第13話 経験豊富なの ~【不気味の谷のほたるさん】~

「だからホラーは嫌だと言っている」


 隊長のこのセリフは、既に何度吐き出されたか分からない。


「隊長、だからこそですよ。ほら、もう着きますってば」


 スコッパーに得意ジャンルがあるように、同じく不得意なジャンルも存在する。


「本当に、ここで話を聞けば怖くなくなるのか?」

「ええ。大丈夫です!」


 二人は、新宿のとある雑居ビルを訪れていた。


「こんちわー。予約したスコッパーです」


 そのビルの四階で、アルミ製のドアを開けて中へ入る。

 心霊研究所という看板を掲げているこの場所は、その名称とは異なり一風変わった謳い文句で営業していた。


 ――心霊現象を科学的に解決します


「お待ちしておりました。さあどうぞ」


 出迎えてくれた女性に案内され、隊員と隊長はソファーに腰を下ろす。

 その向かい側に、ホワイトボードが設置されていた。


「隊長、今の女の子可愛くないっすか?」

「ああ、清純な雰囲気ではあるが、それ以上に闊達で気持ちがいい娘だな」


 そんな会話をしていた二人の目の前に、スーツ姿の男性が現れる。

 歳にしてアラサーとアラフォーの境界線あたりだろうか。


 その男性は簡単な挨拶を済ませると、心霊現象について解説を始めた。



 そうして小一時間、その男性の講義を受ける。


「――という解釈が成り立ちます。即ち、人々が目にしている心霊現象の大半は、残留思念が引き起こしているものなんですよ。怖がる必要なんてこれっぽっちもありません」


 隊員はうんうんと頷いているが、隊長は半信半疑と言った感じである。

 たまらず質問をぶつけた。


「先生、ではひとつ聞くがな、世界中で目撃情報が相次ぐ幽霊などは、全て見間違いだと?」


 隊長の問いに、男性は笑顔で首を横に振る。


「いえ、目撃情報が相次いでいる以上、それは間違いなくそこに存在したのでしょう。そう考えるのが自然ですよ。大勢が見ているのに、それは見間違いだと言い張るほうがどうかしてる」


