原本から 密憾(みかん)が 創作

[2] 材料に みかん汁 を掛けて、サッっと和えますと… こういう感じに仕上がります。 どうぞ 皆様、召し上がれ。


【あ~ぁ ちょっと怒った感じで、出てきたけど マズったかな?】


バッグに ざっくり入れてきてしまったA4封筒を、ファスナーを 開けて、キレイに入れ直しながら… ホームへの階段を 降りる。


【しっかし ページ合ってんだろうな…  あいつに 仕事任せると、いっつもこうだ わかってんだけど、少しでも 良くなって欲しいからな】

打ち合わせ先へと 部屋を出た矢先に、廊下で 部下から、入れ忘れの資料を 1枚渡され、つい 声を荒げてしまった。


【駅に着いたら どっかで軽く食べながら、ちゃんと資料に 目通しておこ】

【あぁ… 新しく入れ替える 予備のA4封筒、持ってくりゃ 良かった、俺も まだまだだな】 


 丁度 ホームに、列車が入ってくるところだ。

ドアが開いて 乗り込む。


【お! あそこ1つ、空いてる】


一郎が 近寄ると、老夫婦が ささっと、そこへ向かってきて 旦那さんの方が、奥さんだけを 座らせようとしている。


【 っンッ】


進もうとしてた 足が、スピードをおとして 変なリズムになった。


【素敵だなぁ 俺も、あぁいう風に 振る舞える、旦那になりたいもんだ】

【どうせ 2駅だし、立っとくか】


空いてた所の 隣に座ってた、サラリーマン風の男性が スッっと立ち、旦那さんへ 席を譲った。

その彼は 斜め右向い側の、ドアへ 背もたれて立った。


彼と 交差するように、俺は その向かい側のドアへと、足を運びながら


【気持ちいい 席の譲り方するなぁ】


ドアの手すり棒に 寄りかかり、反射的に 老夫婦を見ようと、少し視線を上げると…


【  ん… 恵子?】


もうちょっと 良く見直して見る。

老夫婦から 手前の所に座ってる、スーツ姿が 決まってて、膝の上に バッグを置いて、その上に 資料を出し、茫然と 席を譲った男性を見ている、女性。


【やっぱり 恵子だ。】


脈の音が ホンの一瞬、少し 早まった。


【俺 恵子の事、好きだったんだよなぁ】

【ン? 恵子のヤツ?さっきの 席譲った男の事、気にしてるのか?】


何気ない感じで ちょっとだけ、顎を右に傾けて 覗き見る様に、男を見てみる。


【  …  えっ 匠?】

【えぇ~? 匠かょ】

【え? あいつら、付き合ってたよな?】

【ん?? あの感じだと、終わってんのか あの2人】

【フッ 匠のヤツ、さりげない感じで 老夫婦に、愛想して。あいつ 変わんねぇ~な。って、あいつ 恵子の事、気付いて無いのかよ! まぁ あいつなら、そうかもな】


そぉ~と 恵子の方へ、視線を移す。

【恵子 まだ、匠の事…】


匠の事に 気を取られてる、恵子。

【俺は やっぱり、圏外か、、、】

【しかし… 恵子、あの頃より 女らしくなって、仕事も 出来るって感じだよなぁ】

【3人で よくサークルの後、俺ン家 来て、「あぁでも無い」「こうでもない」って 朝まで、話して そのまんま、ゼミ遅刻したりして】

【あの時 恵子、俺に もたれかかったまま、寝ちまって。トイレに行きたいのに 行けなかったな…】

【 …(照】

【そんとき 匠も 寝入ってて、恵子の唇のとこ 指で、チョンとだけ 触ったな】

