第3話 闇に手を染めた男

  物語はまだ終わらない。毒薬から解放された私は2、3日の間、セバスチャンが使える主の館で療養することになった。

 毒薬が体内からすっかり取り除かれ、元気いっぱいとなった私はお世話になった主と執事に御礼を告げて館を後にした。

 自宅へと戻る道中、後ろから突然はがいじめにされた私は、驚きのあまり目を丸くした。

「見つけた」

 どこか聞き覚えのある男の低い声で、ゾッとした私は恐怖の記憶が甦った。

「もう、どこにも逃がさない。君は間もなく、息絶える。この私の手で」

 そう言うと彼は、手にした小型の注射器を私の首筋に近づけた。

 そうはさせない!

 私は咄嗟に身を捩ると彼を突き飛ばし、逃げ出した。

 が、すぐに追いついた彼に捕まり、電柱に身体を押さえつけられた私は身動きひとつ取れなくなってしまった。

「運の尽きだな。この毒薬を再び投与すれば、確実に息の根を止められる。今度はあの時のように助けてくれる者はいない。さらば、この地球の、最後の人間よ」

「待って」

 私が毅然と待ったをかけると、注射器を持つ彼の手が、ぴたっと止まった。細い注射針が私の首筋につくかつかないかのきわどいところで止まっている。

「死ぬ前に聞かせて。あなたは一体......何者なの?」

 私の冷静な問いに、フッと冷めた笑みを浮かべて彼は答えた。

人間だよ。長いこと人類を研究するあまり、闇の魔法使いに魂を売った......結果、私は人間の皮をかぶった悪魔へと変貌を遂げたのだ」

「......どうして、こんなことをするの?」

 再び尋ねると、彼は醜い物を見るような目つきで淡々とその理由を話した。

「私は、この地球上の人間に、心底うんざりしているのだよ。それ故、長い時を経て完成させた人工怪物かがくへいきを世に解き放ったのだ。人類を抹消し、再び自然豊かな地球ほしに再生するために」

「だから......人を殺したの?それも大量に......」

「そうだ」

 残酷な彼の返事に、絶望した私は不意に俯いた。

「判ったわ。それだけ聞ければもう十分。後はもう、あなたの好きなようになさい」

 私は力なく言うと、観念した。

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