「いいの!? 触る触る!」

「くちばしの下、首元を撫でてあげて。喜ぶから」


 少しばかりおっかなびっくり、幹人はガルゼッタへ手を伸ばしてみる。じいっとこちらを見ている鳥型精霊からは拒絶の意思は感じない。

 言われた通り、くちばしの下あたりに触れてみる。眼を閉じてリラックスしているようなので、さらに触れた手を動かして撫でてみる。


「……お、おお……おおお、これは…………結構硬い!」

「アメちゃん! 例えばモース硬度で言うといくつ!? あと表面の触感は!?」

「俺の勘は、こりゃあさては七くらいあるんじゃないかって告げてる。表面はね……ツルツル!」


 犬塚へ言った通り、ガルゼッタの身体はツルツルだ。


「幹人、温度は!?」

「冷たい!」


 照治の問いには歯切れ良く答える。ガルゼッタの身体に温度はほぼ感じない。


「他の皆もよかったら」

「触る触る!」


 促すモニカに即答する照治。

 彼を筆頭に、結局皆でワイワイとガルゼッタの身体に触れる。妹はともかくとして、高専生に囲まれて手を伸ばされるというかなりきつめの状況にも、鳥型の精霊は黙して耐えてくれた。

 主の女の子と同じで心優しいのだろう。


「精霊魔法はこんな感じだね。何か聞きたいこ……と……は、って、言いたいけど、でも、君たちに納得してもらえるように答える自信はないかも……」

「あの、モニカさん! あれ、その、じゃあ大精霊祭の事聞いていいっすか!」


 気を使ったのか本当に気になっていたのかわからないが、犬塚がそんな質問を飛ばす。


「あ、うん! よしよし、それならちゃんと説明できる! ……ええとね、まず、そもそも大精霊祭は一番の精霊使いギルドを決めるために行われています。最初はウルテラを拠点としているギルドだけが参加していたらしいけど、今では規模が大きくなって、ウルテラの街以外からもたくさんのギルドが出場しているわ」


 うんうんと首を振って聞く幹人たち一行に、彼女は続ける。


「予選と本戦、大きく二つの日程で分かれていて、今は予選の真っ最中。この広場でやっているのもそれ」

「予選に出場するために必要な条件とかはあるの?」


 幹人の問いに、モニカは首を横に振る。


「ううん、どんなギルドでも参加できるよ。それに、たとえ負けてもそれで終わりってわけじゃなくて、希望すればまた試合に出られる」

「へえ、そうなんだ」

「うん。ただ本戦はね、そういうわけにもいかなくて。こっちはギルドランクや過去一年の実績、去年の本戦の成績なんかで出場者がもう予選の前に大体決まってて、残る枠が予選の成績優秀者に与えられる仕組み」

「おー、やっぱり結構大変だ」


 それだけ規模が大きく価値のある大会だという事だろう。


「予選も本選も、真剣勝負で容赦なし。さっき精霊使いの理念の話をしたけど、大精霊祭にも同じように理念があって、それが『ルールに反しない限り、躊躇いなく全力を尽くせ』。変な遠慮とかする方が無礼だって感じなの」

「わーお」


 生半な催しではない事が伝わってくる一文だ。


「そして! そんな過酷な大会を四連覇して殿堂入りするとね、最高の特別報酬があるの」

「四連覇……大変だなあ。何がもらえるの?」

「特別な紋様が描かれた精霊樹印。なんでも、それを使えば伝説の精霊が喚び出せるんだって」


 伝説の精霊! 思わず一行はハモる形で復唱してしまう。

 なかなかどうして、ハートをくすぐる言葉である。


「伝説! すごい! きっととってもすごいのが出てくるんですよそれは! 今まで殿堂入りは出た事があるんですか!?」

「ううん、まだ。でもね、今年はそれが懸かってるの。三連覇中のギルドがいるわ」


 咲の問いに、モニカは楽しみだという気持ちの滲んでいる声音でそう答えた。

 それは、今年の大会本戦は否が応にも盛り上がるだろう。


「大会や、あとは試合についての細かい決まり事はこれに載ってるんだけど……」


 そう言ってモニカは肩に掛けた鞄をごそごそと漁って、数枚の紙の束を取り出した。


「お、それはルールブック?」

「うん。良かったら、いる? 私、お仕事上貰おうと思えばいつでも貰えるし」


 聞いた幹人に、モニカは紙束を差し出しつつそう言った。


「いるいる! 三峯三峯、訳してくれ! 頼む頼む、端から頼む!」


 ルールブックに照治は飛びついて受け取り、魅依へそんなお願いをしている。


「は、はい、えと、じゃあ……」


 照治の眼の輝きは幼稚園児もかくやという光量で、あえなく押し流された魅依は絵本よろしく読み聞かせを開始したようだった。


「わあ、やる気満々だ。出場希望なら登録所があるから、そこで精霊を見せれば大会に参加できるよ。大会の途中で違う精霊に入れ替えないように、スケッチとかしてもらうの」


 という事は、出場させる精霊は一体で固定という事だろうか。


「どうなのアメちゃん、部長はもう結局やる気満々なの?」

「んー……火ぃ付いちゃってる気はするんだけど。ただ、精霊魔法を果たして俺たちが扱えるのかどうか」

「それなら、まずは適性を審査してもらうのもいいんじゃない? 君たちにもし才能があるのなら、街から援助金が出るよ」


 モニカのその発言は興味深く、すぐさま幹人は問い返す。


「適性を審査?」

「うん。良い成績を出せば有能な精霊使いの卵って事で、街から援助金が出るわ。この街はそうやって精霊使いを育ててきたの。街の外から来た人間が優秀な成績を出してハイレベルな精霊使いになって街に居着いた……なんて、結構よくある話」


