文芸部員、葛藤
どうしてテストと言うのは、まどろっこしいのだろうか。
ある時は、難題を解く時間さえなく、ある時はテストを放棄すれば何もしない手持ち無沙汰な時間を耐えなければならない。
とてつもなく苦痛だ。
こんな一年目、一学期、一番最初のテストになんの意味があるのだか。
意味があるにしてもそれは、三年目くらいの受験戦争くらいなのではないのだろうか。
「はぁ……」
ついついため息がこぼれてしまう。
「誰だ、ため息をついた奴は? 最後まで集中しろ」
ため息をつくことさえ許されないテストになんの意味があるのだろうか。
とはいえ時間を持て余すのも飽きてきた。そろそろわかりきってたけど配点が1点の問題にも目を向けるか。……たしか、数学は配点1点が40問あったっけ?
「やめ! 手を止めてください。後ろから回答用紙と問題用紙を別々に集めてきてください」
やっと終わった。わかりきってるとこしか回答してないから採点待ちせずとも自分自身の点数は、わかりきっている。72点くらいだ。1点問題を少々手を抜きすぎたと反省するがまあ、赤点じゃないならいいや。
「………………アカテン」
後日、テストが返却された。
案の定、高樹は机に伏せて絶望していた。小声で赤点と聞こえたが聞いてないことにしよう。なぜなら、聞いていなくても事実は事実、高樹は赤点だろう。
「高樹、これで暫定で3教科赤点だな」
慰める言葉もない。
「なあ、答案用紙交換しようぜ」
「いいけど、三者懇談の時にバレるぞ」
慈悲もない。
「あの、先生! ここ採点間違ってます」
聞き覚えのある声がした。浅井ゆいだ。
廊下で俺たちとは関わりのない先生に答案を見せていた。
採点ミスがあったのだろう。運がいいやつめ。
「答案、あってるじゃないか」
「答案を見て欲しいんじゃありません。問題冊子の部分を見て欲しいんです。
解説された途中式と違うんです」
「え、ああ。でもまあいいよそんな事。お前は授業を誰よりも熱心に受けてるんだ、おまけだおまけ」
先生は煙に巻くようにはや歩きで去っていった。
浅井は視線に気付いたのか、俺の方を見て廊下から苦笑いを見せて、自分のクラスへと戻っていった。
運のいいやつめ。
その日の放課後、俺は未だにテストが終わった脱力感が抜けないまま第3理科室でだらけていた。
意外と思うかもしれないが、家より第3理科室の方が一人でいるときは好きだった。
風通しもよくて、日取りもよくて心地いい。
そんな癒される空間を追い出すように、浅井は部室に来た。
「はぁ……」
ため息をこぼしたのは浅井の方だった。
珍しいこともあるものだと驚いたが、心当たりがあった。
「テストか?」
「そうです……」
やっぱり。
「お昼にお前を廊下で見た。随分と抗議してたみたいだが」
「はい、実は――」
今日の浅井は、暗かった。
個人的には、暗い方が落ち着いてて俺自身、気疲れしなくて済む。
ただ、ほんの少しばかり寂しい気もした。
浅井から聞いた話によると数学のテストで点数が96点だったこと、ただその内1問分の得点に納得がいっていないらしい。
答えは合っていても、先生が解説した解き方と浅井が計算した解き方が違っていて浅井は、自分の考えが正しいとは言わずに、自分の考えが間違っているんだから減点するべきだと言った。
この話の相談を高樹にしていたら今頃、高樹は発狂して飛び出していっただろう。
数学ですら赤点を取ってしまった高樹には、この浅井の悩みですら酷な話だろう。
「大体はわかった。浅井はその点数をどうしたいんだ?」
改めて質問した。
「私としては、間違えを認めさせて減点をしてもらいたいんですけど」
浅井は頬杖を付き、テストを睨んでいた。
「無理だな。もう成績は、学校のデータベースに登録されてるだろうし、浅井の押しですら煙に巻く先生だ、データベースを変更しろと言われても空返事で実行にはうつさないだろう。
それより、どうして点数にそこまで神経質に拘るんだ?」
「私は、親の反対を押しきってこの学校に来ました。
だからこそ私は、中途半端な点数も中途半端な添削でさえ許されないんです」
そう言っていた。
俺は彼女の肩を落とした後ろ姿を見送って、帰った。
本当、少しだけ寂しいな。
文芸部の愉快な部員たち My @Mrt_yu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。文芸部の愉快な部員たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます