第9話 竜の伝説が残る街 ~【旅は竜連れ世は情け】~

 この日の昼、二人はとある海辺の町を訪れていた。

 その町は、かつて竜と人間が交流していたという伝説が残る町であり、町の入り口に作られた噴水の中央には見事な竜の石像が備えられ、その雄大な姿で訪れる者を歓待してくれる。


「素晴らしい石像ですね」

「ああ、これ程までに雄大で見事な石像はそうお目にかかれない。貴様もこの石像を見習って少しはマシな感想を書いて見せろ」


 天高くから降り注ぐ陽射しは、噴水が打ち上げる水しぶきに七色のアーチを描く。


「感想もそうですし、作品のほうも頑張らないとですね」

「貴様の作品などどうでもよい。先ずは感想だ」


 歩を進め町の中心地へ向かう隊長の背を、隊員が追う。


「相変わらず手厳しいですね。ところで隊長、竜と人が交流していたなんて、本当だと思いますか?」


 隊長は振り返る事なく、背中を向けたまま返答する。


「竜は誇り高く、人間に媚びるような事は絶対にあり得ない。とは言え、人間如きを支配するような事もない。無関心、無関係、接触しない事で互いの境界を守る種族だった。だがそれも太古の時代の言い伝え。それ以降の歴史書には、度々竜を操る人間が登場する。恐らくは、退化してしまった竜を何かしらの方法で操る事に成功した人間がいるのだろう」


 隊長の言葉に、隊員は目を丸くした。そして小走りに横並びになって隊長の顔を覗き込む。


「隊長ってたまにものすごく物知りですよね? 物書きを挫折してスコッパーに転職する前は何をしていたのですか?」

「貴様、サラッと棘のある事を言うではないか。俺はまだ挫折などしておらんぞ」


 隊員は胸ポケットから古びたペンを取り出した。


「物語を書いて世に出よう等という野望は捨てた。それは確かにそうだが、物語を書く事を諦めたわけではない」


 そのペンを高く掲げて言葉を続ける。


「かつてクリストファー・コロンブスが新大陸を目指したように、バスコ・ダ・ガマが世界一周に挑戦したように、俺は俺の目指す物語を作りたい。最大の読者は己自身であり、己が楽しむための物語を作りたい」


 隊員はうんうんと頷く。


「例え話は壮大ですけど、言ってる事はかなり小さいですね。コロンブスに失礼なレベルで極小ですよ。まあでも良く分かります。自分も自分の楽しめる物語を書きたいんです」


 隊長は額に血管を浮かび上がらせつつも、ぐっと堪えて言葉を締めくくる。


「ぐぬぬ、ま、まあいい。この町に残っている伝説は、対等な関係として竜と交流を持った人間の兄妹の伝説だ。その兄妹はな、戦乱で度滅びたこの町を、竜の力を借りて復興したらしい。良い話ではないか」

「そうですね。自分もそんな物語を書いてみたいです」


 遠く町の中心部で、正午を知らせる教会の鐘が鳴る。


「貴様、物語よりも感想を書けと言っただろう。出来ているのか」

「はい、今日の分はばっちりですよ」


 隊員は準備していた感想を隊長に手渡したのであった。




◆先日読んだ作品を紹介します


タイトル:旅は竜連れ世は情け

ジャンル:ファンタジー

  作者:冬野はる様

  話数:9話

 文字数:75,677文字

  評価:★37 (2016.11.18現在)

最新評価:2016年9月8日 07:10

 URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881120287

 検索時:『旅は竜連れ』で検索しましょう。


キャッチコピー

 噛み合わない少女と竜に絆は生まれるか?


感想★★★

 互いに失ったものを補う二人は、契約という関係性を必要とした。

 それは、本来はお互いが相容れない関係性にあるからであり、契約という関係性が存在しなければ保てない間柄であるから。


 竜と人間の心の交流を描いた、良質なハイファンタジー。

 転生や転移やスキルやレベルといったネット小説っぽい概念は一切存在せず、国家、宗教、野望、種族、冒険、探究心といった、人間らしい要素で綴られていきます。


 必然的にハイファンタジーとしての品質は高くなり、読者をしっかりとその世界に引き込み、その世界で紡がれていく物語を魅せてくれます。


 ぜひご一読下さい。

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