第6話

祖父の腕時計を眺めていた。

時針、分針、秒針、曜日、午前午後。

時計は動いていない。

俺が知っているのは、竜頭を触ると時間が止まると言う事だけだ。

他にも色々な機能がある筈だが、それはまだ分からない。

一見古びた男物の普通の腕時計だ。

曽祖父の説明書を見る。

意味を取ろうとするが、上手く行かない。

穂乃果・・・と思うが・・・『休め』って言ったしな・・・止めとこう。

まず、竜頭を巻くとどうなるか・・・恐らく・・・時間が巻き戻るのではないか?

しかし、穂乃果は危険だと言っていた。

どの程度の危険なのだろう?

時間が戻るという事はどういう事だ?

俺と言う物体がどうなるのだろう?

精神のみが戻る?

それとも、体ごと戻る?

竜頭の他に4つのボタン、というかこれも回転するのか?

これで何が出来るんだ・・・。

ボケっと、腕時計を左手で持って眺めている・・・・。

色々、想像する。

危険、無限の可能性、価値が無限大。

危険・・危険・・・穂乃果の恐怖・・・表情、恐怖の表情、怯え・・。

危険性か・・・・。

もう一度曽祖父の説明書と言われた和紙をめくる。

何となく意味が取れそうで取れない・・・。

古文もっと勉強しとくんだったな・・・。

必要性を感じなかったので、古文は完全に試験前の一夜漬けだ・・・。

これは、穂乃果に訳させなきゃ・・ダメだな・・・。

子機が鳴る。

「航一郎様、近藤公彦様がいらっしゃいました」

「俺の部屋にお願いします」

「はい」

藤原さんはやはり色々知っているな。そう感じた。

ドアがノックされる。

俺は腕時計を左のポケットに入れた。

さて、ここからだ。

「どうぞ」

「失礼します」

藤原さんがドアを開け、近藤がドアの前に決まり悪げに立っていた。

「入れよ」

「あ、うん」

近藤は少し委縮しているようだ。

「ソファーに座ってくれ」

「あ、ああ」

冷蔵庫からコーラの2リットルペットボトルを取り出すと、コップに二人分注いだ。

「暑かっただろ」

「あ、ああ、暑かったよ・・・」

「ほら」

コーラのコップを渡す。

「悪い・・・」

近藤はゴクリ、と飲んだ。そして、残さず飲み干す。

「勝手に注いで飲んで」

2リットルのペットボトルをテーブルに置く。

「悪いな」

近藤は二杯目を一気に飲み干す。

俺はコーラに手を付けず、それを見守った。

「眠くならないか・・」

「え?」

「まだ、大丈夫なのか・・・」

「お、おい、何言ってんだよ!」

「・・・・・・」

「まさか・・!」

近藤はコーラを恐怖を込めて見る。

「大丈夫だよ」

「何がだよ!」

「俺の目を見ろ」

「・・・え?」

俺の目を近藤が見た瞬間に俺はポケットの竜頭を触る。

時間が止まり、近藤が俺を見ているのを確認する。

さて・・・・・・。

俺はゆっくりと作業を始めた。

「・・・・・」

近藤の時間が戻る。

「え!?」

結構反応が早いな・・・・。

「お、俺・・寝てたのか?」

「・・・・・」

「なんの冗談だよ、これは・・・・・」

近藤が手枷と足枷をガチャガチャゆする。

「実はな、さっきのコーラには薬が入ってたんだ」

「・・・・・・」

「まぁ自白剤とかそういう類のものだ。危険性はほとんどない」

近藤は混乱の極みにあるのか、目を仕切りに周囲へ走らせ、冷静さを保とうと必死だ。すごい恐怖を味わっているのだろう。手枷足枷でソファーに固定されて手足は動かせない。動かせるのは頭と目と口位だ。

