俺と私
あの日、丘の上で手を繋いだ二人を照らした花火はいまでも二人の心の中で花を咲かせていた。
「まさか、あんたらが結婚するとはねぇ。思いもしなかったわ。ずっと仲良かったのは知ってたけど」
「母さん、あんまり冷やかさないでくれよ」
夏希と雪菜は、両方の親の前に座っていた。結婚を申し込みに夏希が雪菜の親の元に行ったところ、雪菜の親が夏希の親を呼びに行ったのだ。
「おねえ、本当なの!?夏希さんとは私が結婚したかったのにー!」
「雪歩!冗談でもそんな事を言わないで。夏希もちょっと嬉しそうにしない!もう...」
雪菜は疲れたようにため息をついた。
「冗談じゃないんだけど...。まあ、おねえだったらいいか。夏希さん。おねえをよろしくお願いします」
「もちろんだよ。雪歩ちゃん。...うん?という事は、雪歩ちゃんは俺の妹になんの?」
夏希は急に思いついたように言った。
「あー、本当だ!それもいいですね!」
雪歩もそれに乗っかる。雪菜といえば、もう突っ込むのも面倒くさそうにしていた。
「雪菜、めんどくさそうにしてるけど、うちの弟だってお前の事狙ってたんだからな」
「夏兄!何で言うだよ!」
「まー、真夏ったらそうだったの!可哀想に...」
まったくノリのいい母親だと夏希は苦笑した。真夏は恥ずかしそうに俯いていた。
「真夏、あ、えっとー。ごめんなさい!わ、私、好きな人がいるから。えっと、そのー」
「おねえ、酷い。そんなわかりきってるのに振るなんて、真夏くん可哀想〜」
さっきから変わりつつある空気。真夏に至っては、ものすごい落胆しており、今度は夏希が恥ずかしがってる。雪菜は戸惑い、雪歩は冷たい目で姉を睨んでいた。親達はそれを楽しそうに眺めている。
「なんか、千夏だけ仲間外れみたいー。おにい〜」
千夏は夏希に引っ付いた。
「お、お前こんな時に」
「な、千夏はお父さんのところに来なさい」
「嫌だよ。お父さん臭いし。私はおにいちゃんが好きなの!」
「あ、はははっは。千夏はツンデレだなー。はは...」
「父さん...」
ここで一番威厳がないのは夏希の父だった。だれもが心のなかで残念な声をあげた。
そして、それが笑いへとかわる。皆が笑い出した。健やかで明るい笑い声が部屋を満たす。家族っていいな。夏希も雪菜もそう思った。
「俺らはもっと、これよりもいい家庭を築きたいな」
「うん。そうだね」
二人は自然と手を握り合った。雪菜が夏希に体重を預ける。
「ばっ、馬鹿。こんなところで...」
「いいじゃん。もっといい家族だって事を早々に見せつけてやってるんじゃん。ね?」
雪菜は夏希に微笑んだ。こんな幸せな時間はいつまでも続くのだろうか?変わりながらも、変わらないものもある。いいとこだけを取ることなんてできはしないけど、それに向けての努力は無駄じゃない。まずは、ここから始めるとしよう。
懐かしきあの日を振り返って、俺は、私は誓った。お互いを愛し続け、支え、助け合う。いい家庭を作り、それを変えながらも保つ。そう、小さくて無邪気だったあの頃からずっと変わらない事。きっとそれはずっと胸の内にあったのだろう。
あの頃からずっと、『あいつ』の事が好きだった。
あいつと俺、あいつと私。 浅野 紅茶 @KantaN
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