ひやかす

駅員3

『ひやかす』についてウンチ クを傾ける

 江戸時代は徹底したリサイクル社会で、現代よりもはるかに優れたリサイクルシステムを持っていた。竈や囲炉裏の灰から、厠の糞尿を集めて回るものまで、様々なリサイクルを生業とするものがいたが、古紙を集めるのもその一つだった。

 大棚などの商家を回って古紙を回収するものから、背中に籠を担いで街中に落ちている紙を拾うものまでいた。集まってきた紙は漉き直すのだが、その行程は概ね次のような手順になっている。


 川の水で冷やかして洗う

  ↓

 煮て溶解する

  ↓

 たたいて細かく分解する

  ↓

 漉き直す


 洗っただけでは、紙にしみこんだ墨は十分に取り除けないことから、出来上がった紙はねずみ色をしていた。この紙が、所謂『浅草紙』だ。浅草中心にこの紙のリサイクル業者が集まっていたことから『浅草紙』と呼ばれるようになったようだ。

 台東区山谷に『紙洗橋』があるが、この一帯に多くの紙職人が集まって、浅草紙を冷かしていたことが名前の由来となった。

 それではこの『浅草紙』は、何に使われたのか?

 浅草紙は、江戸時代には別名『落とし紙』とも呼ばれていた。またの名を『ちり紙』といえばお判りだろう。今風に言うと『トイレットペーパー』である。


 ということは、江戸の町の人々は、用を足した後は紙で拭いていたということだ。用を足した後紙を使うのは、世界的にみても先進的文化を持っている証でもある。現代でも用を足した後は、葉っぱで拭いたり、縄でこすったり・・・


 漉いた浅草紙は、約19cm×約21cmの規格に切りそろえられて束にして売られていた。その浅草紙とほぼ同じくらいの大きさのものに、『浅草海苔』がある。

  『浅草海苔』というと、江戸前の海苔のことを言うが、その名前の由来は諸説ある。その一つは、浅草の門前で売られたからというものだ。しかし私はこの説よりも次の説のほうが説得力があると思う。

 それは、「『浅草海苔』の製法に、『浅草紙』の製法を取り入れたから。」というものだ。 江戸時代以前の海苔は、海から採ってきたものを単に乾燥させただけのものだった。

 ある日、浅草で『浅草紙』を漉く様子を見て、採ってきたのりを細かく刻み、刻んだ海苔を漉いて乾かして板海苔とすることを発明したことから『浅草海苔』とい言われるようになったというのだ。

 『浅草紙』は、ティッシュペーパーのご先祖様だが、一般的なボックスティッシュを広げて、海苔1枚とその大きさを比べてみると、どちらも19cm×21cmで、ほぼ同じ大きさになっている。


 さて、『ひやかす』という意味について、一般的に「買う気がないのに売り物を見たり、価格を聞いたりする」ことを『ひやかす』という。

 冒頭で『浅草紙』の製造工程を説明した。その第一の工程で「川の水で冷やかして洗う」とある。 紙を漉くのに、川からくみ上げた水を貯めた水槽に、回収してきた古紙を投げ入れて、2~3時間水を染み込ませて軟らかくする。この工程を『冷やかし』といった。

 古紙を冷やかしている間職人達は暇になるので、時間つぶしに吉原に繰り出して、遊女たちをからかって帰るだけなので、彼らのことを『紙を冷やかしてきた連中』・・・ということで、買う気もないのに、遊女をからかうことを『ひやかす』と言われるようになったとか。それが転じて今のように使われるようになったのだろう。

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