四章 うちの目標は、優勝っす


「どうだった!?」

「どうだったもこうだったもないっすよ。部長、あんたの弟分はマジでおかしい」


 犬塚が照治へそう返す隣、幹人は右手で作った握りこぶしを堂々、天に掲げている。

 これは、やり遂げたガッツポーズだ。


「通ったんだな? こいつのこの様子からすると」

「通したんすよ。いや、マジでほんとに何とかしやがった……」


 ここはウルテラの街、大精霊祭登録所のテントの前である。


「よおしよくやったよくやった!」

「いえーい!」


 褒めてくれた兄貴分にピースサインを送ると、彼はサムズアップを返してくれた。

 大精霊祭予選日程、本日は最終日より一日前だ。

 連日連夜の製作作業を終え、なんとか精霊本体と新型の杖が完成。タイミングとしては滑り込みである。


 他の精霊使いたちが召喚するような精霊ではない、星命魔法で組んだ幹人たち手製の精霊。

 問題は、本当にそれを精霊だと認めてもらえるかどうかだ。

 ギルド・オオヤマコウセン総出でこのウルテラの街に訪れ、シキを連れて登録所に入ったのは幹人と犬塚の二人。

 犬塚は結局、正式に精霊の操縦担当となった。つまり、精霊召喚役という事になる。

 幹人は補助役。


 本来、登録所に入るのは犬塚だけで良かったのだが、幹人は長所である会話能力を活用し、何とか登録所の係員を説得するための要員である。


「最大の難所突破だな。大手柄だ、雨ケ谷」「雨ケ谷パイセンすげえや!」「ここまでくると気持ちが悪い!」「雨ケ谷先輩ナイスプレー! 人間転がし!」「俺が犯人だったら殺すのは最後にしてやるところだ!」


 結果はと言えば、部員たちから飛んでくる喜びと賞賛の声が示している。


「はっはっは、よせやいよせやい!」

「す、すごい、ね、みき君、ほんとに、どうやって……」

「真正面から行ったよ、正直に色々話してね。騙すのもフェアじゃないし」


 自分たちの精霊が他の精霊のように神殿から喚び出したものではなく、自作魔道具によって作り上げられているものだというのは、登録所の係員には説明をした。

 その上で、精霊の定義がルール上存在しないという点を主張し、出させてもらえないかと頼み込んだのである。


「勝因は二つ。一つ、事前に『こういうのを作って出たいんです』って確認に行ったんじゃなくて、『こういうのをもう作っちゃってて、これでどうにか出たいんです』って事後承諾を求めた形だったから押し通せたって事。申し訳ないけど、そっちの方が断りづらいだろうからね」

「な、なるほど……もう、一つは?」

「もう完全に舐められてる事、っすよ! 『わかったわかった、ど~してもそんなんで出たいならもう好きにしたらいいけど、まともな精霊に勝てるわけないよ』って! 最後は鼻で笑われましたよ!」


 幹人に代わって魅依に答えたのは、不満げな声音の犬塚だ。

 魅依が適性審査で描いた紋様は高く評価されたし、今回持っていった樹印も、紋様の質は良いものだと言ってもらえた。

 だからこそ、まともな精霊魔法でない事について、かなり否定的な事を散々言われてしまった。


「よくアメちゃんは粘り強く交渉したよなあ。俺はキレそうだったよ」

「あっちの反応も当然だとは思うからね、仕方ないよ。俺たちが変な事やってんのは確かなんだから。…………でも、おふざけだと思われてんのだけは心外だな」


 幹人がそう言うと、照治が鼻を鳴らして不敵に笑った。


「ふん……おふざけか。上等だ。自作魔道具を馬鹿にされるのは以前にも経験したが……その評価はもう覆してやった」


 今度も同じだ。

 堂々、そう言った照治に部員一同、揃って頷く。

 そんな会話を交わしていると、登録所のテントがバサッと開いて係員の男性が顔を出した。


「オオヤマコウセンの人は……あーいたいた! これからすぐに試合、大丈夫?」

「ああ、はい。幹人、犬塚、いけるか?」

「もちろん」

「ばっちこいっすよ!」


 幹人と犬塚が揃ってそう返したのを確認し、照治は係員へ代表として名乗り、正式な返答をした。


「それじゃあ、ステージの方へ。君たちは赤の側だ」


 大精霊祭の試合では、赤と青でサイドを分けている。ステージ中央の紋様の上に乗り、自分たちの色で染め切ったなら勝利だ。

 どういう仕組みなのかすごく気になるし、何ならそれをハック出来れば勝てるのではないかという意見もあるが、教えてもらえないらしい。残念だ。


 係員の男性に案内され、ザザを加えて十三人となったメンバー全員でぞろぞろとステージ脇へと移動する。

 対戦相手のギルドはもう来ていたようで、がたいの良い男性がこちらを一瞥して片手を上げ、挨拶をしてくれる。

 軽く頭を下げて返しつつ、こちらも準備を開始。幹人は道具を担いで、自分の仕事場となる補助役用の台座の上へと移動する。


「……君! それ、試合中に使うのかい?」

「はい。いけませんか?」


 こちらの大荷物を見とがめた係員の男性へ一応そう問い返すも、問題のない事はルールブックできちんと確認してある。


「いや……わかっていると思うけど、補助役がやっていいのは魔法での支援だけだよ? 武器とかは使い道がないぞ」

「ええ、承知しています」

「ならいいんだが……ほんと、わけわかんないね、君たち」


 係員の男性は、いよいよ呆れ返った顔をしている。

 この世界、少なくともこの国においては魔法を使う上で杖などの道具を使う事はないらしいので、変に見えるのだろう。

 変に見られる事は地球に居た頃から慣れっこなのでどうでもいい。


「よっと」


 ガシャン、と道具一式を脇に置いて組み立てを始める。とは言え、複雑な事をするわけではない。

 自分の胸までほどの高さを持った三脚を、しっかり脚を開いて設置。その上に、太い筒状の筐体を寝かせる形で組み付ける。それだけだ。

 でき上がったものの見た目は、ごつめの天体望遠鏡と言ったところだろうか。

 後方支援特化型固定魔導杖ver1.0である。

 今回の戦いでは移動する必要がない、というかルール上この台座の上から動けない。


 なので、これは機動力などというものは綺麗さっぱり捨て去って、代わりに大型の素子をふんだんに使い火力へスペックを全振りした、とても漢らしい仕様となっている。

 そんな作業をしているうちに、犬塚が聖水を樹印に掛けて球状の待機状態を作った。


 向こう側からも対戦相手の精霊召喚役がやって来て、同じ事をしている。

 犬塚も対戦相手もステージを降りて台座に収まり、中央ステージの周り、選手四人が所定の位置へ着いた事になる。



「やるぞアメちゃん!」

「おうよイヌちゃん!」



 犬塚がこちらへビシッと親指を立てる。

 同じ仕草を返してから、幹人は溶接や切削作業用として部で所有していた遮光レンズ入りの保護ゴーグルを目に掛けた。


「では双方、準備はいいな!」


 大会運営に属する、審判役の男性が声を張る。

 選手四人が頷いたのを確認し、彼はバッと手を振り上げた。


「…………始め!」




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次回更新は、3日後の5月30日(火)です。お楽しみに!


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