俺はグロックと呼ばれるモデルガンを近藤に向ける。

「知ってる事を全て話せ」

「や、止めてくれ!!!あぁああぁあああ!!ごめん、悪かったよ、ごめん、謝るから・・ごめん止めてくれ、俺は・・」

「早く話せよ・・」

グロックを近藤の眉間に向ける。

「わ、分かった。落ち着いてくれ、航一郎、いや、航一郎様!」

「お前こそ、落ち着け、別に殺すつもりは今はないよ」

「う、うん、そ、そうか・・・う、うん、俺は、いや僕は、君、いや、、」

「落ち着け」

「わ、分かった」

「話せ」

「な、なにを?」

「全てだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・」

「ダメだ、話せ」

俺はグロックの引き金に手を添えて筋肉をワザと緊張させる。

「お!!おれは!!知って、知ってたんだ、お前が、お前が、四井のあれになるかも、あれ・あれ・・あれに・・・」

「落ち着け」

グロックを下に向ける。

「話せ」

「わ、分かった、悪かった知ってたんだ・・俺はお前が・・・」

それから、近藤は最初から知ってて高校になってから近づいたこと、親友になれば将来の為になると親から言われていたこと、しかし、本当に友情を感じていたこと・・・等々どうでも良いことまで、声が枯れるまで話し続けた。

「もう良い。止めろ」

「あ、ああ、え、えーと、ま、まぁそういう事で・・決して」

「分かったよ」

「ありがとう。航一郎様、君には感謝してるんだ。色々と」

「黙れ」

「・・ああ」

「これから、選択して貰う」

「・・・・・・」

「俺に完全に服従するかどうかだ」

「・・・服従するよ」

「・・・・・・・」

「そりゃ、体拘束されて銃で脅されてるんだ・・・そういうしかないよな」

「・・・・・・いや・・」

「考えて決めろ、今すぐに」

「完全に服従って、どういう・・・」

「そうだな、俺が人を殺せと言ったら殺せ、死ねと言ったら死ね、どうだ、単純で明快だろ」

「・・・・・」

「どうした?さっきのはやっぱり嘘か?」

俺はグロックを再び近藤に向けた。

「あ、待て、ちょっと待ってくれ。お前落ち着いて・・」

「お前?呼び方が違うんじゃないか?」

「あ、悪い、ごめん、航一郎様、違うんです」

「で?」

「あ、ちょっと待ってくれ、銃を向けないでくれ、本当に怖いんだ」

銃を下ろす。

「で?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

近藤は考えているように見える。必死に。

「完全に服従したら、俺はどうなるんだ?」

「そうだな、今の親友のポジションを受け持って貰う。お前は優秀だし、容姿もいい。人材として貴重だ」

「そ、そうか」

近藤は一気に緊張が抜けたように、自然に微笑んだ。

「それに、お前には友情を感じているよ。近藤」

「ありがとう、ありがとう!」

「それで?どうする?」

「・・・俺なんかで、役に立つのか?」

「ああ、お前は自分で思っている以上に出来る奴だと思うよ」

「そ、そうか・・」

「さぁ決定しろ、今後の自分を」

「わ、分かったよ。俺はお前の、お前に・・完全に服従する」

俺はニコリと笑って見せる。そして銃をベッドに投げ捨てると子機を手に取った。

「藤原さん、ちょっと来て」

藤原さんに鍵を渡し、近藤の手枷、足枷を解いて貰う。

近藤はニコニコとハイテンションだ。

冷蔵庫からファンタの500mlペットボトルを出し置いてやると、旨そうに飲んだ。

「で、これから何をするつもりなんだ?こ、航一郎様?」

「何時もの呼び方で良いよ」

「あ、ああ、悪いな・・ってのも違うか・・こ、航一郎」

「これから、俺たちの学校を支配する」

「・・・・なるほど・・」

「お前には生徒会長になってもらう」

「俺が?」

「たぶんな・・・計画はこれから説明する」

「わかった」

「ちょっと見てろ、俺を見てろ」

俺は時計の竜頭をポケットで触る。

そして、近藤の後ろに移動して竜頭から手を離した。

「え!?」

「ここだ」

「え、ええ!」

「これが、俺の力だ」

「あ、え・・、あ、ああ」

「これから、共にやるぞ」

「あ、ああ、うん」

俺は近藤の肩に手を優しく載せた。

近藤の体はビクリと震えた。

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祖父の遺した腕時計 高橋聡一郎 @sososo

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