魔法使いの聖夜 前編 ★ 2016.12.
『12/24のPM11:45、
あの場所で待っています ルシエラ』
『この手紙、見た?あなたのことだから、ポストに届けたやつも見てないかなって。私、待ってるからね ルシエラ』
手紙が届いた。
ポストを無視して、僕の目前まで飛んできたその手紙は、僕の彼女であり、偉大な魔法使いになることを期待されている、僕らの世代の稀代の大魔法使い、ルシエラからの手紙だった。
「……12/24?聖夜祭のデートか?ルシエラめ、今日が何日だと思ってるんだ。まだ12月になんて……っ!?」
部屋にはルシエラが創成した時計がある。
日付の感覚がない僕に、ルシエラが作ってくれたもので、時間だけではなく、年月日もわかる優れものだ。
一応部屋にはカレンダーも時計もあるのだが、カレンダーは今年の二月で止まっているし、時計も止まっている。
ルシエラは、自身の作り出したものを"クロノス"と呼んでいた。
そのクロノスは現在が12/24の11:42であることを示していた。
「やばい……殺される……」
僕は急いで約束の場所へ向かった。
「ルシエラ!ごめん!!」
約束の場所には、ルシエラが立っていた。
もうすぐ、日付が変わる。
「……ラヴィ、また、見てなかったんだね」
ルシエラは、真っ白な衣類に身を包んでいて、今にも雪に同化してしまいそうで……溶けてしまうんじゃないかと、少しだけ不安になった。
「ごめん!僕まで届けてくれてありがとう……僕、まだ12月になったことにも気づかなくて……」
ルシエラは、1度も僕を見ようとしない。ずっと、下を向いている。
「いいの。知ってた」
物静かなルシエラに、妙な胸騒ぎがする。
「ラヴィ、ありがとう。ばいばい」
ルシエラがばいばいと言ったそのタイミングで、0時を知らせる鐘が鳴った。
「!」
そして、ルシエラは消えてしまった。
その日、重い足取りで帰り、家のポストをあけると、何通か手紙が届いていた。
その中でひとつ、黒い封筒に赤色のシールで封をされている、ひときわ目立つ手紙があった。
『ラヴィへ。
魔法使いとして、
私は1度死ななくてはならないんだって。
そこで、選択肢は二つ。
全てはラヴィ次第だよ。
親愛なるラヴィへ、
白の魔法使いルシエラより』
僕は、召喚魔法の準備をする。
ルシエラを、召喚するために。
クロノスを部屋の中心からずらし、陣を描く。
準備はすぐにできて、それからすぐに魔法を行使した。
そして、その召喚魔法は成功した。
陣の中に現れたのは、カプセルの中で眠るルシエラ。
それは、
真っ白だったカノジョの髪はうっすらと青くなっている。
肌や唇の色は、一層薄くなっている。
「だめだよ!染まらないで……っ!ルシエラ!」
カプセルを叩いても、ルシエラはピクリともしない。
目覚めの魔法なんかを使っても目覚めない。
絶望に涙を流した。
「ごめん、ルシエラ……」
カプセルに頭を預け、涙を流す。
そして、涙がカプセルに触れたとき、奇跡が起きた。
「…ラ………ヴィ……?」
「!ルシエラ!?ルシエラ!?」
顔をあげると、うっすらと瞳を開けるルシエラがいた。目が合い、驚きの表情を浮かべる。
「どうして……?」
ルシエラは、驚きに目を見開いている。
「哀しみになんて染まらせたくない……僕はどうしたらいい?どうしたら止められる!?」
僕の言葉に、ルシエラは少しだけ考えると、「……黒になれば」と呟いた。
「え?」
ルシエラはうつむき加減に言葉を紡ぎだした。
「何ものにも染まらない白でいたかった。けれど、それは叶わなかったから。1度色がついてしまえば、もう白には戻らない。変わらないのは、黒。すべての色が混ざりあった色。絶望の色。闇夜の色」
魔法使いはよく、色や何かに例えられる。そして、色に例えられる魔法使いは、白が最高の例えと言われている。その理由のひとつは発揮できる魔法の強さや種類の豊富さにある。
そして、黒は闇に落ちた魔法使いに使われることが多いが、闇に落ちた魔法使いはなぜかあまり色で例えられないことが多かった。
「黒……?」
いまいち、ぴんとこなかった。
「白と同じか、漆黒ならもしかしたらそれ以上の力を発揮できるけど、漆黒は、私には耐えられないと思う」
ルシエラは色に例えられる者として、色には詳しいらしくい。
「ルシエラ……」
僕は無力だ。何もできない。
力なく彼女の名を呼ぶことしか、できなかった。
「大丈夫。魔法が哀しみに染まっても、私は私だよ。心が哀しみに染まっても、私は私。」
ルシエラが明るい声を出す。
「……じゃあ、なんでお別れの言葉なんて言ったのさ」
なぜだろう。こんなこと言うつもりなかったのに。言葉がついてでる。
「……」
彼女は黙りこんでしまった。
「つまり、そういうことだろ?なにかが変わってしまうから、お別れを言わずにはいられなかった」
僕はさらに追い討ちをかける。言葉が溢れて止まらない。これ以上ルシエラを傷つけたくないのに。ルシエラを傷つける言葉だけがすらすらと止めどなく溢れてくる。
「どうせなら、本当の意味でお別れをしようか」
「───!?」
彼女の瞳の中では恐怖や哀しみがぐるぐると回っている。
「ずっと、一緒にいたから。クロノスのことはよく分かる。君は言っていたよね。"クロノスは大気中の魔力を利用して動くからこれ以上軽量化はできない"って。改良も、"今はまだ難しい"って。僕がクロノスのコアになるよ。そうすればいくつもの問題が解決する」
それは、僕の研究テーマ。
クロノスを軽量化するとか、もっと利便性を高めたかった。
彼女の魔法の足元にも及ばないことはわかっているけど、"時計の壊れた時計ウサギ"なんて例えは、もう嫌だったから。
「何を言い出すの!?」
ルシエラの瞳には涙がたまっている。
「……大丈夫、僕はクロノスで生き続けるから。心配しないで」
僕は、精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
「違うの!やめて……っ!」
ルシエラはカプセルを力任せに叩くが、びくともしない。
「さよなら、ルシエラ」
僕は、クロノスに手を触れる。
そして、クロノスのコアになるために、魔法を形成した。
魔法の完成と共にクロノスに吸い込まれる。
「いやぁぁぁあああ!」
刹那、ルシエラの悲鳴が聞こえた気がした。
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