第8話 クリスマス、昼
レンガの街は昨日に変わらず賑わいを見せてます。
「吹奏楽団の演奏、見に行きたい!」
「いいよ」
ニックはケイティーに付いていき、吹奏楽団の演奏する広場の最前列に座りました。
吹奏楽団の演奏は、昨日からずっと夜通しで響かせています。
吹奏楽団の演奏は、讃美歌からやクリスマスをテーマとしたオリジナルの楽曲や他の楽団のクリスマスの有名曲のメドレーです。
「聞けてよかったー」
ケイティーは、嬉しそうに言います。
昨日、ケイティーはずっと讃美歌のために教会に籠りっきりでレンガの街のクリスマスを楽しめてはいませんでした。
「でも、これってずっと演奏してるんだよね? 楽団の人たちって疲れないのかな?」
ケイティーは、首をかしげました。
「一曲一曲の節目にパート毎に交代してるから疲れないようにしてるんだって」
ニックは言います。
「でも、気は休めないと思うけどね」
そう付け加えて笑いました。
ケイティーも笑いしばらく演奏を聞いて立ち去ります。
「お腹空いたね」
ケイティーは、お腹を擦りながら言いました。
「ああ、もうそんな時間か。じゃあ、お昼にしようか」
大通りの入り口にある、ベーグルが美味しいベーカリー屋に向かいます。
そのベーカリー屋は、『ベーグル・ベーグル・グルベール』と言うお店でグルベールさんが営んでいました。
『カランコロン』
「いらっしゃいませ」
ベーグル・ベーグル・グルベール、みんなは『ベーグルベール』と言いそのお店の特長は、ベーカリー屋の中で焼き立てのベーグルと野菜や果物、ケーキをプレートで食べれることで有名です。
「単品ですか? プレートセットですか?」
店員は笑顔で言います。
「プレートセットでお願いします」
「じゃあ、僕もそれで」
「かしこまりました。では、ベーグルはどれにいたしますか」
店員は、メニューを見せてきます。
ベーグルの種類は、無難なプレーンやセサミ、ちょっと冒険するチョコレートやレーズンなどなど色々あります。
「私は……風味が欲しいからセサミで」
「僕はプレーンで」
「はい、かしこまりました。では、挟むものはどれにいたしますか?」
サンドするメニューを目の前に出されました。
サンドするものは、大まかに肉、魚、バターやクリームにわけられます。
「私は、ハムサンドでお願いします」
「僕は、サーモンサンドで」
「かしこまりました。続いて、お飲み物は?」
「紅茶で」
「僕もそれでお願いします」
「かしこまりました、ではしばらくお待ち下さい」
一通りの注文をして、二人は黙りました。
室内で聞こえるのは、周りの音や外から聞こえるこもった吹奏楽団の演奏でした。
ケイティーの視線は外に向き、ニックもケイティーの視線の先を気にします。
視線の先には大通りの奥、大きな大きなクリスマスツリーがあります。
「私、あれを近くで見たい」
「そうだね」
ニックは、クリスマスツリーのその奥にある平和記念碑にばかり意識が向かいます。
そろそろ心を決めなくてはなりません。
日は暮れ始めました。
ニックとケイティーは、大通りの手前からケーキ屋、本屋、玩具屋、雑貨屋と奥の方へと進みます。
ニックたちがクリスマスツリーの前に立つ頃には、空は赤くツリーの装飾も反射してポツポツと光っているように見えました。
「やっぱり、大きいな」
クリスマスツリーの大きさに感激でケイティーは、笑顔でした。
「そうだね。とても」
ニックもそう応えて、二人はしばらく黙ります。
「ねぇ、ニック。……心の準備はできた?」
急に聞かれたニックは、心臓が飛び出そうな位にドキッとしました。
「私はさぁ、できてるよ」
笑顔だったケイティーは、真剣な表情でニックの目を見て言います。
「心の準備……できてるよ」
続くように言いました。
ニックはケイティーの目を見て息をのみ、
「うん。心の準備、できたよ」
と答えました。
「僕はもう、遠慮しない。だからケイティーに本当のことを言う」
ニックは深呼吸します。
「付いて来て」
クリスマスツリーの裏手に向かいました。
平和記念碑の前に立ちます。
「見せたいものがあるんだ」
ニックは平和記念碑に指をさします。
ケイティーは、ニックの差した方向を見るとしばらく、笑顔が滞り絶句してました。
「え?」
その言葉を残して、涙を流し始めます。
そして、走り出しました。
「待って、ケイティー!」
見失いそうになりながらもニックは、人混みに紛れたケイティーを追います。
世界はクリスマスに包まれ泣く人、笑う人がいます。
そんな喜怒哀楽の感情が混じり会う世界のクリスマスは佳境を迎えます。
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