【本当にあった怖い話】名古屋城のかいだん

笛吹ヒサコ

名古屋城のかいだん

 尾張名古屋は城でもつ、というけれど、名古屋城に行ったことのない名古屋人も少なくない。

 きんさんぎんさんだって、100歳過ぎてから天守閣に登ったと聞いたことがあるくらいだ。

 わたしは何度か行ったことがあるが、他県の人から「名古屋といえば、しゃちほこ」と言われるとムッとする。むしろ、なぜ「名古屋といえば、しゃちほこ」なのか、理解できない。

 確かに、名古屋城はいいところだと思う。季節によって姿を変える城内の景色は、なかなか風情がある。秋の菊花大会の菊人形は、少し怖かったけれど。


 さて、前置きはそのくらいにして、名古屋城の天守閣でMさん(男性)が実際に体験した怖い話をしようではないか。


 Mさんが子どもの頃は、まだ昭和で携帯電話なんて存在しなかった。

 おそらく10歳になる前の事だったらしい。

 親戚や家族で名古屋城を訪れたMさんは、天守閣を訪れた。

 鉄筋コンクリート造りの天守閣だが、外観はなかなか見事なものだ。

 天守閣の螺旋階段を登るうちに、Mさんは家族とはぐれてしまったそうだ。

 Mさんは必死で家族を探した。

 しかし、何度登っても、何度降りても、家族とはぐれたまま。

 心細くて半べそかいても、家族を見つけられない。





 最終的には、家族と再会出来たそうだが、そのあたりのことはよく覚えていないらしい。







 ――


「ちょっと、それ、上り階段と下り階段、間違えたんじゃないの?」


 最近、老朽化で天守閣の再建が話題になっている。そんなある夕食時に、わたしは父から、忘れもしないと子どもの頃の体験を話してくれた。

 そう、Mさんはわたしの父だ。


 わたしが笑っていると、Mさんこと父はムスッとした。


「笑う話かよ」


 笑う話である。

 名古屋城の天守閣には、2つ螺旋階段があることを知っていれば、笑い話でしかない。


 つまり、こういうことだ。


 人とすれ違わないようにと、「上り階段」と「下り階段」がずれて螺旋になっている。

 今でも、時折間違えて「上り階段」で下ったり、「下り階段」を登ったりする人がいる。いい歳したカップルとすれ違ったこともあるから、意外と階段が2つあることに気がついていない人もいるのかもしれない。


 どうやら父は、階段を間違えたために、いくら登っても下っても家族に会えなかったのだ。

 一番上の展望台で待っていればよかったかもしれないが、パニックで思いつかなかったらしい。


 おそらく、近いうちに天守閣に登ることができなくなるだろう。

 そうなる前に、ぜひ名古屋城の天守閣に登ってみてほしい。

 エレベーターもあるが、ぜひ螺旋階段で登ってみてほしい。

 その時は、くれぐれも「上り階段」と「下り階段」を間違えないようにしていただきたい。

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