修羅の国の第一次産業

作久

修羅の国の午後2時半は硝煙に曇る

 さて、まずは農業だ。主力は水田で育てられる弾丸である。鉄分を含む田んぼに炭素と硫黄と硝石を肥料としてまいて育成し、出穂の時期に雷管をどれだけまくかで収量が決まる。

 が、雷管を多量に撒けば収量が増えるかというとそうでもない。穂が受け止めることができる以上の雷管を撒いてしまうと、収穫の際に余剰雷管が暴発を起こしてしまうのだ。ここのバランスを見極めるのが大変でそこに農家の腕が出るという。


 畑の主力は言わずと知れたパイナップル。そう、手りゅう弾だ。

 育て方と注意点は弾丸に準拠するが栽培していて一番気を遣うのは収穫時であるという。乱雑に収穫を行うと茎にぶら下がっているピンがちぎれてしまい数秒とたたずに爆発を起こす。連鎖誘爆を起こしてしまうと一気に収量が落ちてしまうから畑作では何よりも収穫作業に気を遣うという。


 どんどんと行こう。次は畜産だ。畜産では90式戦車と装輪装甲車をメインに最近需要が増えてきた機動戦闘車と10式戦車を生産している。なんでも渋滞を踏みつぶして進むことができる走破性、ポテンシャル、そして小学生の間で流行っている携行型対戦車兵器に対する高い防御性能を持つことが評価され双方とも需要が現在赤丸急上昇らしい。

 関係者曰く、「子供は情けも容赦もなく興味本位だけで予想もできないタイミングで対戦車兵器を平気で他人目掛けてぶっぱなす。ゆえに突然のもらい被弾を想定した防御性能を市場のニーズは重視している。」ということだ。

 また、養鶏は準国産種F2を中心に輸入種のF15を品種改良しつつ生産をし、今後導入予定がある輸入種のミサゴとF35に期待をしている模様だ。 



対戦車兵器が話題に出たことだし次は生活に彩を与える火器について話をしよう。

 中央市場には、色とりどり種々の火器が集められ手際よくセリが行われ出荷されていく。火器に関しては安全のために他の農産物や手りゅう弾以上に厳しい規格を設けているため選別漏れが多く出ている。規格を緩めるよう要求しないのか?と生産者に尋ねたこともあるが、「それでは私達の負けでしょう。規格を満たす物をいかに多く育てることができるか。そこが腕の見せ所にして私らの楽しみですよ。」と生産者は笑って答えていた。

 規格の厳しさに苦情が出ないのは、そんなものが些末になるほどの問題があるからかもしれない。その問題は時折なぜかカラシニコフにそっくりだけど作りが雑なモノが小売店や露店で売られているらしいということだ。

 確かに海外からの火器の種にカラシニコフが混ざり込んでくることはある。だがそれらは栽培段階で除去されているしそれでも混ざってきたモノはここ、市場で厳しく徹底して排除されている。だから市場を経由しては絶対に出ていない。


どこかでコピー作物が違法栽培されているのではないか。と彼らは推測している。


「模造作物はうちらの評判に関わる。見つけ次第通報し全てまとめて駆除する。全てだ。なんもかんも一切合切まとめてそれこそ畑ごと消してやる」と語気荒々しく話す。生産者の火器との誠実な対話と作ることの誇りを感じる言葉だった。


 さぁ、最後に名産品の多い水産業と行こう。

 母なる海玄界灘の漁獲物と言えばもちろん護衛艦とハープ―ンであることは言わずもがなだろう。今の時期もそれらは取れる。取れるが、今の時期の旬にして主力は89式魚雷。運が良ければ時々おやしお型潜水艦。極々稀にそうりゅう型潜水艦が水揚げされている。


 水揚げの大部分を占める魚雷は鮮度が命だが、だからと言って鯖の様に雑に扱うと発射時の精度が落ちてしまうし最悪暴発してしまうから取扱いに丁寧さも求められる収穫物である。

 潜水艦は昔のものは音が大きく見つけやすいためよく捕まえられていたのだが最近のものは静かになってきたので捕まえるのが難しいらしい。だが、一隻でも捕まえればとてつもない大きな収入になるので博打の様に狙う漁師はわりに多いという。


 また、彼らは資源保護にも力を入れ、魚雷に関しては種苗の作成と放流による個体数の維持を図っている。去年にはついに商業ベースに載せることができる完全養殖の目途がようやく立ち今後は広く安く均質で高威力な良質の魚雷を皆様に提供できるようになるだろうとのことだ。

 そんな優秀な彼ら養殖技術研究者の最終目標はそうりゅう型潜水艦の完全養殖。

 実は潜水艦の養殖というものは、まとまって捕れた養魚を蓄養しているのが現状なのだ。葉巻型を親の潜水艦にするまでは確立できたのだが、その前段階。卵から葉巻型の育成技術の確立にたどり着けていないのだ。現在、そうりゅう型がどこで卵を産んでいるかとそこで採取した卵を孵化させるところまではたどり着けたがそこから先の葉巻型幼生へ安定して成長させることができないという状況での停滞が長く続いている。しかし、研究員は絶対乗ってやると鼻息荒く言い切り熱量をもって日々研究に邁進している。その熱意は必ず突破口をつかんでくれるだろう。


 さて、そんな種々雑多な海の幸についてだが、今からの寒くなる時期は海べりに火器小屋も立ち並び始める。そこであれば彼らが丹精込めた素晴らしい海の幸を存分に堪能できるのでお勧めだ。


そんな福博から博多湾を経て奥広くに広がり様々な海の幸を届けてくれる玄界灘。


そこに一つ妙な噂が流れている。


それは、ハープ―ンではないミサイルを噴き上げているそうりゅう型をみたというものだ。そうりゅう型にはそんなものは搭載されていないしそもそも発射能力などないはずなのだが…。全く持って不思議な話である。


この噂を聞いたとき私は、海というものは宇宙と同じくらいたくさんの不思議を抱えているのであるなぁとあらためて実感した。

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修羅の国の第一次産業 作久 @sakuhisa

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