第6話 海戦どん! ~【人魚の泪はかく語りき】~
遠く広がる水平線から、朝日がゆったりと顔を出す。
天を貫くようにそびえ立つマストのすぐ上を、カモメたちが無数に飛び交っていた。
「隊長、いい朝ですね。人魚の歌でも聞こえてきそうだ」
「ああ、幻想的だな。誌的な物言いが出来ない自分の非才を恨むよ」
まだ冷たい潮風を全身に浴びながら、体に残った昨夜の酒を大海原へと放り出す。
心なしか、体が軽くなったように感じるから不思議だ。
甲板に立ち海を眺める二人に、毛むくじゃらの男が声をかける。
「お二人さん。どうだね、船旅は。ゆったりと楽しんでくれよ」
いかにも船長といった風貌の男で、その実は正しく船長である。
その船長の言葉が終わるのと同時に、マストの上から声が降って来た。
「船長、潮目も風も変わりました」
「おおそうか、もうそんな場所まで来たか」
この海域は、ある程度の場所まで進むと潮の流れも風向きも進行方向とは逆に流れる。それは同時に、目的の港が近い事を示していた。
「スクエアセイルは畳めよ。漕ぎ手を起こせ、客人にガレアス船の醍醐味をとくと味わってもらおう!」
「あいあいさー!」
船長の命令で、三本あるマストの中央にあった四角帆が畳まれ、前後のマストの三角帆が逆風を受けて膨らむ。そして船の両サイドから無数のオールが突き出した。
「ヨーホーホー、ヨーホーホー」
掛け声が響き、オールが海面を叩く。
その様子を、甲板から身を乗り出すようにして隊員が見下ろしている。
「隊長、凄いですね。ムカデみたいだなぁ……綺麗に揃ってうねりを作って、まるで海の上を走ってるみたいですよ!」
隊員の言葉に釣られ、隊長も甲板の隅へと足を運ぼうとする。だがその時、けたたましく鐘が鳴り響いた。
「船長! 後方から戦艦! ありゃニコダルスフ王国の私掠船だ!」
「ちぃ、面倒なのに噛みつかれたな」
慌ただしく走り回る船員の中に、ぽつんと取り残された二人。
「隊長、私掠船って何ですかね?」
「そんな事も知らんのか。攻撃及び略奪行為、即ち海賊行為というものは本来であれば禁止事項だ。だが、戦争状態にある敵国の船であればその限りではない。敵国の船を襲う許可を、その国家から受けている船を私掠船と言う」
言葉を終えると、隊長は船尾へ向けて歩き出す。
隊員は慌ててその後を追った。
「相手限定の合法海賊って事ですか。なんか凄い話ですね」
船尾には多くの戦闘員が集まっている。
その中央、一段高い所に船長の姿があった。
「ありゃガレオン級だな……しかも最新。カノン砲、七十門式か? だが甘ちゃんだな、海での戦いを舐め切っていやがる」
船員達はぐっと引き締まった表情で船長を仰ぐ。
船長の言葉は続いた。
「ここいらは風も弱く帆船には向いてねえ。ガレー船のテリトリーだと言ってもいいだろう。野郎ども、ニコダルスフの青二才がな、最新式のガレオン船をプレゼントしに来てくれたぞ!」
船長の声に、どっと歓声が上がる。
「敵の船首砲の射程ギリギリまで引き付ける! もうすぐ奴らも逆風の中に入る。その時が勝負だ!」
カノン砲は強烈な威力を誇るが、射程距離は決して長くない。
「ようし今だ、取り舵いっぱあああい!」
船長の掛け声で、舵が大きく切られ、ぎぎぎと木の軋む音が響く。
「ヨーホーホー! ヨーホーホー!」
漕ぎ手も見事なまでの一体感を発揮し、船は急激な旋回を開始した。
「今頃気付いても遅いわい」
急旋回して接近するガレアス船に対し、私掠戦も逆方向に舵を切って距離を取ろうとするが、既に時遅し。
そもそも急な旋回には向かない大型船であり、その上はちょうど風の変わり目に入った所である。大型の帆船であるが故に逆風の中での旋回は困難であり、急激に船速を落とす事になった。
「突っ込めや!」
敵船から幾つか砲弾が発射されたが、角度的に当たりようもない位置に着弾。水面を弾いた程度で船には掠りもしなかった。
どんっ!
と、大きな衝撃が走りぬける。
船と船がぶつかったのだ。
「乗り込めぇええ!」
「おう!」
甲板から敵船の甲板へ、どっと流れ込むように乱戦が開始された。
こうなっては、搭乗人員が圧倒的に多いガレアス級のガレー船はめっぽう強い。
「たたた、隊長、戦争です!」
「落ち着け、そんな事より感想は書いたのか」
隊員はその言葉を待ってましたとばかりの笑顔を見せ、胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
そこには、新たな感想が記されていたのである。
◆昨夜読んだ作品を紹介します
タイトル:人魚の泪はかく語りき
ジャンル:ファンタジー
作者:冬春夏秋(とはるなつき)様
話数:15話
文字数:25,860文字
評価:★73 (2016.11.12現在)
最新評価:2016年9月12日 01:37
URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354054881478412
検索時:『人魚の泪』で検索しましょう
キャッチコピー
航海に楽な日なんてないよ。楽しくない日がないのと同じさ!
感想★★★
無性に海賊物が読みたくなり、漁って出会った作品です。
全体的に誌的な表現で綴られていく美しい世界が特徴的。その美しさに魅了されながら、一人の男の生き様を知る事になります。
一風変わった海賊の描き方だと思います。
こんな世界観で海賊を描く事を、私は想像していませんでした。
私からの提案ですが、この作品は特に、通勤通学中やカフェやレストラン等ではなく、読者様がリラックスできる環境で目を通す事をお勧めします。
読者様の感受性を解放し、誌的な美しい世界に心を開くことが出来る環境下で読んでいけば、幻の★四つが見えてくる作品かもしれません。
ぜひご一読下さい。
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