「へー! 面白いな……! 審査って、具体的にはどんな能力を見るの?」

「色々あるんだけど、この近くでやってるのは確か、樹印に紋様を描く能力だね。実際に樹印に紋様を描いてみて、その出来映えを評価してもらうの」


「……樹印に紋様を描く能力。他と被らない複雑さがあって、それでいて均整の取れた紋様を描かなきゃいけないって話だったと思うんだけど、それって才能としてチェックするほど重要なの?」

「もちろん! 強い精霊は絶対に質の良い紋様にしか来ないもの。紋様は自分の魔力で描かなきゃいけないから、他の人任せにもできないし」


「なるほど」


 そういう事ならば確かに、試されるべき能力だろう。


「紋様の描き方は人それぞれで、手のひらを樹印に向けて魔力を一気に当てる人もいるし、指とか魔力を通す細い棒とかの先で少しずつ描いていく人もいる。私は一気に描いちゃうタイプ」

「それって、型を事前に作って、その上をなぞる形で描いちゃ駄目なの? そうすりゃそういう事が得意な職人さんとかに頼めば、自分が紋様を描かなくたって何とかなったりしない?」

「よ、よくそういうアイディアがすぐに出てくるね……。ええと、誰かが描いたものを元にした紋様で自分の精霊を喚ぶっていうのは……なんだろう、やりたくないというか、精霊に顔向けできないというか、胸を張れないというか」


 美意識や文化として受け入れられないという事だろうか。理屈とは少し離れたところに原因がありそうだ。



「……モニカ! モニカ! 精霊の登録所とやらはどこだ! どこにある!?」



「なんだなんだ、どしたの照兄」


 今の今まで魅依にルールブック読み聞かせを受けていたはずの照治が、いきなり高いテンションで叫び始めた。


「と、登録所? ええと、この大通りをまっすぐ行った先に、ほら、赤い色の天幕が仮設してあるでしょ? あそこだけど……」


「いよっしゃあああ!」


 モニカが指をさした先へ照治は駆け出していく。止める間もない。ちなみに飲食代は先払いなので幸い、食い逃げにはならない。

 その様子を見て犬塚がつぶやく。


「どったの部長は。まさかルールブック読んでたら楽しくなってきちゃってだんだん自分が精霊使えるものと思い込んじゃったとか?」

「まさかそんなニチアサ観た直後の五歳児じゃないんだから。……多分」


 幹人としては、兄貴分が年齢相応の現実認識能力を持っていると信じたい。


「ちなみに彼が行った登録所の隣で適性審査をやってるよ。日に何回か一斉に行われるんだけど、多分そろそろかな。結構、受ける人は多いの」

「へえ」


 違う街から来たお客さんが、大精霊祭の観戦ついでに受けていくのかもしれない。


「お兄ちゃん、私たちも照兄のところへ行った方がいいのでは。照兄が街の皆様にご迷惑をお掛けするかも」

「六つ下の妹分にこんな心配されているってあの人はわかっているのだろうか」


 わかってはいるかもしれないが、気にもしていなさそうである。そんな兄貴分がなんだかんだ、幹人も咲も好きだった。


「モニカさん、俺たち、我らがリーダーを回収しに行くね。親切にありがとう、すごく助かったよ。会えて幸運だった。あと、その、色々ごめんね……」

「ううん、そんな! 私も助かっちゃった。インタビューとかあんなにしっかり答えて貰ったし!」

「そう言って頂けると」


 皆で改めて赤髪の少女に頭を下げる。


「あ、そうだ、せっかくだから君たちのギルド名、聞いても?」

「オオヤマコウセン、って言います。お見知りおきを。拠点はブレイディア、魔道具関係で困ったら相談に来て。ちょっと得意なんだ」

「へえ、魔道具。そうなんだ。わかった、覚えておく。……オオヤマコウセン、不思議な響きね。でも素敵」


 彼女はニコリと微笑んだ後、「……あれ、ブレイディアのオオヤマコウセン? なんか聞いた事あるような」と小首を傾けた。


「ええと、まあいいや。とにかく、今から精霊魔法を身につけて今年出るっていうのは厳しいと思うけれど、来年再来年なら可能性はあるよ! 大会で君たちを見る事、楽しみにしてる!」

「ありがとう」

「うん、頑張ってね! ……それじゃあ」


 精霊の加護、あらん事を。


 彼女はそう言って手を振った。肩に乗る鳥型精霊もバサリと一度、翼をはためかせて挨拶してくれる。

 彼らに手を振り返し、幹人たちはカフェを後にした。




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