【益々 トイレ行きたくなって、ヤバくて 堪らんようになって、結局 恵子、起しっちまった。あん時 もったいなかったよなぁ…】

【やべぇ ホントに トイレ行きたくなったぞ、会社を出る時 怒って出たから、済ましそびれてたんだった。もう 次の駅だし、どっか食べに入ってからにしよ】


駅に着いて こちらのドアが開いて、降りようとする。

恵子も降りる気配。

【 …っ! 匠の方ばっか見て】


【本当は 声を掛けたかった。掛けたかったが、あの様子の 恵子に 声を掛けても、上の空だろ。俺は いつでも、圏外。いいよ いいよ】


振り切るように 改札へ向かう。


【あ~ぁ 何か余計に、腹が減ったぞ】

【さっと 立ち食いでも…  あっ 資料見るんだった。そういう訳にもいかないな。】

【カレー屋かぁ カレーな気分でも無いな… って おぃ!打ち合わせ前に、カレーはNGだろっ そんな基本も 忘れてんのかよ俺、やっぱなぁ… あんなの見せられちゃなぁ、、、】


駅を 出てすぐ、コンビニと その横に、ファミレス系の少しコンパクトサイズの レストランが。

【あそこが 良さそうだ】


近寄ってみると 結構 混んでいて、ガヤガヤしているのが 外に居ても聞こえる位だ。

【あんまり 気分じゃないかな…】

【コンビニで 何か買って、どっかその辺の公園でも… あっ それじゃ、資料が… 何かあって 飛ばされでもしたら、マズいしな】

【う~ どっか落ち着ける喫茶店みたいなのが あればなぁ? この辺の事 良く知らないしなぁ…】


仕方なく フラフラと、歩き出す。

先ずは 店探し。

【あぁ~ そういや、1度だけ サークルの歓迎会で、この先の 堤防の所で、BBQしたな。どこら辺だったっけ?】

自然と 堤防の方に、足が向いていた。

【おっ 時間? まぁ 14時からだし、まだ大丈夫だろ】


少し早足で 川の方へ

【あの時 初めて、恵子や匠と 知り合ったんだよな】

【恵子 かわいかったよなぁ~】

【ポニーテールだったもんな。あの頃でも そんなに、ポニーテールなんてしてる子 居なかったから、印象に残ったんだよな】


などと、思っているうちに 堤防を上がる階段前。

一気に 駆け上がって、眺めてみる景色。

【あぁ あの頃より、整備されてて キレイになってんだな】

【どこだっけな… BBQしたのって】

【あそこの橋が 見えてたし、そこら辺かな?】


平日の日中 アスファルト舗装された、ベンチが 3・4個 と 遊具といっても、動物を象った 据え置き型の物が2体あるだけの 簡易の公園。

子供3人と それぞれのママが2人、ランチを広げて 食べてる。

とても 穏やかな、気持ちの良い 昼の景色を、上から 眺めて。


大きく 息を吸ってみた。

【子供かぁ…】


川風が 吹き上げてきて、少しだけ 冷やっとした。

【やっぱ トイレ】


堤防を降り、駅の方へ 戻る。

【さっきの ファミレスのとこにしよう】




【あれ? さっきと道違うか?】

見覚えの無い 景色。

【行きと 帰りとでは、景色違ってみえるっていうし。そういう事か…】

更に 進むと


角に、壁全体に 蔦が這っていて、茶色の 三角屋根瓦。その後ろは 鉄筋コンクリートの自宅が併設されて、そっちにも 蔦が絡まり伸びている。おしゃれな アンティークの街燈が、うっすら燈る 純喫茶風の店が 目に入った。

