最終話 希望の光が闇を照らす時

「やっと、その気になってくれたか」

 不敵な笑みを浮かべて彼は静かに呟くと「絶望と憎悪を持って、敵となった私の手の中で永遠に眠れ」

 そう言って、毒薬を投与しようとした。その時。


 パシュンッ


 突如として、乾いた銃の音が聞こえた。

 そして、どこからともなく飛んで来た銃弾が彼のこめかみを貫通。

 注射器がぽろっと地面に落ち、膝から崩れ落ちた彼はドサッと倒れてしまった。

「人類はまだ、滅亡しちゃいない。残念だったな」

 ぴくりとも動かない彼を挟み、目を丸くする私と対面した相手がそう、冷やかに言った。

 着ている黒いロングコートの襟を立て、手にしているライフル銃を肩に担ぎ、目線を下に落として見くびったように彼を見据えている長身の若い男。たった今、彼を射殺した張本人に違いない。

「本当......なんですか?」

 まだ、頭が混乱しつつも、やっと口が開ける状態になった私はぎこちなく尋ねる。

「本当に......人類は、滅亡してないと?」

「ああ、本当だ。人類の大多数は怪物を解き放ったこいつにられちまったが、それでも生き残ってるやつらがいる。この町じゃ、俺とあんたくらいしか生き残ってないみたいだが」

「彼が解き放った怪物は?」

「殲滅したよ。神出鬼没な凄腕の執事が率いる討伐隊によってな」

 彼の話を聞いて衝撃はあったが、それでも僅かばかりの希望を見つけて私は嬉しくなった。

「そっか......そうなんだ」

 不意に押し寄せて来た安堵感からか、満面の笑みを浮かべた私は大粒の涙を流した。

 その後、私は命を救ってくれたスナイパーの彼と再婚。4人の子宝に恵まれ、末長く円満な家庭を築きあげて行った。



 今から8年前、1人の偉大な科学者マッドサイエンティストが起こした人類史上最悪の事件は、先人が残した知恵と技術で命を繋ぐ私たちにとって大きな爪痕を残した。

 嘗て、当たり前のように利用していた電気、ガス、水道といったライフラインは、8年が経った現在も復旧の目処が立っていない。

 僅かばかりに生き残った人間たちを捜し出して集団を作り、ほろんだ町を再生。事件発生時のまま残る建物を拠点とし、組織を結成して町の発展や治安維持に努める。

 そして8年の時を経て数多くの町が再生し、18区間に分けられ、和、中、洋が融合した美しい建築物とともに横浜市が蘇った。


 気付くと私は、38歳になっていた。

 嘗て、先進国として栄えた日本だが、8年が経った現在、その面影を残しつつも国としての機能は失われたままだった。

 蘇った都会は未だ、横浜市のみである。著しく技術が発展した社会から一転、自然豊かな自宅の庭でにんじんやジャガイモなどを作り、最新技術を取り入れない、自給自足の社会へと変わってしまった。

 これから日本は、この地球上に存在する世界はどうなるのだろう。

 少しずつ、嘗ての生活に戻りつつある、現代的な建物が建ち並ぶ港街のまんなかで、私はふと、不安に駆られた。

 せめて、私たちの愛情をたくさん受けてすくすくと成長する子供たちが大人になるまでは、今よりも少しはマシな生活が送れるようにしたい。

 そして、私たち大人が老いて動けなくなったその時は、次世代となる大人になった子供たちに未来を託そう。

 この世界はまだ、未曾有のショックから立ち直れていない。

 これから、数多くの事実を知ることになる子供たちにとっては、想像を絶する過酷な試練と向き合い、重荷を背負うことになる。

 そんな子供たちの手助けが出来るよう、今のうちから準備をせねば。

 これは、私自身が主人公となり、実際に体験したかのようなリアルな悪夢が基になった物語フィクションである。

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希望の光が闇を照らす時 碧居満月 @BlueMoon1016

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