転生したら聖地が巡礼されていました

 こんな夢を見た。

 地方発だとかいう触れ込みのアニメを見たら、ヒロインが瓦屋根の町家が並ぶ城下を自転車で駆け抜けるカットに釘付けになった。

 ああ、こんなところに住みたいなと思った瞬間、私は転生した。

 気が付くと、田舎の道端に敷いた2畳ほどのブルーシートに座って、大きな玉になった白菜を並べて売っているのだ。霧の立ち込める霜の朝、かじかむ手に息を吐きかけては掌をこすり合わせ、待っているのは巡礼者だ。

 そうか、ここはいわゆる聖地なのだと思い当たったが、何か引っかかる。

 それが何だか分からないうちに、昼の空が冷たく澄み渡ってきた。ふと振り向くと、転生したときにブローカーが貸してくれた空き家がある。

 経緯は覚えているのだが、何か忘れている気がする。思い出そうとしているうちに冷たい夕日が低く傾いできたが、やっぱり巡礼者など誰も来ない。

 店じまいしようかと思ったところで、薄闇の中に男が佇んでいる。

 それは客ではなく、空き家のブローカーだった。

 知っている相手ではなかったが、私は食ってかかる。

「話が違う」

 そうだ、私は町家に住みたかったのだ。

 答えはただ一言で戻ってくる。

「おまえが一度離れたところに帰しただけだ」

 やっと分かった。私の借家は、故郷の家だったのだ。

「そんならなぜ家賃を」

 答えは単純かつ明快だった。

「成功しようが失敗しようが、誰でもコストは平等だ」 

 こいつでは話にならない。

「もういい、本人を出してくれせ」

「もう行ってしまった」

 木で鼻をくくったような答えだった。

 俺も行くと迫れば、選ばれた者しか行けないと一刀のもとに切り捨てられる。

「どこに?」

 噛みつくと、闇の中でそいつはにやりと笑ったようだった。

「東京オリンピック」

 そういうことか。またしても外道の祭典。

 これはその前夜祭なのだと思ったところで、目が覚めた。

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外道の祭典 兵藤晴佳 @hyoudo

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