第4話 ハイエナの争い


周囲に注意しながら巡回ルートを辿る。時折、奇怪な姿をした鳥が荷物を奪おうと近づいて来た。

その度に手で追い払い、ユウはウンザリしていた。


上に気を取られながら、曲がり角に差し掛かった時だった。


突然手を横にして、シンヤが止まれと口を動かす。

よく注意して耳を澄ますと、曲がり角の先から話し声や笑い声が微かに聴こえた。


(内容は聞き取れないな…)


シンヤが小声で話す。


「おそらくこの建物の中に誰かいる。

裏から様子を見よう。」


ユウが頷く。

2人は密かに裏へ回った。



幸運にも、ドアは壊れて剥がれていた。音を出さないように建物の中に入る。


ユウは9mm拳銃を、シンヤは散弾銃・ベネリM3を構え、声の聴こえる方向へ向かった。



「思わぬ収穫だな!銃が持ちきれんぞ!」

「ああ、ここまで遠出した甲斐があったな。」

「こいつら日本帝国の兵隊だな…早めに撤収しようぜ。」

「まーまー!もう少し漁ろうぜ!?」

「キリト、少し静かにしろ。」


ドア1つ向こうからこっそり話し声を聴くユウとシンヤ。


小声で

「ユウ、何人分の声が聞こえる?」

「3か4ですね。ただ、喋ってない人間もいるかも…」

「それは運か。

良し、突入したらお前さんはまず近場の奴をやれ。

俺の射線に入るなよ。」

「分かりました。」


シュウは小声で「3・2・1」と数え合図を送る。


シュウが思い切りドアを蹴破ると、傍からユウが突入し、日本刀を抜いた。


「なッッ…!」


刀を右上に振り上げ、目の前の男に斬りかかる。


中は案外広い。


刃が肉を切り割き、刎ねられた敵の首が宙を舞う。

驚いた表情のまま首は、床を転がった。


ユウは周囲に目を移した。

(喋ってない奴が1人いた!全部で5人か!)


服装から察するに地上で生活する者たちだろうか。


中に車はないが、そこはガレージだった。錆びた工具がそこらに転がっている。


「クソっ」


1番早く反応し、銃を構えようとした敵に向かって、シンヤが慣れた様相でベレッタM3を放つ。


拳銃とは比べ物にならない轟音と共に発射された散弾が、敵の躰にねじりこまれる


「ゴッ……」

続けざまにもう1人。2発の散弾を発射する。


初弾で足を飛ばし、次弾で腹を割った。もはや彼はバラバラに近い。


残りは2人。


「ユウ!そっちは…!?」


シンヤが目を向けると、鉈を抜いた敵と、ユウが刃を交えていた。

躱し、受け流しの連続。

一太刀でも浴びれば終わりだ。

ユウは必死に応戦する。


「キリト!援護する!」

敵の1人がニューナンブM60拳銃をユウに向けて構えた。


「いかん!」


シンヤは咄嗟に、拳銃を構える敵を撃ち殺そうと発砲する。



しかし、敵は死に際でも戦いを止めなかった。体が欠けながらも、ユウに向けてニューナンブM60拳銃を数発発砲したのだ。



1発ユウの肩を掠めた。

幸い傷は浅いが


「痛っ…」


思わずよろけ、壁に寄りかかって床にずり落ちるユウ。


「死ね!」


思い切り鉈を真上に振り上げる敵。

頭に血が昇り、大きな隙になる事に気付けなかったのだろう。


ユウは歯を食いしばり、敵の喉元に日本刀を突き刺した。


「ごぼっ、ガ…」


首を刺され、倒れた。


ズルリと喉から刀を引き抜いたユウは、しばらく放心状態だった。

そんなユウを見かねたシンヤは、巡回兵と敵の装備を剥いでまとめる。



(やっぱり人を斬るのは慣れないな…)


「おいユウ!こいつがお前の取り分だ!」


シンヤに呼ばれ、ユウはハッとした。

「は、はい!」

「良くやったぞ。傷は大丈夫か?」

「ええ、なんとか。」

「まあフィルターは全部お前の物として、銃はどれが良いよ?

前使ってたっていう簡易小銃用の5.56mm弾はまだ持っているか?」

「いえ、全部売りました。

あ、その小さめの銃はなんて名前ですか?」

「ん、MP5だな。

お前が使ってる9mm拳銃と同じ弾薬だ。」

「使いやすそうだけど、弾薬が被りますね…少し心もとないな。」


うーん とシンヤが唸る


「それなら、お前の9mm拳銃とおれのM1911を交換してやるよ。こいつは.45ACP弾を使用するんだ。市場を覗けば見つかるだろうよ。」


そう言って、M1911と.45ACP弾を袋に入れ、ユウに差し出した。


「あ…ありがとうございます!」


「反動が強いから、気をつけて使えよ!」


そう言うと、嬉しそうにするユウをシンヤは見ていた。


互いにガスマスクで顔は隠れているが、目や声色で分かる。


シンヤの目はまるで、息子を見ているかのようであった。…






荷物をまとめ終わると、2人はガレージを出た。

かなりの荷物だったので、このまま六本木駅へ帰る事にした。


「また狛犬が出るかもしれません。気をつけて行きましょう。」


2人は来た道を歩き始めた。


遠くからずっと銃声が響いている。


「何かあったんですかね。」

「そうかもな。んまあ、まだまだ遠いし、大丈夫だろ!」




「なあ、話の続きをしようや。」

「え?…あぁ、わたしの過去ですか?」

「それそれ!6歳で土竜神とやらに助けられたんだろ。

そっからの村の話を聞かせてくれよ。」


「…しっかり見張りながら聞いてくださいよ。

ツクバ村での生活は…なんというか皆、出来るだけ私に関わりたくない様子でした。」


「まあ、神だか獣蟲が連れてきた子供だしな。

気味が悪い、だが無下には出来ないって感じか。」


「ええ。まさにそうでしょうね。

ただ、1人だけ。わたしと自然に接してくれた人がいるんです。

その人のお陰ですぐにあの村を出られましたし、今も生きていられてるんです。」


そう言って、ユウは腰に下げている刀に手を添えた。

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ヒノモトノタビ イチ @hinomoto_ich

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