仁淀ブルーの真実

あさかん

仁淀ブルーの願い


 仁淀のブルー


 昨今度々メディアなどに取り上げられ、日に日に観光客が増え続けている仁淀ブルー。口コミは電撃的に広まり清流の名所として賛美の声を欲しいがままにしている。


 そんな『仁淀ブルー』を有しているのは、高知県吾川郡仁淀川町。

 仁淀川町とは人口の消えゆく村や集落の集合体、つまり広域合併された地域だ。


 平成17年に人口減による決死の思いでひとつの町として統合された仁淀川町は当時で8000人程度。その後も人口は右肩下がりで今年に入ってとうとう6000を切ってしまった。


 映画のロケ地にもなった椿山なんて、住民はたったの一人。日本最後の秘境などと言われもしたが、やはり秘境で生活するのは難しいのだろう。


 人口減少に対して、65歳以上の高齢者割合は反比例しており今は全体の52%、その数値は天井知らずに増え続けている。仁淀川町とはそんな町。




 さて、前置きはこれ位にしておき、最初に『仁淀ブルー』の本質を語ろうか。


 まずは訪れた人が目を引くのが清流の”青さ”だ。これはインターネットで写真でも見ればすぐにわかる。


 確かにこの”青さ”はインパクトこそあれど、しかしそれだけで観光客がこれほどまでに熱狂的になるというにはいささか疑問符がつくだろう。


 何故ならば清流の”青さ”は仁淀ブルーの神秘的な要素の一つでしかないからだ。


 私が思うに『仁淀ブルー』の神秘性は3つの”青さ”の調和から成り立っているのだと考える。


 ひとつめは先述の通り、清流の”青さ”。


 ふたつめは自然で生まれた新緑の”青さ”。


 みっつめは淀みのない空気に透き通る空の”青さ”。


 これらの”青”が人の手によらず自然で調和されることにより、壮大な神秘性が感じられるのだ。


 それを語るには仁淀川の上流に渡らねばなるまい。



 安居渓谷。


 山々の間から下る渓流には流れが緩やかで青く透き通った水が溜まる場所がいくつもある。周囲には覆い茂る木々、そして自然に積み上げられた岩山からは滝のように水が滴り落ちて、水面に波紋は広がり木漏れ日がそれを照らす。


 始めてその絶景を見た人は瞬間に息を忘れると言う。そして生を思い出すかのように呼吸を始めると、3つの”青さ”が織り交ぜられた清らかな匂いは鼻や口から全身を通り抜け、川のせせらぎに滝や木の葉の揺れる音が聴覚を優しく撫でる。


 そこはまるでファンタジーの世界に迷い込んだかのような空間であり、そこに人魚マーメイド妖精フェアリー、或いは河童のような架空の生命体が潜んでいても違和感ないだろう。

 

 一聞すれば誇張であると思われるかもしれないが、一見すれば虚言ではないと実感できるに違わない。


 だからこそ、『仁淀ブルー』を一度味わった者は熱狂してしまうのだ。



 このように大自然が有する神秘な”ブルー”を持つ仁淀川町だが、既に6000に満たなくなってしまった住民は大いに困惑している。


 熱狂的な観光客ファンはまるで信者であるかのようにリピートを繰り返し、その度に仲間を増やして再び訪れる。そんな爆発的に増加する客人に対して町民はほぼ静観を余儀なくしているのである。


 宿泊施設はないし、食事する場所すら極めて少ない。ポツンと存在する食事処も働き手がおらず両手塞がりの状態だ。


 しかも先の安居渓谷などは申し訳程度の道路しかなく、それももちろん対面走行不可の片道道路だ。テレビで取り上げられた次の日は地域住民が寄合で安居に向かった時、観光客の車に遮られすれ違いの為に10回以上バックさせられたなんて嘆きも当たり前のように耳に入る。


 道路の整備の話もあるにはあるが、観光客からの収益体制が全く整っていない状態であり、更に景観を壊してしまうという恐れもあって話はいつもお流れだ。


 下流の河原にしても、夏はキャンプやバーベキューで人だらけなのに、無料開放で近くに店もないし、売る物もない。


 正直に言ってしまおう、仁淀川町は『仁淀ブルー』を持て余している。


 強力な武器を有していたとしても、半数以上が老人でしかも少数人口の町民にそれを扱う術はない。


 

 仁淀川町は切に願っている。


 『仁淀ブルー』を用いて、誰かが何かをやってくれることを。


 若者が集い、画期的なアイデアと共に活力に満ちた行動を起こしてくれることを。




 その証拠としてひとつ報告しておく。


 最近、人口6000に満たない広域の仁淀川町にコンビニが出来るという奇跡が起きた。


 その結果、経営者こそ他の地域の人だが、そこは連日大賑わいの大盛況で大黒字間違いない状態がずっと続いている。


 

 

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