その託宣は、多くの者の人生を狂わせた。これからも。

白い髪に緑の瞳の乙女が災いをもたらす、という大神官の託宣。
捕らえられた少女は、殺すと災いが広がる恐れから、森に軟禁された。
九年後、新しい監視役の騎士が、グリンワーズの森へとやってくる。

殺してほしいと願う、自分の名も忘れた少女と。
『災厄の乙女』を憎む青年レギオンが、次第に心を通わせていく物語です。

ではあるのですが。

森に囚われている以上、『災厄の乙女』は、他の場所にはいないはずなのに。
白っぽい髪、緑に近い瞳。
少しでも『災厄の乙女』に似た女性たちは、国の至るところで迫害されます。
娼館に売られ、通り魔に殺されても「仕方ない」と冷笑される。
特定の容姿の人物に対しては何をしても構わない、という空気が。
宗教(「託宣」)のお墨付きで、国中にできあがってしまっている。
それが、ものすごく怖い。
「託宣」がなくとも、天災は起きるし、親に売られる子もいる。
でも「託宣」のせいで、人々が、不満のはけ口を見つけてしまった。

少女とレギオンが、全ての人々を救うのは無理だし。
罪も責任も、二人にはない。
彼らには彼ら個人の幸せを追求する権利があり、幸せになってほしい。
けれども、「託宣」で狂ってしまった国は、どうすれば軌道修正できるんだろう。
そんなことを、読後ずっと考えてしまいました。