彼の章1

―『我々にかたどり、我々に似せて、人をつくろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うもの全てを支配させよう』神はご自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女に創造された―


パタン、と彼は無言で本を閉じた。それを棚に戻すと、隣の本を抜き出して目を通し始める。もうずっと何年もそういった作業を彼は繰り返している。

別に誰かに頼まれた訳ではない。彼がそうしたくてやっていることだ。

そもそも、ここには彼以外いないのだ。存在していない。誰一人。いや、今はもういないといった方が正しいか。彼は一人だ。一人で図書館だった場所で本を読み続けている。人間の歴史の遺産を調べているのだ。だが、図書館での作業はもうそろそろ終わりそうだ。終わったら、別の図書館や施設を探すだろう。そうやって彼は旅を続けている。

旅の中で他の人に会ったことはまだない。できれば、旅の中で他の人に会う事ができれば、これ以上ないほど最高だろうと彼は思う。


ただ、同時に不安でもあった。自分はどうなってしまうのだろう。

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彼が遺したものは 玉三 @gyokuso

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