魔法使いの聖夜 後編 ★2016.12.

 ラヴィが、クロノスと共に光に包まれていく。

「いやっ!ラヴィっ……!いかないで……私を一人にしないで……」

 哀しみが溢れて、髪の毛の変色スピードが上がる。

 ラヴィとクロノスを包んでいた光が終息すると、もうそこにはラヴィはいなかった。

 クロノスは、非情にもただただ、現在が12/25のam1:08であることを教えてくれるのみだった。



「なん……で……」

 いなくなってしまった。最愛のヒト。

 あなたがいない世界なんて、哀しみしかない……。いや、愛もなければ哀しみもないのかな……。

 涙が溢れる。ずっと、"光"に例えてほしかった。けれど、例えられたのは"白"。いつか、染まる日が来るのかなって、思ってた。

 けど、ラヴィに逢って、ラヴィに染められるなら、それでもいいかなって思ってたのに。

 あなたがいない世界で、私はどう生きればいいの?

 心が砕けてしまいそう。

「……?」

 ふいに、クロノスに起きた小さな変化に気がついた。

 うさぎの模様なんてなかったはずなのに。

 時計ウサギが、模様の中にある。

「ラヴィ……」

 ───ラヴィのいない世界なんて要らない。……けど、まだラヴィに逢える可能性が1%でもあるのなら。私はその可能性にかけよう。何も要らない。世界なんて知らない。愛しのラヴィ……あなたのためなら、私は。

 心が、黒く染まっていく。

 あぁ、黒に染まるってこういうことなのかなぁ。

「……受け入れるよ。私は黒になる。思い通りにならないのなら、いっそのこと壊してあげる……」


 青く染まりつつあったはずの髪は、真っ黒に染まり、魔力は数ランク上にあがった。

 そこにいるのはそれまでのルシエラを越えた存在だった。







「───ねぇ、ルシエラ。あれからずいぶんと時が流れたね」

 ベランダから月を眺めているのは、クロノス=ラヴィの核ことラヴィと、闇夜に映える漆黒の魔法使いルシエラ。

 しかし、クロノス=ラヴィは、人型……時計うさぎのラヴィの姿をしており、ルシエラは白の魔法使いだった頃の姿をしている。

「うん、そうだね。ごめんね、ラヴィ」

 言葉遣いも、普段のそれではなく昔のルシエラそのものだ。

「どうして謝るのさ」

 答えなんてわかりきっているのに、ラヴィはあえて理由を問う。

「こんなにも時が経ったのに、未だにたった2日しか、もとの姿に戻せない」

 私の答えに、ラヴィは優しく笑うのだ。謝る必要はないのだとでも言うように。

「もとの姿に戻れるなんて思ってなかったから。とても嬉しいよ。僕こそそんな思いをさせてごめんね」

 ラヴィはんーっと身体を伸ばすと、ふーぅっと息をはいた。

「……さて、今年もサンタさんになろうかな」

 ラヴィは、今頃布団の中ですやすやと寝息をたてているであろう可愛い女の子3人の姿を想像し、どんなプレゼントにしようかと胸を踊らせた。

「ふふ。あの子たちはサンタなんて信じてないと思うよ」

 ルシエラは、ハロウィンの夜のことを思いだし、苦笑を浮かべた。

 茜は素直に信じるかもしれないけど、空は面白がっていたずらするだろうし、碧にいたっては確実に信じないだろう。

「そうだね。でも、君の愛する弟子たちが、可愛くて仕方ないんだよ」

「……えぇ、知ってる」

 魔法でサンタクロースのコスプレをするラヴィ。ふいに、振り返り、ニコッと笑った。

「メリークリスマス、ルシエラ。愛してるよ」


「私もだよ、ラヴィ。逢えてよかった」

 ラヴィが3人のもとへ向かう。


 ルシエラは、自分にかけた魔法を解いた。

「……」

 髪の色が黒になり、本来の姿に戻る。

「……私は」

 いつか、あの頃のように戻れるだろうか。

 ラヴィをクロノス=ラヴィとしてではなく、本物の魔法使いのラヴィとして存在できるようにして。

 二人で……いや、あの子たちと共に5人で笑顔で暮らせるように、なるだろうか?


「……やってみせるさ。私は黒の魔法使い。きっと出来ないことなんてありはしないのだから」


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ふゆやすみ 如月李緒 @empty_moon556

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