【短編】ほたるの箱庭

霧槻 柊

ほたるの箱庭


 私は産まれてすぐ、親に捨てられました。


 と言っても親もきっとそれは望んでいなかったでしょう。




 捨てられてすぐ、同じ大きさの少女に買われました。


 少女は同じくらいの大きさでしたが意思の疎通はできません。


 肌の色も毛の色、顔も違うんですから。 


 その少女は私の事をほたると呼びました。


 ほたるという小さな生物と一緒にされるのは不本意でしたが仕方ありません。


 買われた以上反抗は出来ないのですから。


 しばらく経つと少女が葵という名前だと分かりました。


 彼女も人間なのに生きてすらいない花の名前を付けられた可哀想な人です。


 きっと仲間意識を持ってほたるという名前を付けたのでしょう。


 私の成長はすぐに止まりましたが彼女は私よりも大きくなりました。


 驚きです。




 彼女を見ていると悲しくなりました。


 あっという間に私と遊んでくれなくなったからです。


 彼女には学校があるので仕方が無いでしょう。


 けれど、小鳥が遊びに来てくれるので寂しさは紛れました。


 でも、そんな生活は長くは続きませんでした。


 私は病気になったのです。


 話が出来ない上に大人しい性格だったからでしょうか。


 誰も気が付きませんでした。


 そんなある日のことです。


 私は捨てられました。


 きっと、勉強していて邪魔になったのでしょう。


 彼女は受験というものがあったらしいです。




 捨てられた私を拾ったのは優しい顔をした天使でした。


 けれど、その天使は悪魔でした。


 格子の中の小さな部屋に私を閉じ込めました。


 そしてしばらくすると窓の無い部屋に閉じ込めてきたのです。


 部屋に入る前に見たのは優しそうな顔をした悪魔でした。


 部屋の扉が閉まると、徐々に苦しくなってきました。


 それから先はあまり覚えてません。


 ただ、ひとつだけ言える事は彼女と居た時間は幸せだったと言う事です。


 捨てられましたが、仲良くしていた同じくらいの大きさの頃は楽しかったです。


 箱庭のような小さな世界が大好きでした。もちろん今も好きです。


 意思の疎通こそできませんでしたが、話す事は楽しかったし大好きでした。


 世界が爆発しても私と彼女は意思の疎通が出来ないでしょう。








 だって、私はシーズーなんですから。

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