 言いながら、男性はホワイトボードにびっしり書いた文字を消し始めた。


「隊長さん。見間違いではなく、物の解釈の違いですよ。幽霊などではなく、残留思念だという事です」


 ゆっくりと文字が消され、ホワイトボードがすっかり白一色に戻った。

 その時間をかけてゆっくり考えを纏める隊長は、やはりどうしても気になる事がある。


「では先生、幽霊は存在しないのだな?」


 質問しつつ、それは隊長の望でもある。

 ホラージャンルを掘ったあとは、一人でお風呂に入れない事も多い。

 幽霊など存在しないと言い切ってもらわなければ、安心してホラージャンルを掘りに行けそうもないのだ。


 だが、先生と呼ばれた男性は隊長の望とは別の答えを用意していた。


「いるんじゃないですかね。私は見た事ありませんけど、全部が全部『残留思念だ』と言い切るのは、これもまた無理がある」


 先生は胸元から数枚の写真を取り出した。


「所謂『心霊写真』ってやつです。山ほど送られてくるんですがね、その中でどうしても残留思念に見えない物だけこうして分けてあります」


 テーブルに並べられた写真を手に取りながら、隊員が興奮気味に声をあげた。


「じゃあ先生は、心霊現象は存在すると?」

「はい。ただそうなった場合、私にはどうにもなりませんので、専門家を呼ぶ事にしていますけどね」


 先生は言いながら、スマホでメールをチェックし始めた。

 そして目的のメッセージを確認して一人頷く。


「うん、都合が付きました。何人か専門家を抱えているんですが、あなた方に同行しても構わないという人間を一人確保できましたよ」

「おお!」


 隊員の興奮とは裏腹に、隊長は顔が青ざめ始めた。


「きき、き、貴様一人で行け」

「何言ってるんですか隊長、専門家さんも来てくれるんだし大丈夫ですよ!」


 隊員に背中を叩かれ、しぶしぶ頷く。

 そして、その専門家についての情報を求めた。


「先生、どんな人員を抱えているのだ。金はしっかり払うから、腕の良い人員を当ててくれよ?」

「はい、腕は問題ありません。抱えているのは本物の陰陽師や、神主がメインなんですけど、今日は都合が付かなかったのでフリーランスの女の子を呼びました」


 女の子と聞いて、隊員は首をぶるんぶるんと横に振る。


「待ってくれ! 腕の良い陰陽師や神主ではなく、女の子だと?」


 焦る隊長を他所に、隊員は乗り気だ。


「いいですね、さっきの子ですか?」


 先生は笑顔で首を振った。


「いえ。先ほどのはうちのアシスタントです。手配した子は、どちらかと言えば『怪異と対峙するスペシャリスト』ですから、私とはジャンルが違います」


 怪異と対峙するスペシャリスト。

 その言葉に、僅かばかり安堵を覚える。


 先生の言葉は続いた。


「もうすぐ到着すると思いますが……」


 直後、アルミ製のドアが開いた。

 姿を見せたのは、美しく真っ白で長い髪が特徴の、年端も行かないあどけなさの残る少女。


 隊長は呆気に取られていた。

 まさかこんな少女が、という感想である。


「き、君が、同行してくれると?」


 隊長の言葉に、少女は平然と答えてみせた。


「あら、不服?」


 あくまでお願いする立場である以上、ここで不服だと言えてしまう程、隊長は横柄な精神力を持ち合わせていない。

 だが、不服ではないと言い切る事もできず、ただ無言でその少女を見つめた。


 その隊長の様子に、少女はにっこりと微笑んで口を開く。


「心配しないで。私、こう見えても経験豊富なの」


 こうして二人は謎の少女に付き添ってもらい、無事にホラージャンルのスコップに成功するのだった。




◆作者様の熱い想いに答えて再登場です


タイトル:不気味の谷のほたるさん

ジャンル:ホラー

  作者:黒木レン様

  話数:7話

 文字数:37,618文字

  評価:★32 (2016.12.02現在)

最新評価:2016年12月1日 11:57

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881555664

 検索時:『不気味』で検索しましょう


キャッチコピー

 少女は怪異を駆逐する! 奇妙なクラスメイトと繰り広げるラブコメホラー



感想★★★

 紹介作品を語る上で外せないのが、キャラクターの絶大な魅力です。

 メインキャラである「ほたるさん」の魅力は、スカイツリーを軽く飛び越える強烈な個性を持っています。


 個性的で、魅力的で、男性なら誰しもが「落ちる寸前」まで持っていかれると思います(笑)


 そして何より秀逸なのが、怪異という存在との距離感。

 己の存在をかけて戦うのは、己が保持している「世界観」を奪い合うという面白いバトル。

 バトル自体は物理的に戦うのですが、争うのは「世界観」という、まあ読んでみれば分かりますよ的な感じなんですけど、私にはこれが『とても面白い!』と感じました。 



 さて。


 皆さんは「不気味の谷」という言葉をご存知でしょうか。

 ロボット工学から生まれた言葉で、人間が特定のロボットに対する好感度や共感を示すグラフに存在する、不可解な谷を「不気味の谷」と呼ぶのです。


 機械的な存在には共感や好感を持たず、その見た目や行動が人間的になればなるほどその度合いは高くなるのです。

 ところが、ある一定ラインを越えて人間に近くなると、急激にその好感や共感が下落します。


 それまで好感や共感のあった感情が、急激に「不気味である」という感情に切り替わるのです。


 この「ほたるさん」というキャラの魅力を、こうした豆知識を元に堪能してみるのも良いかもしれません。


 ぜひご一読下さい!





※あとがき


 第二話で紹介させて頂いて以来、★が伸びてるようで嬉しく思います!

 どこまでが本作の影響かは分かりませんが、前回紹介時に★21だった紹介作品が、本日付けで★32です。いいですね!


 そんな先日、紹介作品の著者である黒木レン様から胸アツな応援コメントを頂きましたので、本作第二話から再放送という形で単独紹介をさせて頂くことにしました。


 ただですね、ネタバレ注意報と言いますか、読者様に紹介作品の魅力を味わって頂くには、あまり作品内容に踏み込んで踏襲したストーリーは避けるべきなのかなと思いまして、最後にご本人登場というサプライズだけで〆させていただきました。


 無断でキャラを登場させちゃってるわけですけど、私から黒木レン様への少々早い「クリスマスプレゼント」という事で、笑ってお許し頂ければ幸いです。


 ちなみに、先生とは、拙作「ざんりゅう★しねん!」に登場する先生です。

 丁度よかったので登場してもらいました。ちゃっかり宣伝してごめんなさい。


 それでは、皆様、あてぶれーべ、おぶりがーど!

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