第12話 離島で見つけた ~【マツモト先生のこと―離島で先生になりました―】~
空が広い。
二人がこの島に降り立って、最初に抱いた感想である。
「隊長、空気は美味いし空は綺麗だし広いし、良い場所ですね!」
「ああそうだな。心が洗われるようだ」
二人は大量の資材を手に、一軒の古民家へとやってきた。
「今日からしばらくここで生活っすね」
「だいぶ手入れが必要だな。今日中に仕上げるぞ」
今日から数日間、伝説の名作が眠ると言われているこの離島でスコップに励む予定である。
外壁はめくれ上がり、屋根は痛み、室内もあまり良い状況とは言えない。
それでも、二人は汗を拭う事も忘れるて作業に没頭した。
「風呂もすげえ汚い……隊長、自分今から風呂掃除します!」
「そうか、しっかり頼むぞ。これだけ汗をかいて風呂にも入れないようでは辛いからな」
言いながら、隊長は実に懐かしい想いでいた。
自身がまだ見習いスコッパーだった頃、先輩に連れられて一度訪れた事がある島なのである。
「この古民家、あの時には既に誰も住んでいなかったな」
隊長は外壁の修理を終えると、屋根に上って痛んだ箇所の修理を開始した。
屋根の上から見える景色はまた格別であり、遠くに見えるこの島唯一の小学校では、校庭で子供たちが駆けずり回っている。
「こんな場所で伸び伸びと育った子が、良い子に育たない訳がない。さぞかし皆、心根の優しい良い子たちだろうな」
独りごちる隊長は、思い出したように修理を再開した。
日が暮れる頃にはある程度作業を終え、辛うじて入れる程度には修繕が出来た風呂にお湯をため始めている。
「にしても暇ですね。自分、港の近くにあった商店でエロ本でも買って来きましょうか?」
「なぜそのチョイスだ。それにな、エロ本はやめておけ」
隊長の言葉に、隊員は首をかしげる。
「エロ本とか売ってない感じです?」
「いや、あるにはあるだろう。だがな」
隊長はサバの缶詰を開けながら、やめておいた方がいい理由を説明した。
「この小さな島では、珍しい情報ほど一瞬で広まる。俺たちがここにいる事を知らない人間はいないだろう。それは同時に……」
パカッと開いたサバ缶に、器用に箸を突っ込みながら言葉を続ける。
「貴様がエロ本を買ったという情報も、明日には島中の人が知る事になる。道行く小学生たちから『エロ本の人』と呼ばれる事になるぞ」
「それはちょっと……嫌ですね」
隊員は考え込みつつ、ぐっと隊長に詰め寄った。
「ところで隊長。自分、見つけちゃったんすよ」
「何をだ」
隊員はニヤリと笑って答えた。
「小学校に今年赴任してきたばかりの新卒の先生がいるらしいんすよ。しかも可愛い女の子って話で、こんな場所に赴任して来るくらいですから、たぶん彼氏とかもいないんじゃないかと――あぎゃひん!」
べらべらと喋り始めた隊員の両の鼻の穴に、隊長が手にしていた箸が突き立った。
「貴様、ここへ何をしに来た!」
「ふんがへほほひがげげげ」
激痛に耐えながら許しを請う隊員は、隠し持っていた最新の感想を隊長に献上するのであった。
◆以前に読んだ作品を紹介します
タイトル:マツモト先生のこと―離島で先生になりました―
ジャンル:恋愛・ラブコメ
作者:氷月あや様
話数:47話
文字数:94,564文字
評価:★21 (2016.11.29現在)
最新評価:2016年11月1日 13:23
URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881524092
検索時:『マツモト先生』で検索しましょう。
キャッチコピー
イマドキ女子の新任教師×体育会系いなか者の先輩教師の青春系ラブコメ!
感想★★★
離島という場所が上手く描かれた恋愛小説。
単に離島と言っても、それをどうやって小説の題材に活かしていくのかがポイントだと思いますが、実に上手に「らしさ」を表現されていました。
選択肢が限られている事は、決して悪い事ではない。
もどかしさや、不便さや、選択肢が少ないが故の悩み等、色々とあるなかで成長していく主人公と、その周りの人達。
何より、離島の子供たちが実にキラキラと輝いていて、なんだか小学校の先生になりたくなってしまいました。
選択肢が少ないという事は、そこにある選択肢が稀少という事です。
ありふれた、あふれかえった選択肢ではない、とても稀少な選択肢。
限られているからこそ、大切にしなきゃいけない。
限られているからこそ、一つ一つに感謝しないといけない。
都会の喧騒に疲れ、日々忙しく、心にゆとりがなくなって、ついついツンケンしてしまう。
そんなアナタが「優しくなりたい」と、そう思ったら、この作品のページを捲ってください。
優しい心を分けてくれますよ。
ぜひご一読下さい!
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