第21話 スティーブさんとエリザちゃん
「はいはい、それじゃあ挨拶はここまで! あとはみんな好きにやってね。
挨拶が終わると、母さんの号令で宴会が始まった。
ぼくは八木さんに手を引かれ、公民館の中央へと連れ出された。エルフたちはパイプ机に料理や飲み物を並べ、楽しそうに手を付けている。
「よろしく、領主さま。お飲み物はありまして?」
「ミツルさん、好きなものを取ってください。このへんおすすめですよ」
あっという間に、ぼくの周囲に人だかりが出来てしまった。
エルフたちは次々に握手を求め、自己紹介をしてくれるのだけど、みんながみんな若々しい美形なので、顔の区別がつきにくい。これは慣れるまでは大変そうだ。
美形過ぎて無個性にすら見えるエルフたちだったが、中には一目見たら忘れられない印象を残していく者もいた。
「ミツルさん! さきほどはありがとうございます。うちの両親からもお礼を言わせてください」
そう言いながらパルムが連れてきた二人は、なかなかに個性的な姿をしていた。
「はじめまして、ミツルさん。新たなる辺境伯よ。うちの息子がたいへんお世話になりました。パルムを救ってくれたこと、感謝しています」
にこやかな笑みを浮かべて手をさしのべてきたエルフは、黒いタートルネックにヨレヨレのジーンズを身につけていた。
体毛の薄いエルフにしては珍しく、薄くあごひげを生やしている。黒縁の丸めがねの奥では、理知的な瞳が鋭い光を放っていた。
この格好、すごく見覚えがあるのだが、もしかして……。
「私はデルストリア聖王国辺境伯領の技術部門の責任者を務めておりまして、エルフとしての名前は、〈大いなる知恵の枝〉ステーミルタスと申します」
俺が手を握り返すと、パルムの父——ステーミルタス氏は強く握り返してきた。
「が! 日本の方には、私の名前は発音しにくいでしょう。私のことは、どうか親しみを込めて、スティーブとお呼びください!」
「え、ええっと……はじめまして。よろしくお願いします、ステーミルタスさん……」
ステーミルタスさんの眉が、悲しそうに下がった。
「……じゃなかった、スティーブさん」
「はい、ミツルさん。こちらこそ!」
言い直すと、ステーミルタス改めスティーブさんは再びにこやかな笑顔を取り戻し、握手した手をブンブン縦に振った。
戸惑う俺に、パルムがこっそり耳打ちする。
「すみません、ミツルさん……。うちの父、あの人の大ファンなので……」
「う、うん。それは服装でなんとなく」
保護区でiPadやMacBookをよく見かけるのは、どうもこの人の影響らしい。
「こーらー、いつまで握手してんねん! あとがつかえてんねんで? 早ようどき」
そう言いながら、笑顔のスティーブさんと戸惑う俺の間に入ってきたのは、鋭い顔つきの美女だった。白に近い銀髪をひっつめにして、黒のゴシック調のドレスの上に白衣を引っかけている。
「うちの亭主がえらいすんまへんな! スティーブくん! あんた、ホンマいくつになっても空気が読めへんな! まったく、何百年生きとんの?」
割って入ってきたのはパルムの母親らしい。でも、なぜ関西弁……?
「空気を読めないだなんて、君にだけは言われたくないね! だいたい、パーティに白衣を着てくるなんてありえるかね?」
「それこそ、あんたにだけは言われたくないわーい!」
よく分からないが、夫婦漫才が始まってしまった。パルムが苦笑いしている。
「あ、失礼しました。ミツルさん、こちらが私のワイフのエリザベスです。エリザでもベスでも、好きなように呼んでやってください」
「ほんまの名前は〈癒しの風〉エリュアーネ言いますねんけど、どうとでも呼んでもらってかまいませんよ。うちはエリザちゃんって呼ばれるのが好きやけど! ウフフ! これでも、辺境伯領の医療部門の責任者ですんで、今後とも、どうかよろしゅ、ミツルはん」
エリュアーネさん——いや、エリザちゃんは早口で言い切ると、片目で俺にウィンクした。
「うちの両親がすみません、ミツルさん……」
「ふだん、家でもこんな感じなの?」
俺の問いに、パルムは眉をしかめながら「はい」と首を縦に振った。
「だいたいなんやねん、毎日毎日同じ服ばっかり着おってからに! 亭主の服がそんなんやと、女房の甲斐性が疑われるからやめてほしいわ!」
「毎日着る服を変えるなんて非合理だ! 服を選ぶ時間が無駄だとは思わないのかね!?」
こそこそと
パルムが素直な良い子に育った理由が、ちょっと分かった気がする。
こちら日本国、埼玉県エルフ保護特区 怪奇!殺人猫太郎 @tateki_m
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