泣いていました。昨晩、ニックがサンタクロースと共に冒険したケイティーの夢の中にいた少女のように。

「ケイティー」

 ニックは声をかけます。

「……」

 しかしケイティーは、泣くままで黙っています。

 それでもニックは、黙るわけにはいきません。

「ケイティーは凄いよ。誰かを信じてるなんて凄い……とてもじゃないけど、他の人にはできないことだよ」

 静かな丘は、ニックの声だけが響きます。

「僕さ、昔にお爺ちゃんに言われたんだ。『人には優しく、そして自分の嬉しさはわけてあげなさい』って。それは素晴らしい考えかもしれない。でも、その言葉をずっと守ってたら、本心ではだんだん上手く思うことができなくなってた。結局、僕は優しくもないし凄くもない。だから、ケイティーのことがわかるんだ。どれだけ酷いことをされてもずっと耐えて、我慢して……いつか帰るって信じて強く生きた」

 ケイティーの隣にニックは座ります。

「でもさ、ケイティー……無理してるよね? だから、僕はケイティーを無理しないように」

 ニックは言葉を止めます。

 ケイティーのすすり声や嗚咽に気付いたからです。

「……私、信じてたお父さんもお母さんも生きてるって……ずっと、そうやって我慢してた。でも……本当はもうって……信じたくなくて」

 ニックは哀しくなります。

 親が帰ってくる。それだけを信じてケイティーは今まで我慢して生き抜いてきました。しかし、既に両親は帰らぬ人となったことを認めず帰ってくると思い込むのは、励ましから追い込みへと変わり、ケイティーはいつか壊れてしまうと思ったからです。

「ケイティー、落ち着いて。……君のお父さんとお母さんはもう、死んでる」

 少しだけ静寂が訪れます。

 そして、

「うあぁあああ」

 ケイティーの悲鳴だけが静かな丘に響き渡りました。



 それは、あのときを昨日のことのように思い出せる昔の話。

 もしかしたら、去年の今頃かもしれません。

 ある日、ニックは親の買い物でレンガの街へ付き合わされていたとき、大通りの平和記念碑の前で待ちぼうけをしているときでした。

 ニックは暇つぶしに平和記念碑に彫られている文字を読んでいました。

 平和記念碑には、鎮魂歌と無数の名前が彫られています。

 戦争で死んでいった人たちへの手向けとして、名前は後世まで残ります。

 そして、無数の名前が羅列される石碑を指でなぞり読んでいるとニックは唖然としました。

 そこには両親の帰りを今か今かと待ち望むケイティーの両親の名前が彫られているからでした。

 ニックは親と買い物を終えその夜に聞いたのです。

 戦争中の隣国の同盟関係にあったこの国は、隣国の増援に向かうため軍人を出兵させました。

 その出兵された兵士のなかに看護兵の母、援護兵の父がいました。

 結果は、辛勝。

 戦争には勝利したものの多くの犠牲が出ました。

 その中にケイティーの両親がいたのです。

 ケイティーの両親はある日の夜、味方陣営が襲撃に遭いその際に死んでいったのです。

 当時、その話を聞いたニックはケイティーの置かれている状況が、大変からかわいそうと言う気持ちに変わりました。

 ケイティーを見る目も変わりました。


 寒い夜、ケイティーは泣き叫んだ後、呼吸を乱しながら言います。

「私、本当はお父さんとお母さんは、もう死んでるって思ってたんだ。ずっと、確かめたかった。でも、親戚の人に聞いたり隣国の終戦のときに発表された戦死者を調べるのが怖くて……でも今日でやっと、わかった。わかることができた。……ありがとう。ニック」

 細く震えたケイティーの声にニックは、悲しくなりました。

 本当にこれでいいのか?

 ケイティーは今をどう思う? これからは?

 そう思うとニックは、ケイティーを抱き締めていた。

「今のケイティーにどう声をかけたらいいかわからない。でも、これだけは言わせて、僕は――ケイティーが好きだ」

 ケイティーは動揺します。

「今、それを言うの?」

 泣いて笑いながら言いました。

「ケイティーに想いを伝えるのは今だと思って……」

「ありがとう」

 ケイティーは、ニックの手をほどき振り向いて言いました。

 そして、しばらくの静寂が二人を包みます。

「ニック、私も好き!」

 誰も泣きません、二人は笑会いました。

「ケイティー、それで約束しよう。僕らが今より少し大きなって大人になったら、ケイティーは家を出て僕のとこへ来てくれないか?」

「うん、約束しよう!」

 そして、

『ヒューーーー』

 甲高い音が鳴り響き、次の瞬間。

『パン! …………バチバチバチ』

 花火が舞い上がりました。

 レンガの街のクリスマスのフィナーレを彩る花火です。

「はぁ……キレイ」

「ああ、キレイ」

 ニックは思います。

 クリスマスに咲く花火のように、今こうして笑っているケイティの方があの花火よりも輝かしいクリスマスに咲いた花のようでした。

「そうだ、ケイティー! 歌おう」

「一緒に?」

「ああ、歌おう! 一緒に」

 二人は花火が終わるまで、Deck The Holls を歌い続けました。





 完

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クリスマスに咲く微笑み ~少年ニックの小さな冒険の大きな奇蹟~ My @Mrt_yu

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