二章 かっこいいところ! お見せしますので!

「いやあ、親切な子だったなあ」

「見た目も可愛いしね、イヌちゃんの好みだ」


 幹人がそう言うと、犬塚は眼を泳がせた。


「え、や、ま、そのー、えー、おいおいやめてよー!」

「なんだよー! いいじゃーん!」


 犬塚と肩を叩き合いつつ、登録所目指して大通りをぞろぞろと歩く。

「俺の好みはともかく、あの子のおかげで精霊とか大精霊祭の事、大体わかったな~」

「だね、……こうなると俄然、大会にも出てみたいなあ。でも精霊魔法を今から覚えるっつうのは厳しいってさっきモニカさんも言ってたしなあ」


 幹人がそう零せば、犬塚もため息を吐いた。


「よしんば覚えられたとしても、付け焼き刃じゃ勝てねえだろうしなあ。くっそ~!」


 そんな会話をしながら歩けば、ほどなくして件の登録所の前についた。

 天幕の中を覗いていた照治がこちらを向く。


「お前ら暢気にしてる場合じゃないぞおい! これはお前、大変だよお前これ……!」

「どしたのさ」


「様子を見てたんだけどな、精霊の登録って、精霊とその樹印の紋様はどんな姿形をしているか、それだけっきゃ見てねえんだ……!」


「そうなんだ、ふうん……でもそんなもんなんじゃないの? それがどうかしたの?」

「よおく聞けよ! 大事な事だ!」


 がしっと幹人の肩を掴んで、照治は言い放った。



「……その上! ルールのどこにも! 書いてなかったんだ! ――精霊の定義!」



「…………なんだって?」

「精霊の定義! 明文化されてねえ!」


 瞬きを何度かしながら彼の言葉を咀嚼して、幹人は隣の犬塚と顔を見合わせた。それからまた正面を向いて照治の眼を見やる。


「照兄、それはマジで言ってんの……?」

「マジだ! さっき三峯に読んでもらった限り! そうだろ三峯!」

「え、えと……そういえば、ええと、……そ、そうですね…………そう言われてみると、……あれ、ほ、本当だ、本当に、そんな項目、……ない、かも」


 手元のルールブックをめくり確認する魅依。やがて彼女は「……ない、です。少なくとも、このルールブックには、どこにも」と言った。

 これは、面白い事になってきたかもしれない。


「お兄ちゃん、何なんですか? どうしたの? 精霊さんの、定義? が書いてないのがどうしたの?」


 この場において咲だけは、要領を得ない顔で首をひねっている。


「定義って説明とか決まりの事だよね? 精霊さんは精霊さんなんだから、そんなのわざわざ書いてなくてもいいんじゃない?」


「そうだな、多分、この街の人とか、この世界の人的にもそうなんだろう。精霊使いが精霊に見えるものを使っていれば、細かい事なんて考えるまでもなく当たり前にそれは精霊って認識。……つまり、」


「そういう風に見えるのならば、登録所の人間がそう認識したのならば! それは精霊という事で良いんだ……! 他の精霊使いたちの精霊とは異なっていてもな! なぜなら精霊に明文化された定義はないんだから! 少なくとも大精霊祭では!」


 幹人の言葉を継いで照治がそう力を込めて言えば、咲は困惑気な顔と声だ。


「……え、ええ……そ、それは…………でも、えー?」

「俺たちなりのやり方で、俺たちなりの精霊らしきものを作って出場しても! それがこの街の人間に精霊だと認識されて登録が通るのならば、大会のルール上は問題がない。何か間違っているか、咲」

「えええ…………」


 照治が強い口調で展開する論理に、咲は多少たじろいでいる。彼女の肩を掴んで、ダメ押しに照治は言う。


「咲、思い出せ。さっきモニカは何て言っていた? 大精霊祭の理念は何だ?」

「え、ええと、なんだっけ……なんか、全力でがんばろー! みたいな……」

「『ルールに反しない限り、躊躇いなく全力を尽くせ』だ。精霊を自作する事は、ルールに反しない。だったら俺たちは躊躇いなく全力を尽くさねばならん。俺たちの出来るやり方で、全力を。総力を!」

「……この街の人たちはきっと、照兄みたいな人たちが来ちゃう事を考えてなかったんだねぇ」

「それはあちら側の不手際だな、俺たちの落ち度じゃない」


 そう返す照治の顔は堂々としている。


「でも部長、具体的になんか設計イメージはあるんすか?」

「おう、簡単な話だ。精霊の形をした人形を星命魔法で構築し、そいつを想話で操作して戦う。星命魔法発動のためのユニットは樹印の中をくり抜いてそこに仕込みゃいい」

「……へえ、なるほど。星命魔法で身体を構築か、確かに可能ではありますね」


 照治の返答に犬塚は面白そうな顔で頷く。

 星命魔法は魔力そのものである光の塊を発生させる魔法だ。光の塊はエネルギー体のように振る舞う事も、質量体のように振る舞う事も出来る。

 質量体に寄せた設定で発動させれば、照治の言ったとおり人形の身体を構築する事も出来るだろう。


「ただ、質感とかはどうしても、もしかしたら『精霊とちょっと違うんじゃないの?』って言われるかもしれないっすね」

「うーん、そうだな……。造形の面で言えば、モニカのガルゼッタみたいなのは難しいだろうが、試合に出てたゴーレムっぽいヤツなんかはかなり単純なビジュアルだったし、多分いけるだろうと思うんだが、……質感は、どうだろうな」

「でも結局、登録所の人に納得してもらえばいいんでしょ? 照兄、だったらそこは任せてくれ。説得してみせる」


 幹人はせいぜい自信満々な顔を作って言う。実際、自信も結構ある。


「お前は本当、そういうところ、頼りになるな……」

「さすが我らが機械科三年の誇る設問盗み!」

「よせやいよせやい、そんな大したもんじゃないぜ、いやあ」


 ちなみに設問盗みとは、定期試験の範囲を聞くという態で教官室に赴き、そこから話の流れを上手く誘導して実際に出される問題を事前に入手するという、やや特殊なスキルを高専生活の中で培った幹人に同級生たちが付けた異名である。


「んー! これはいけそうじゃないか? いや~ブレイディアに帰るのが楽しみになってきたぞ!」

「照兄、でも、お金の事はどうするの?」

「……うぐ」


 咲の指摘が突き刺さったらしい、言葉を弾ませていた照治が呻き声を上げた。


「フォスキアを倒してけっこーいっぱいお金もらえたけど、生活費とかで色々かかるからそんなにお財布あったかくないって言ってたはずです。また何か作るんなら、材料とかも買うんでしょ?」

「う、うう……いや、ほら、大会に出て名を上げれば仕事とかやりやすくなるし、魔道具に明るいって宣伝ができりゃあ情報も集まりやすくなるだろ? つまり必要経費だと考えれば、」


「でも勝てるかどうか、そもそもほんとに精霊使いとして出られるかどうかもわかんないわけでしょ? そんな余裕があるんですか?」

「そ、そうだが……それは…………そう、なんだが」


 項垂れる照治。ロマンで盛り上がる男子勢に対して、女子はやはりリアリストという事だろうか。咲の突っ込みは容赦がない。


「でもさあ、咲」

「でもじゃないですよお兄ちゃん。お金は大事に使わないと。食費とか!」

「それは咲の食い意地による意見ではなく?」

「ではなく!」


 妹の声音は大変力強い。語る内容もとても正しいので、反論は難しい。



「はい、それではそろそろ始めますよ~! 参加されたい方はこちら、受付に来てくださ~い!」



「なんだ?」




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