彼が遺したものは

玉三

序章

どうして、と彼は思った。

どうして争いは無くならないのだろう。

どうして人は傷つけ合うのだろう。


争いが無くなればいいのに、と人は言う。

平和で幸せな世界になって欲しいと人は言う。

こんなに多くの人が言っているのに、だ。

何故、人類は昔から平和を願ってきたのにも関わらず、なぜ、人は人を殺し争いを繰り返すのか。

どうして、と彼女は思った。


人の起源は謎だ。少なくとも今の人には。

約540万年前に祖先は生まれていたらしい。

いったいどうやって、何のために生まれたか、分からない。

今だって分からないから、答えを求めているのだ。

心の、魂の、脳の奥にある何か。言葉では言い表せない。知りたいという願望。もしかしたら別であるかもしれないその何か。

「知りたい」という言語記号に当てはめられたそれを。

ただ今は、どうしてと。何故なのだろうと思う。思っている。それだけだ。


地に草が生え、その草を食べに草食動物が来る。その草食動物を狙って肉食動物が食べる。食物連鎖。人間は雑食である。魚を食べ、肉を食べ、穀物を食べ…頂点にいる。いつからか、最初からそうであるのか。知るよしもない。

ただ、地球という、宇宙という謎に包まれた中の、謎の多い星を支配するに至っている。

本当に支配しているとは言えないかもしれない。が、人間は破壊している。

星のあらゆる資源を。地球の歴史からはほんのわずかな時間で、物凄い早さで、変えてしまっている。何故だろうか。分からない。どうしてだろうか。分からない。そもそも、どうして考える事ができるのだろうか。分からない。何のために。分からない。

生きるとは何だろうか。

死とは何だろうか。

今、自分が存在していることは…何であろうか。

分からない。

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