私が静岡の魅力を紹介するとしたら、こういう形でしかできないのですが

毛賀不可思議

46の刺客

 その夜。『彼』の家は46人の刺客たちに包囲されていた。


「俺が行く……。お前たちはここで待て」

 そう言って、一人の男がゆっくりと家の引き戸を開けた。中を覗き見ると、幸いなことに『彼』は背を向け座布団にあぐらをかいている。こちらには気づく様子もない。

 男はそろりそろりと背後に近づくと、ゆらりと刀を抜く。そして頭上高く振り上げると、

「静岡!! 覚悟ッ!!!」

 凶刃を振り下ろす……!!

 ぶすっ。

 脳天を叩き割ったにしては、似つかわしくない感触。よく見れば、その刀身は彼が座っていたはずの座布団にめり込んでいた。

「座布団を盾に……? い、いや違う!! これは−−ッ!!」




 瞬間、轟音が大気を震わせ、表にいた男たちは粉塵に目を覆う。

 やがて目を開ければ、そこには家の壁ごと吹き飛ばされてきた刺客の男の姿があった。


「防災頭巾さ」

 ハッとして皆が戸口を見れば、頭に座布団を被った男……『静岡県』が悠々と歩み寄ってきていた。


「防災頭巾……だと!?」

「聞いたことがあるぜ。静岡県の小学生は教室の自分の席に座布団を敷く……。それもただの座布団じゃない。災害時には被ることで頭を守る機能も備えた『防災頭巾』を自分のケツに敷くのさ!」

「し、しかし奇襲は完璧だったはず! まさか襲撃を予期していたとでも言うのか!?」

 驚嘆するその声に、静岡は退屈そうに返した。

「おいおい。常日頃から非常時に備えるのは当たり前だろ? いつ大災害が来てもおかしくはないんだぜ?」



「ふん。だから小賢しい手は嫌だと言ったんじゃ」

「お前は……!」

『『鹿児島県!!』』

 人の群れをかき分け、大男が静岡の前に歩み出た。静岡はその顔を品定めするようにじっくりと眺める。

「ほう。少しは手応えがありそうだ」

「ほざけ! 先手必勝!! 『台風の上陸オイドン・タイフーン』!!」

 鹿児島は両腕を交差させずいと突き出す。すると付け根から小さなつむじ風が生まれたかと思えば、みるみる暴走する刃物と為りて静岡を襲った!

「そうか! 鹿児島は台風の上陸が一番多い県! この波状攻撃にはいくら防災頭巾といえど……」

「いや、防災頭巾を使うまでもないね!」

「何ッ!?」

 見れば、双竜と化した暴風が静岡の眼前で軌道をずらし、霧散していった。

「ば、バカな!? 一体どんなカラクリを……」

「カラクリもクソもない。静岡には……台風は直撃しない!!!」

「聞いたことがある……。静岡は天災に最も警戒し、天災に最も無縁な県。それは台風においても例外はない……。奴ら『台風で休校』を未経験らしいぞ」

「代表的な例は『台風16号 静岡』で検索してみようぜ!!」



「クク……ならば自虐ネタならどうかな?」

『『愛媛県!!!』』

「待て、アイツ一体何をしているんだ!?」

 見れば、なんと愛媛は自らの腕を切りつけ、己が体液を滴らせていた。しかし、それは血ではない。もっと水っぽく、鮮やかな橙色をしていた。

「あれはもしや、オレンジジュース!?」

「クク……その通りさ。我が諸刃の自傷剣術。『蛇口からオレンジジュースフェイク・ザ・オレンジ』の斬れ味を見よ!!」

 他県からの勝手なイメージにより産まれし不名誉な都市伝説が具現化する。腕の傷口より先が鋭利な刃物に変貌した。刹那、半歩で間合いを詰め、静岡の胴を一文字に薙ぐ……っ!!


キンッ!!


 が、一閃は火花を散らし弾かれる。不敵な笑みを浮かべる静岡の腕もまた、深緑の刃と化していた。

「自虐ならこっちだって負けてないさ。『蛇口からお茶フェイク・ザ・グリーン』だ!!」

「まさか……俺と同系統の能力だと!?」

 狼狽える愛媛。その時だった。

「オラアッ!!」

「がっ!!」

 突如、愛媛を突き飛ばして飛び出した影によって、静岡は強い殴打を受ける。皆が振り返れば、そこには巨大な得物を提げた……。

『『北海道!!!』』

「静岡よォ……。やはり全国に誇るローカル番組では対抗手段がなかったようだなァ?」

 耳をかっぽじりながら、北海道は唾を吐き捨てた。

「み、見ろ……。あれは、水曜どうでしょうコンプリートBOXだ!!」

「なんて分厚さ……! 20年の歴史の重さを感じるぞ……」

 感嘆の声の中、身を震わせながらも静岡は泥まみれの顔をあげた。

「おお! 見ろ! 静岡も起き上がったぞ!?」

「く……。服の中に『ピエール瀧のしょんないTV』DVDを仕込んでおいて致命傷は免れたぜ……」

「フン。即死じゃなかったこと、コーカイさせてやるぜ」

 ズシン。

 鈍器を落とすと、徐に懐から拳銃を取り出す。

「お前がよォ……。メディア関係には滅法弱いことはリサーチ済みなんだぜ? 悪いがここはホームグラウンドであるご当地CMでトドメを刺させて貰うぜ」

 一発の弾を装填すると、静岡の脳天に銃口を向ける。

「これで終わりだァ!! 『のぼりべつくま牧場グリズリー・パーク』!!」

 乾いた銃声。

 やがて無音となった世界で、ばたりと倒れたのは……北海道だった。

「ふぅ……ローカルCMなら、まだ戦えるぜ」

 そう言って静岡はトレンチコートを勢いよくあけてみせる。その中には大小様々な銃がずらりと収められていた。

「コンコルド、ハマIN、学生服のやまだ、フジサファリパーク……お弁当どんどんまで!!」

「北海道もCMのインパクトは強い……が」

「フジサファリパークの知名度……そして、コンコルドの古舘寛治さんと言えば今やドラマの中で見かけない日はない程の名脇役だ! お弁当どんどんに至っては何故かAAまであるからな! 誰が作ったんだ!?」



 いよいよどよめき始める刺客たちの中、満を持してあの男が歩み出た。

「どうやらお前と決着をつけるのは俺しかないらしいな……」

『『山梨県!!!』』

「喰らえ我が……」

「我が奥義『富士山マウント・フジ』!!!」

「あああああ!!!」

 言い終わる前に山梨は霊峰の下敷きになっていた。

「なんて奴だ! 技名さえ言わせずに山梨を封じやがった!」

「こと富士山において山梨には発言権すら与えない、静岡のガチさを引くほど感じるぜ!」

「山梨に勝てたから終わらせてもらうぜ! 収拾もつかないしな!!」

「結局なんだったんだこれ!!」

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私が静岡の魅力を紹介するとしたら、こういう形でしかできないのですが 毛賀不可思議 @kegafukawa

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