第3話 本場の味=家庭の味

 「そいで、どうしたとね?」

 「しかたなかけん、近くにあったお店に入たとばってん。何か違う気がしたとさ」

 訝しげな表情を浮かべて尋ねる。

 「何がちごうとったとね?」

 「皿うどんの麺の太かとさ。普通のうどんくらいあるとさ」

 「アンタ何でお店でなんて食べたとね?」

 「だって長崎の皿うどんが食べてみたかったとよ」

 すると呆れたような視線と共にため息が漏れる。

 「はぁ、アンタも長崎人たいね」

 正真正銘の長崎生まれ長崎育ちではあるのだが、反省の大半を離島で生活してきた私は、自分が長崎県民だという意識は希薄である。

 「ええ子やったのになぁ」

 私は青年の笑顔を思い浮かべて呟いた。

 「別に騙したわけと違うやろけど、そん店の人長崎の人と違うのやろ。それに店員さんはバイトやろ? 皿うどんなんかすぐに作っちゃるのに」

 「ほんとやねぇ。もう少し我慢できればよかったんやけど……」

 再従姉妹はとこは仕方がないといった様子で立ち上がる。

 「私が作っちゃるけん」

 そう言うと腰を擦りながら台所へと消えていった。


 出された山盛りの皿うどんは私が島でいつも作っていたいつもの皿うどんであった。

 「アンタんとこの皿うどんもこげな感じやろ?」

 促され皿うどんへと視線を落とす。

 確かに普段我が家の食卓に上る皿うどんと瓜二つだ。

 「アンタも長崎人なんやから皿うどんもちゃんぽんも作っとろうが、長崎んもんは外になんか食べに行かんやろ。ちゃんぽんも皿うどんも家で食うもんじゃ! 食べたければ店なんかやのうて、そこらへんの家に入って食べさせてもらえばええ」と高笑いする再従姉妹。

 そんな笑い声につられる形でおばあさん二人で一頻り笑いあった。

 そして、「そしたら私は本場のちゃんぽんば作ろうかね」

 そして私は腰を擦りながら台所へと向かう。

 

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アンタそらぁ皿うどんじゃなかよぉ 小暮悠斗 @romance

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