第15話 人工知能からの指摘 ~【ボッチでもなんとか生きてます】~

 顔中、いや、全身砂だらけの隊長が歓喜溢れんばかりの表情で、少々紫がかった奇妙な空に向けて奇声を上げた。


「でーきーたーぞー!」


 そう、出来たのである。


「隊長、こちらも終わりました!」

「おおそうか、これで……」


 時を少々遡る。

 二人がこの惑星に到着したのは、地球の時間に照らし合わせれば約三週間前。

 惑星のサイズが地球とは異なる上に、自転速度も大いに異なる。そうなれば当然、朝と夜の感覚も地球とは異なり、彼らは自分たちがどれだけの日数をこの場所で過ごしているのか、自らの感覚では把握しきれないだろう。


 彼らが時間の経過を知る上で、搭乗してきた中型の宇宙船の存在は必要不可欠であり、更に言えばその宇宙船に搭載されている人口知能こそが彼らの生命線と言える。


「ノーム、救援信号に反応はあったか?」


 隊長が問いかけたノームとは、その人口知能の呼び名である。

 人工知能ではあるが、搭乗する人員とのコミュニケーションを円滑に進めるため、最新テクノロジーの粋を結集して作られたノームは、ホログラムによる投影によってまるで実態があるかのように姿を見せる。

 土の妖精をモチーフに作られた小さな女の子の姿。

 そのノームが隊長の問いに答えた。


『いえ全く。あなた方は地球で嫌われていたのですか?』

「おい、失敬な事を言うな。カクヨム界で嫌われる事はあっても、地球全体から嫌われるような事は断じてない」

「そうですよ。まあカクヨム界だって嫌われるほど有名じゃないですからね。ただのスコッパーにいちいちそんな感情を抱く人はいませんよね」


 広大な惑星に不時着して以来、救援信号を出し続けているが全く反応がない。

 惑星の調査も進めてはいるが、如何せん二人だけでは捗るはずもなく、備蓄されている食料品が底を突く前にどうにかしなくては、彼らに未来はない。


 一つ幸運だったとすれば、この惑星にも水があり、木々があり、大気があった事だ。そしてその大気が地球環境に近く、隊長と隊員は簡易的な装備だけで船外活動が可能である。

 それにより、どうにか今日まで生き延びてきた。

 そして、一つの巨大なプロジェクトをついに終わらせたのである。


「いやあ、こうして見ると圧巻ですね」

「おい貴様、どうせなら空から見てみないか?」

「お、いいですね」


 二人は宇宙船に戻ると、唯一の搭載機である二人乗りの調査艇に乗り込んだ。

 操縦席には隊員が座り、隊長は後部座席へと腰を下ろす。


「メインモニター起動。通常オペレーション開始、ノーム搭載まで残り十秒、八、七、六、五、四、三、二、一。ノーム搭載完了、第一から第三までエンジン起動、異状なし。行けます」

「よし、高度千メートルまで上がってくれ」

「了解です隊長。自動オペレーションに移行、ノーム、千メートルまで頼むよ」

『了解、上昇します』


 二人を乗せた小型の調査艇が、風に乗るように滑らかに高度を上げていく。


「うむ、やはり空から見なければな。これなら問題あるまい」

「そうっすね。ばっちりっすね」


 満足気に頷き合う二人に、ノームから疑問が投げかけられる。


『あなた方、ローマ字という物を何処かで勉強した事はありますか?』

「何を言う、無論だ」

「そりゃあね、日常生活でも使うから」


 上空千メートルを緩やかに旋回しながら、ノームな尚も問いかける。


『では、ローマ字の『S』が逆になっている件については、敢えてそうしたと考えてよろしいのでしょうか』


 隊長と隊員は顔を見合わせ、メインモニターを食い入るように見つめた。


「おい、貴様……」

「ちょっと、自分の所為ですか? 最初のSは隊長が描きましたよね?」

「それはそうだが……貴様が描いたSまで逆にする事は無いだろう!」

「隊長の書いたSを見本にしましたからね。隊長のSを見本に!」


 言い合いを始めた二人。

 彼らの見つめるモニターには、おそらく『SOS』と記したかったであろう痕跡がある。Sが逆になってしまっているのは、巨大な文字を地上に記したがためであろうか。


『喧嘩はおやめください。そもそも救援信号に何ら反応が無いのに、地上にSOSを描けば助けが来ると思い込む事がどうかしています』


 隊長と隊員の他には誰もいない惑星。

 空を飛ぶ航空機などありはしないこの星で、地上に記したSOSなど何の役にも立ちはしない。そんな事、隊長も隊員も分かっていた。だが、ただ待ち続ける事が出来なかったのである。


「ノーム、言わないでくれ。俺も隊長も分かっているのさ」

「そうだ。こんな何もない惑星では、スコップする物語すらない。暇だったのだ」


 その時、何かを発見したノームが緊急警報の鳴らした。


『急速に接近する生命体を発見。集団です、数は六百二十三。メインモニターに投影します』


 隊長と隊員は唾をのんでメインモニターを凝視した。


「これは……虫?」

「いや、人型か。虫のような……人型」


 この惑星で初めて遭遇する生命体である。


『害意を持っている可能性があります。調査艇では応戦しきれませんので、急ぎ本艦に戻ります』


 ノームの判断により、調査艇は急降下しながら宇宙船へと引き返す。


「隊長、あいつら何者でしょうか」

「さあな、とって食われるよな事にならなきゃいいんだが」


 これから始まろうとしている未知なる生命体との接触は、良好な異文化コミュニケーションとなるのか、はたまた異文化戦争となるのであろうか。


「隊長、俺にもしもの事があったら、隊長だけでも生き延びてくださいね」

「何を言う、ここまで来たら生きるも死ぬも共にある」

「駄目ですよ。これ、どうか持って帰ってください」


 そう言って隊員が手渡したのは、感想が記された一枚の紙であった。




◆以前に読んだ作品を紹介します


タイトル:ボッチでもなんとか生きてます

ジャンル:SF

  作者:うみ様

  話数:41話

 文字数:121,193文字

  評価:★45 (2017.04.14現在)

最新評価:2017年3月3日 02:30

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881828746

 検索時:『一人旅』で検索しましょう。タグでヒットします。


キャッチコピー

 一人ぼっちの惑星探査、超優秀なAIのお陰で極めて順調



感想★★★

 ボッチが辛いのではなく、ボッチを楽しめてしまう主人公。

 作中に孤独感や暗く重苦しい感情は無く、ボッチでありながらも面白可笑しい雰囲気が印象的でした。


 未知の惑星というものは、様々な可能性を秘めた言わば異世界のような場所。

 自由な環境の中で、SFジャンルぽい科学的なアプローチを主軸に、主人公にとって異世界であるその場所を冒険の舞台として、実に伸び伸びと物語が描かれています。


 発想の自由さというのは、こういった作品をお手本にすると良いのかもしれない。本気でそう思った作品です。


 作品としても面白さは勿論の事、作者さんが多いカクヨム界隈だからこそ、多くの作者さんに読んでもらいたい作品でもあります。


 皆さま是非、ご一読下さい。

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