島の情景と故郷の与えてくれる力が美しく描写された作品

離島の風景は変わる。合併で小さな町はなくなり、人口は減り、かつて栄えた産業も往時の面影はない。しかし、それだからこそ、そこを旅立った人にとっては懐かしい思い出となる。いつか帰りたい場所となる。

本作は、そんな離島で少年時代を過ごした主人公の物語である。

今は都会に住む主人公が、実家もなくなった町に帰ったのは、郷愁からだろうか。それは読者の想像に任されているが、故郷の景色は都会に疲れた主人公の心を大いに癒やしてくれた。そこには昔遊んだ海があり、そして、恋の思い出がある。

美しい海岸の描写と、町を代表する産業だった真紅の珊瑚が、古い恋の思い出を引き立てている。それは過ぎ去った恋であっても、最後に登場する写真は、今の主人公を勇気づけるのに充分だった。

過去の思い出が未来への勇気となる、故郷とはそんな場所だ。主人公は、都会に戻って再び奮闘努力するのだろう。

今ではめったに見られなくなった美しい海の情景描写が懐かしい。