涙(るい)くんと喜子(きこ)

エリカ

涙《るい》くんと喜子《きこ》

 るいくんはとても明るくて、人も明るくする喜子きこが大好きでした。

 喜子きこは、人々の悲しみを癒してくれる、るいくんが大好きでした。


 でも、2人は、あまり近くにはいられません。


 どこかで、宝くじに当たった人がいました。そんな時、喜子は現れます。

 喜子は、涙くんを探しますが、そんなところに涙くんはいません。


 どこかで、お葬式が始まりました。そんな時、涙くんは現れます。

 涙くんは、喜子を探しますが、そんなところに喜子はいません。


 喜びのある場所にしかいられない喜子。悲しみや恐れのある場所にしかいられない涙くん。2人は、なかなか出会う事ができません。


 どこかで、試験の合格発表がありました。合格に喜ぶ男の子の隣には、喜子がいました。喜子は周りを見渡します。

 すると遠くに涙くんがいました。喜子は嬉しくなって、涙くんの元へ駆け寄ろうとしました。

 しかし、涙くんの隣には、試験に落ちて、大変落ち込んでいる女の子がいました。涙くんはその子をそっと見守っています。


 その様子を見た喜子は、涙くんの元へ行く事はできませんでした。


 いつか、彼と同じ場所に行きたい。

 いつか、彼女といたい。



 その2人の願いは、不意に叶いました。


 広い原っぱの上、2人は、現れました。


「涙くん、どうしてここに?」


「喜子ちゃんこそ、どうして?」


 2人は手を伸ばし、握ろうとしました。

 するとその時、背後で大きな音がしました。


「ドーン」


 大きな爆発音が鳴り響きます。



 そこは戦場でした。



 一方が、白い旗を振りかざしながら、泣いています。

「助けて、助けてください!」


 一方は、歓喜の雄たけびを上げています。

「やった。勝利だ! 我々の勝利だ!」



2人は、結ぼうとした手を引っ込めました。


「もうあなたとは、会いたくない」

喜子が言いました。


「僕も、君と同じ場所には居たくない」

涙くんが言いました。



そして、2人は離れました。



2人が同じ場所にいる事は苦しいことなのだ。

2人はそう考ました。





 ある日、また涙くんは、大きな声で恐怖に怯える子の近くにいました。

「泣かないで。 怖くないよ」



 その時、喜子は、優しい喜びで満ち溢れた女性の近くにいました。

「喜びを十分に味わってね」



 喜子が顔を上げると、そこには涙くんがいました。


 喜子は慌ててその場を離れようとしました。


 しかし、その場所に、喜びに満ち溢れた笑顔の人たちが、どんどん現れるので、その場を去ることが出来ません。




 周りを見渡すと、そこは、病院の1室でした。


 この世に生まれ出た恐怖で一杯で、泣き叫ぶ赤ちゃんを、嬉しそうな顔でお母さんが抱っこしていました。

周りには、パパや、おじいちゃんや、おばあちゃんが、笑顔で取り囲んでいます。




 涙くんはゆっくりと喜子の方へ手を伸ばしました。

 喜子は、笑顔でその手を強く握りしめました。



 


 2人は、1つの愛になりました。

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