第8話 導かれた先には何が ~【遠い世界に願いを込めて。】~
――こっちだよ
――さあおいで
霧の中に木霊したその声に、二人は導かれるようにして森の中を進んだ。
「たたた、た、た、隊長、自分等は何処へ向かっているのでしょうか」
「ししし、し、し、知るか!」
二人は寄り添うようにして、視界の悪い森の中をそろりそろりと歩む。
この二人が何故このような場所にいるのかを正確に知るには、数時間前に遡らなければならない。
だが、遡るのは面倒なので、直前のやり取りだけをお知らせしよう。
数分前。
「隊長! いましたこっちです!」
隊員が見つけたその白猫は、お魚を咥えたままで走り出す。
「捕らえるのだ! そのドラ猫を逃がすな!」
二人が追っているは、今晩の食料にしようと考えていた秋刀魚。
秋の味覚を奪われた二人は、勿論の事、裸足で駆けていく。
当初は町中で追っていたため、裸足であってもそれほど苦ではなかったのだが、流石に森の中に入ると足元が悪く、足の裏はすこぶる痛む。
だが、それでも二人は追うのを諦めなかった。
「三日ぶりのたんぱく質、逃がしてなるものか」
「はい、もう炭水化物オンリーの食事は限界です!」
足の裏の痛みなど、日ごろのスコップ作業に比べればどうと言う程の事でもない。
そして、気付けば森の中にいた。
深い霧に覆われ、自分たちが来た方角さえ分からなくなっている。
「隊長、しかもここ圏外です……どうしましょう」
「どうするもこうするもない。財布を忘れて出かけたのだ。当然ながら携帯もない」
完全手ぶらの隊長に対し、少々あきれ顔の隊員。
それでも不平不満を口にすれば、自分の生命さえ危ぶまれる事を隊員は知っている。
霧の深いこの森に、どんな未知の生物がいるか分からない。とてつもなく狂暴な輩に襲われる可能性も無くはない。
だがそれでも、隊員にとっては隊長のほうが余程恐ろしく危険な存在だった。
「自分のスマホの明りだけでは……いえ、出来る限り照らします」
――ほらこっちだよ
――もう少しだよ
声に引っ張られるようにして進む二人。
そしてついに、その目的地に到着した。
そこには、老舗然として古めかしい建物の店舗が存在しているのである。
森の中にぽっかりと空いた空間に、どうにも似つかわしくない店舗の存在。
「こ、これは……」
「隊長、こんな森の奥に店があるなんて……あ、電波が戻りました。ちょっと調べてみます」
隊員はすぐさまスマホで目の前の店を調べはじめた。
「あ、ありました!」
隊員はヒットした画面を隊長へと向けた。
「これです。森の
「ほう、栗羊羹がおすすめか」
「自分は芋羊羹がいいっす。買って帰ろうっと」
軽やかに店舗へ向かう隊員の背に、隊長の視線が注がれた。
「待て! 俺は……財布を持っていないのだ」
「ほうほう、そうでしたね隊長。ではこうしましょう」
隊員は誇らしげに胸を張って言葉を続けた。
「今回の感想は隊長が出す。それで自分が羊羹を奢ります!」
「くっ、止むを得ん」
隊長は渋々、今回の感想が記された紙を差し出したのであった。
◆先日読んだ作品を紹介します
タイトル:遠い世界に願いを込めて。
ジャンル:現代ドラマ
作者:霧野リノ様
話数:8話
文字数:32,258文字
評価:★61 (2016.11.14現在)
最新評価:2016年8月14日 15:42
URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881067207
検索時:『遠い世界』で検索しましょう。
キャッチコピー
逢魔が時の森で出会ったのは、「死」の匂いがする女の子でした。
感想★★★
飼い猫を追って迷い込んだ森で、少女が出会い、感じ、体験した事とはいったい何なのか。多くを語るのは勿体ない、まずは読んで頂きたい。そんな作品です。
ナーバスな記憶、不可思議な現象、不思議な体験、得体のしれない少女。そして大切な人との約束。すこし不思議で、心温まる物語。
ちなみに私、鼻水がグスグスになりました。
危うく泣いちまうところでした。ああ危ない危ない。
ぜひご一読下さい。
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