【わ… いかにもぉって感じで、落ち着きそうだ】


何となく 入り辛い感じもしたが、とりあえず 静かで、気持ちを 整えれる所の方が良かったから、思い切って 扉を押した。


中も思った通り。

質の良い珈琲の香りが、いやみ無く鼻を刺激して。

カウンターには マスター。

白髪・白ひげ、きちんと襟のたったシャツに、控え目な蝶ネクタイ、ネクタイと同じ色のベストを着て。

コーヒーサーバーを 拭きながら、目を 手元から離さず、低めの声で

『いらっしゃい』


カウンター横に、ダッチコーヒーのセットが 3台並んで、ゆっくり抽出中だ。

家具の設えも、それぞれ こだわりが見えて、年代物ばかり。


カウンターには 椅子が3つ。その後ろに 椅子2つのテーブル席。もう1つテーブルはあるが、その上には オブジェが飾られいる。

店内には お客は居らず、テーブル席へ と思ったが、水と銀製の凝った作りの容器に、使った様子の おしぼり。

【もう1人 客がいるのか…】


しかたなく カウンターの真ん中の席に座る。

メニューらしき物が 見当たらない。

マスターに

「何か 軽く食べれますか?」

『サンドイッチなら』

「じゃぁ それと、コーヒーで」

マスターは 頷いたのか、どうかわからない感じで。サーバーを置いて、ナプキンをその上に掛けて。

西部劇の酒場の 入口みたいな、押し扉を押して 奥の料理場へ。


【すっごい マヂまんまな感じだぁ~】

ダッチコーヒーセットの向こうに 目をやって、額に入っている 昔の映画のポスター、その下の 蓄音機。その蓄音機だって 通常見る形とは、かなり違う感じだ。

そこに オブジェを置いている、テーブル用の椅子と思われる チェアーが2脚 置かれている。

明り取り用の ちっちゃな出窓は、黄色を基調とした ステンドグラス貼りで、飾り小物が 置かれてる。映画用キャメラのミニチュアや 写真立てには、アメリカの往年のスターだろうか、茶色くすすけて 誰だか わからない。

【誰かな?】



ざぁぁぁーー

バタンっッ


と、左奥の方から 音がして、もう1人の客が トイレから

出てくる様だ。

【そうだ 俺も、トイレ】

振り返って 立ちあがりかけると、もうすぐ目の前に


「恵子?」









ーーーーーーー




 強い夕日が差し込む 部室に。




コンタクトが ズレそうになって、俯いて 手鏡で、直している 凜華。

その前で 原稿用紙に、赤ペンで 書き入れをしている、大樹。

カーテンを閉めにいっている 翔真。


 高校の演劇研究会に 所属する、2年の 三人。

「ねぇ ちょっと、一郎って 名前なくない?」

まだ 直りきってない、コンタクトを いじりながら、凜華がいう。


『仕方ないじゃん ちょっと昭和な感じのが設定だろ?』

と 赤ペンを、指で遊ばせながら 大樹が言う。


【にしてもなぁw そうなってくると、ホントは 話し方とかも 違ってくるはずだよな】

更に 隣のカーテンも閉めながら、翔真が言う。


「この続き考えろって 先輩、ヒドくない?」

『今度の 発表会でやるんだってさ』

【皆のシナリオを 合体させて、1つ作りたいんだろ?】

「で これから、どう展開させるよ?」

【とりあえず 恵子と一郎が会ったよな】

『ここからだよな~』

「あ・これ もう、匠は出て来ない?」

『あ~ そこかぁ』

【俺 匠は、絶対出てくると思ったゼ】

「だぁよねぇ~」

『そっか! そういうのも、アリだな』

「そうなると 一郎と、匠 どっちとって事だよね」

『だな』

【俺 匠ぃ】

『俺 一郎』

「じゃぁ 私は、結局 どっちとも無しw」

【おぃ 真面目に考えろよ】

「えーぇ~ェ」

『早く かえりてぇもん』

【この配役 俺たち3人居るから、それぞれに 役を決めて、各々の気持ちを入れ込んで 考えてくって、どう?】

『そッれ イイかもな』

「えー 私 恵子? ダっさ;;」

『まぁ いいからやろ、やって サッサと帰ろ』

【お前 どっちやるよ?】

「俺ぇ?」

【俺 やっぱ、匠ぃ】

『ジャ じゃぁ~ 俺 いッ一郎で!』


大樹の椅子に ぶつける様に、座ってきた翔真が

【負けないからな】

と 耳打ちする

『ぉ.俺だって』

と 翔真の方へ、顔を向ける。

やっと コンタクトが直った、凜華が 顔を上げつつ

目蓋を パチパチしながら

「ぇ?なぁに?」






[完]

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