地図の不思議

駅員3

石敢當

 ある日、自宅のある場所の住宅地図を見る機会があった。ベージを繰って該当ページを探し出して自宅を見つけると、「えっ、何これ?」と、思わず目を疑った。

 自宅のある場所に私の名前が『駅員3』と表示されているのは当然のことながら、もう一つ名前が併記されているのである。

 それは、『石敢當』さん!


 『駅員3』は決して『石敢當』さんと同居しているわけではないのに、なんでこんなことになってしまったのだろうか?

 これこそが、「住宅地図の製作会社は、現地調査を行って住宅地図を作成している」という証拠でもあるのだ。


 まずはこの謎を解く前に、『石敢當』についてご説明しよう。

 『石敢當(いしがんとう)』は、お隣中国は福建省が発祥の地といわれる魔よけで、日本でも沖縄から東北まで各地に見られるものだ。

 しかしながら、内地に存在するものは非常に少なく、圧倒的大多数は沖縄に存在し、現代でもその伝統が受け継がれている。

 沖縄では、市中を徘徊するマジムン(悪霊の総称で、動物の姿になったマジムンに股の下をくぐられると死んでしまうという言い伝えがある)は、真っ直ぐ前にしか進めないため、道の突き当たりにぶつかると、その突き当りにある家の中に飛び込んできてしまうといわれている。そこで、丁字路の突き当りには、魔除けの『石敢當』を置くようになった。マジムンが『石敢當』にぶつかると、砕け散ってしまい、家の中に入ってこれないのだ。


 さて、駅員3の家は、西側の道路に面して門柱があり、その前は丁字路になっている。昔沖縄に暮らしていた駅員3は、地元のホームセンターをぶらぶらしていた。すると東京に建てた自宅の門柱についている表札に酷似した大理石製の『石敢當』があるではないか。思わず手に取ると、レジに並んでいた。

 数年後東京に戻った時に、「石敢當」を自宅の丁字路の突き当たりの門柱脇の壁に貼り付けたのである。以来十数年にもわたって、駅員3は『石敢當』さんと同居することに相成ったのである。

 石敢當は、石にその文字を彫ったものが一般的で、地元のホームセンターに行くと、どこにでも置いてあるようなポピュラーなものだ。小さいものは、表札大のものから、一抱えもある大きな石のものまで、置く場所に合わせて買い求めることが出来る。


 おそらく住宅地図製作会社の調査員は、魔除けとしての『石敢當』を知らなかったのだろう。もしこの調査員が沖縄に行って調査をしたならば、沖縄の住宅地図には、そこらじゅうに『石敢當』さんが暮らしていることになる。

 しかし、沖縄の住宅地図に、「石敢當」が記されることは無い。


 また、こんな話しもある。

 ある日黒い猫がシンボルマークの宅配便の配達員さんが、駅員3のところに荷物を運んできた。荷物の受け渡しが終わると、配達員の若いお兄さんは、

「ところで駅員3さん、あの玄関左側についている表札に書かれた難しい『漢字の名前』は、なんてお読みするんですか?

 この方に荷物が届いたときに、スムーズに荷物を配達できるように、私のアンチョコにお名前をメモしておきたいのです。」

 さすが宅配便やさんは、素晴らしい社員さんをお雇いだ。今どきの若者に珍しく、自身の仕事に誇りを持ち、自らの仕事に工夫を持って取り組んでいる姿には、感動させられた。

「ああ、あの『石敢當』ね。あれは『イシガントウ』と読むんだよ。残念ながら、あれは表札ではなく『魔除け』だ。」と話すと、二人で大笑い♪


 話しは脱線するが、沖縄にはもうお一人超有名人である魔除け・・・守護神がいる。

そう、『シーサー』だ。シーサーは災いをもたらすマジムンを追い払う伝説の獣で、「獅子(しし)」をうちなー口で言うと「シーサー」となる。

 もとは、屋根を瓦で葺くときに、割れた瓦を集めて漆喰で固めてシーサーの形にしたもの1体を屋根の上に置いたのが始まりだ。

 いつしか内地の狛犬の影響を受け、阿吽の形相の2体を一対として玄関などに飾られるようになった。最近ではピースをしているシーサーなどさまざまなものが作られている。


 この笑い話のようなおかしな話しを、いつか琉球新報か沖縄タイムスに投稿しようと思っている。

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地図の不思議 駅員3 @kotarobs

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