第14話 細菌感染を食い止めろ ~【時のロープ】~
この日、とある世界に避難命令が出された。
カクヨム界でスコップに勤しむ連中にとって、避難命令は実に仕事の阻害になる。だが同時に、気概あるスコッパーにとって『避難命令』というものは『お宝』に近い。
「何が起きてるんですかね。ワクワクしますよ」
「ああ。だが十分気を付けろ」
毎度おなじみのこの二人とて例外ではない。
そこで発生している『何か』によっては、一大スクープならぬ『一大スコップ』として巨万の富を得る可能性が秘められているのだ。
大人しく避難命令に従うようなスコッパーなど、三流もいいところであろう。
「同業者も多い。妨害にも気を配らねばな」
「はい」
そんなお宝を狙う同業者も多く、隊長と隊員の二人はそんな同業者からの妨害工作にまで気を配らねばならなかった。
様々な職種のカクヨム界住民が避難する中、残ったスコッパー達は時に己の命を削ってでも何かを得ようとする。
それは勇敢と讃えるべきなのか、無謀と蔑むべきなのか。
数日後、隊長は一つの情報を入手していた。
「パンデミックだ。こいつは危ない」
「パンデミック、バイオハザード、この手の世界はゾクゾクしますね」
その世界が瀕している危機は、細菌感染。
治療薬の開発が及ばない未知の細菌が、凄まじい速度でその感染範囲を拡大しているのである。
危機の内容によっては、スコッパーは互いにその功績を競い合い、時には互いの生命までをも奪い合う事態に発展する。
だが逆に、その内容如何では互いに協力し合う事も珍しくない。
特に今回は、危機の内容が人間ではない。
彼らがどうしようと容赦なく迫って来る危険に、スコッパー達は団結する事を決めた。
そして更に数日後。
多くのスコッパーが集結し、この世界での危機をカクヨム界に広く知らしめるべく、今日もスコップ片手に作業に取り掛かるところである。
「マスクよーし。スコップ作業が終わったら手洗いとウガイを忘れないように!」
「おー!」
この世界の危機を回避し、この世界に起きた事をカクヨム界に知らせ、第二第三の危機に陥る事が無いよう、カクヨム政府に手を打ってもらわねばならない。
だが無情にも、その細菌はスコッパーたちにも広がりを見せ、徐々に倒れる者が出始めた。
このままでは、スコッパーまでも全滅してしまうだろう。
「くそう、ここまでかよ。スコッパーは無力なのか……」
そう呟いたとあるスコッパーに、隊長が朗報を齎した。
「俺様がかつてスコップした世界から、タイムマシーンの使い手を召喚した。細菌の感染が始まった時間まで遡り、この世界を救おうと思う」
隊長はそう言い残し、スコップを振るう同業者たちに見送られながらタイムトラベルに挑む。
そうして、隊長は隊員と共に過去へ遡り、見事に細菌の感染拡大を阻止してみせたのである。
「やったぞ。細菌は食い止めた!」
「へへ。自分と隊長にかかれば朝飯前ですよね!」
満面の笑みで報告する二人に対し、同業者たちの視線は実に冷たかった。
「完全に阻止してきやがったなバカヤロウが! 何もなかった事になっちまったじゃねえか!」
「そうだそうだ! 命をかけて挑んだってのに、この世界には細菌どころかPPAPすら流行ってねえ!」
PPAPはさておき、これではちょっとしたタイムパラドックスである。
そう。
全く平穏で、避難命令さえも無かった未来を作り出してしまったのだ。
「嘘だ、これは並行世界。そう、パラレルワールドだ!」
頭を抱える隊員に対し、隊長はその肩を叩いて言葉をかけた。
「そう気を落とすな。俺たちが命がけ、まさに命を削って細菌感染を食い止めたというのに、こいつらの言いようは気に入らないな」
言い終わると、隊長は一本の試験管を高らかに掲げた。
「こいつはな、お前らが欲しがっている細菌だ。そんなに死にたきゃ勝手に死にやがれ!」
隊長はその試験管を同業者たちに向かって投げつけたのである。
「うおい! ちょと! ぎゃー」
「誰か取れ! 落とすな!」
「嫌だよ、逃げろ!」
慌てふためく同業者は逃げる間もなく、彼らの足元に試験管が落下。パリンと音を立てて破裂した。
場が静まり帰った。
ある者は手で口を塞ぎ、ある者は手で鼻を塞ぎ、ある者は頭を抱えて丸まっている。
その様子に隊長がニヤリと笑い、言葉を発した。
「なーんてな! うっそぴょ~ん!」
こうして、その世界には再び平和が訪れたのであった。
◆以前に読んだ作品を紹介します
タイトル:時のロープ
ジャンル:SF
作者:時織拓未様
話数:19話
文字数:191,268文字
評価:★42 (2017.03.17現在)
最新評価:2017年2月22日 05:30
URL:https://kakuyomu.jp/works/4852201425154987401
検索時:『時のロープ』で検索しましょう
キャッチコピー
タイムパラドックスの新理論!SF小説に新境地!
感想★★★
題材が題材なだけに、ネタバレ注意すぎて感想が書きにくい小説。
硬い文体が苦手な人には取っつきにくいかもしれませんが、内容がお世辞にも柔らかいとは言い難い内容なので、雰囲気がマッチしていて良いと思う。
タグにある通り、パラドックスやパラレルワールドといった伏線だらけになるであろうと予測をしながら読み進めても、期待を裏切らない内容に満足できるはずです。
単純にタイムパラドックスに関するテーマだけではなく、未来の世界情勢や、各国の思惑など、ストーリーを包む周辺環境までが実にしっかりと考察されており、読者を世界観に引き摺り込んでくれます。
人類はどこまで戦えるのか。
ストーリーもまた骨太で、大変面白かったです。
皆さまも是非ご一読下さい!
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