JK研究室
僕は本葉イズムという名前で、大学でJ(女子)K(高校生)を研究している者だ。
僕は先日『彼氏が居ない女子高校生はJKではない』という文を、とあるSNSで目にした。
この一文が、「では、一体何なのか」という疑問と共に頭のなかに引っかかり続けていたのだ。
これの答えを知るべく、私は市内の高校に向かった。
市内と言っても、高校生は生物的に人間とは違う生物なので研究区画という名目で隔離されているのは周知の事実だろう。
昔は高校なぞ、街の中や海の近くにも配備されていたが、現代では第二種隔離生物として認知されている。卒業の日には大規模な確認試験が行われ、そこで社会に出しても安全かどうかを確かめる。
駄目ならもう一年、高校をやり直すことになる。
なぜ高校生だけが危険なのか。それは病気だとも、人間の成長過程の一段階だとも言われているが、まだそのメカニズムは判明には至っていない。
そして僕はその研究の第一人者、というわけだ。
僕は”スマートフォン”の普及による”現代病”だと思っている。
今回はそういった研究を口実に個人的な調査に乗り出しているというわけだ。
研究都市の一角にある「栄光高校」という高校に来た。
ここは例のSNSの文を書いた高校生がいる場所だ。
なぜ分かるかというとJKはSNSの自己紹介文の場所に今いる高校名を書いているからだ。
こういった行為は政府の3種危険行為に指定されているが、この研究都市では黙認されている。
見た目がまず異様なのだ。ここは。
グラウンドは砂ではなく陸上のトラックの合成ゴムで出来ている。
校舎はレンガ造りで、地震が来たら倒れるのではないかというほどに、西洋かぶれしている。
この高校の校長には許可は取ってある。準備は万端だ。
しかし時間は2時間目終了までだそうだ。それ以降は生命の危険が伴うので政府の方で禁止されているのは知っていたが3時間目までは時間が欲しかった。
毎度のことだが、高校生は僕のことが見えていないのではないか、というぐらい興味がない。彼らは自分の興味がある事以外に価値が無いと思っている。
そのためこちらがぶつからないように注意を払う必要がある。これが一番緊張するのだ。
校長には2-A 教室を対象にするようにと言われたので、言うとおりに2-A教室に後ろのドアから入る。ドアは空いていたで音無く入ることが出来た。
1時間目の授業らしく、数学の教師が教鞭を取っていた。
「えー、ここは鋭角で、ここは鈍角と言います」「えー、教科書128頁の太文字部分はテストに出ますからノートに取るなりしてください」
学生たちはノートに”128ぺーじ テスト”と書いているようだった。
ビーッビーッビーッ
この音は授業の終わりのチャイムだ。この研究をしていて何回か聞くが未だに慣れない。
ガタガタとイスを引く音が広がって行く。
「では授業を終わります」
といって生徒は礼もせず、教師もそのまま教室から出ていった。
さて、調査開始だ。
女子の容姿からメモを取っていく。
膨らみきった涙袋に、妙に赤い頬、目の横に触覚のように垂らした髪と…
Yシャツの上から着た袖が伸び切ったカーディガン…か。
あとはスカートの下にジャージを着ている女子に、ブランケットを腰に巻いている者も見られる。
他の研究者の調査とほぼ同じだ。最近はどこでも同じような容姿らしいな。
男子らのほうは、寝癖のようなモファとした髪型に、尻が見えそうなまでのズボンの下げ具合。そのズボンのポケットから丸見えになっているチェーンの付いた財布、と。
こちらも今までの研究どおりだ。
さて本題だ。『彼氏の居ない女子高生はJKではない』という文の謎を調査していくことにする。
まず彼氏持ちの個体を探さなければなるまい。幸いここは女子と男子の割合がほぼほぼ同じだ。一パートナーくらいは出来上がっているはずだ。
長年の研究で培ってきた目を酷使し、教室の後ろから探す。
探していると女子がスマートフォンを使いだした。そして少し遅れたタイミングで席の離れた男子が同じくスマートフォンを使いだした。同じコミュニケーションツールのようだ。これは脈がありそうだ。
どうやらこの教室の誰にも僕のことは見えていないらしい。触れば気づかれるだろうがそんな真似はしない。なんらかの不満や怒りを買おうものなら僕自身がこの地で死ぬことになる。
注意をはらいその二人を観察することにした。
その女子は前述した容姿の特徴を完全に網羅していたし、男子もそれは同様だった。
女子がどうやら自分の顔を犬化させた、いわゆる自撮りという写真を男子に送ったようだ。男子は顔をほころばせ”かわいいね”と送ったようだ。
それを読んだ女子はその画像をSNSに投稿した。
なになに…?『私まじでぶさぃく。。。』か。
仮にも彼氏に褒められた顔面番犬を悪く言うのは男側に悪いとは思わないのか。
というかこのアカウント、『彼氏の居ない女子高生はJKではない』と発言していたアカウントじゃないか。なんとまぁ。
彼氏の居ない女子校生と彼氏の居ない女子高生を比べる必要がある。
教室壁側でずっと本を読んでいる女子を後者としよう。
実は校長から生徒プロフィールを拝見させてもらい、彼氏が居ない女子だけは狙いを定めていたのだ。
しかし読書女子を観察したところでなんの変化も見られない。本を読んでいるだけだ。実にいい趣味だが、誰かと話すなどはしないのだろうか。
…変化なし。
一方の番犬ちゃんはコミュニケーションツールを使っての彼氏との話に没頭中だ。
口頭で話せば良いのに、と思うが我々には理解のしようがない。分かるなら隔離などしない。
もうすぐ2時間目のチャイムが鳴る。それまでに違いを見つけなければ。
読書さんはまだ読んでいる。わんわんちゃんは彼氏との膨れた涙袋をぱちぱち動かしてスマートフォンをいじっている。違いは視界しか見受けられない。
視界。見ているものが違う。
そもそもあの『JKではない』というのが彼女の固執した見解なのでないか。
高校生という生物でも千差万別あるのだ。
研究者でもないのに個高校生の代表として答えを出すのは間違っている。
…高校生というのは大概が、間違う生物だ。
彼氏の居ない女子高生はJKではない。それはきっと彼女らの中では、ということなのだろう。
女子高生という生物の研究をするにあたり、彼女らの視点ではなく、研究者としての視点を保ち続けなければきっと分かり合うことなどできないのだろう。
僕は二時間目のチャイムと同時に教室を出て、校長に帰りの挨拶をして帰った。
少し早いが何かが分かった気がしたため、早速大学に帰ってまとめたくなってしまった。
校長が帰り際『なにか、わかりましたか?あれら、いやあの子らは、きっと怖いんですよ。社会が、外が。だからここにいる時間を永遠だと思い、間違いを犯す。私は病気でも何でもない、人間が成長に必要なものを学ぶ期間なんだと思います。個人の見解ですがね』と笑って話してくれた。
僕もその説を少しだけ支持してみようと思った。
僕は自分の”現代病”という説を、これから対策が必要になるであろう病気を主張し続け、研究し続ける。でもただの研究ではなく、”彼女らのため”の研究として。
でも顔面番犬だけは一生かかっても理解できないと思うのは墓までの内緒だ。
短編 ヨモスエ/ささウ @yomosue
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