最終話「もう帰れない5年前」

 あれから、瞬はきっちりやくざへの道へと進んでいった。中3の時には学校に行かず、すっかり賭場に入りびたり、勝ち額も増えていった。その金を目当てに悪友はさらに増えたし、女にも困らなくなった。やくざの事務所にも入り浸るようになり、絶対に勝負所で負けない勝負師として,瞬は組長にも気に入られ16歳にして、組長に同行して、いろいろなところに遊びに行くようになった。

 

 もちろん瞬は高校への進学などできなかったし、考えてもいなかった。そんなつまらない事をしてどうするとおもった。「勉強なんて下らねぇ、自分は今同じくらいの年齢のやつらと比べて、最高に特別で、最高に楽しい人生をおくれている。いい女を抱いて、うまいもんを食って、いい服を着て、俺ほどかっこいいやつはいない。」というのが彼の持論だった。

 

 瞬の家はシングルマザーではじめこそ、親も心配していろいろ口を出していたが、瞬が16になり、母親に毎月30万くらいの金を渡すようになると、何も言わなくなり瞬の好きにさせるようになった。母親は仕事をすることをやめ、瞬が持ってくる金で生活し、遊ぶようになったのだ。

 つまりそれを余裕で稼げるほど瞬は賭場で荒稼ぎをしていた、バックにやくざのお墨付きを得てからは、得意の手本引きで相変わらず、最後に大張をして前とは違い遠慮をせずに大量の金を各地の賭場から奪っていった。

 また、組同士の大きな博打のときに駆り出され、そのときの最後の切り札として出ることが多くなっていった。その報酬が通常の賭けとは比べることができないほど、とんでもない額だった。瞬はもうどっぷり裏の世界の人間となっていた。

 

 しかし、絶頂期は続かない。同じような生活を2年続け、組長の客分として尊大にそして傍若無人にふるまっていた彼だったが、すっかり警察にもマークされ、とうとう18歳の時、賭場ででかいギャンブルをしていた際に警察に踏み込まれ現行犯逮捕された。もちろん捕まる直前に5秒戻しを試したが、5秒戻すくらいではどうにもならなかった。


 通常賭博の初犯なら執行猶予か不起訴である。しかし、彼の場合常習性が認められたうえ、余罪として麻薬取締法違反、婦女暴行まで出てきてしまった。きっちり実刑を食らってしまった。


 そして彼は刑務所にぶちこまれ、そして気づいてしまった。自由のないそして、周りにほとんど人がいないこの状況では、5秒戻すことができても何の役にも立たないのだと。

 この能力は周りに人がいて初めて役に立つ能力だったのだ。

初めて彼は、今までの自分の人生を振り返り、そして後悔したのだった。

 そして彼はこうも思った。

「もし神がいるなら、なぜこんな能力を俺に与えたのだ。この能力がなければ俺の人生は狂わなかった。地味だけどまっとうに高校生をやっていたはずだ。」と

 調子のいいことに彼は自分を助け続けた能力を呪ったのだ。



 そして彼はあの時のように、あの中1の時のように強く祈った。

 時よ戻ってくれ、あの能力を得る前の時まで。

 5秒じゃなく、5年戻ってくれと強く祈った。


 __果たして時はもどった。


 __彼の願いのまま、5年前のあの時まで戻ったのだ。


 ちょうど、がけから突き落とされた直後の時間まで、彼の時は戻った。


 5秒戻ってくれと彼はもう一度祈りをささげたが、時は二度と戻らなかった。



  終

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MK5(まじでKする五秒前) ハイロック @hirock47

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