第2話

体の痛みが僕を叩き起こす。

目に陽の光が垂直に差し込んでくる。

まだ感覚がある。

どうやら僕は生き延びたらしい。

だが何故だ、どうやって僕は生還した?

近くに人の気配がある。

見ると、片手に短剣を握って倒れている人が僕の横に居た。

見たところ、大きな外傷は無い。

僕はヒールをコイツと自身に使う。

これでしばらくしたらコイツは目が覚めるだろう。

その後に何があったのか尋ねようじゃないの。

しかし、MPが回復していて良かった。

これからはMPの枯渇が起きないように調節していかねばな。

しかし、昨日から何も食べてないから腹が減ったな。

前世も死に際では空腹に襲われていたなぁ。


『レベルアップしました。』


はいはいレベルアップ、レベルアップ。

この無機質な声も健在のようだ。

今際で聞く声がこんな感情なしな声じゃ浮かばれないってもんよ。

少なくとも僕はそう思う。

どうせなら美少女に看取られて死にたい。

おっといかん、煩悩がはみ出していた。

長い期間ただ寝っ転がって物思いに耽っていると妄想が捗っていけないな。

妄想というよりは願望か。

まぁしばらくはこの妄想を膨らませるとしよう。

コイツが起きるまですることが特にないのだから。


「うぅ…いったた…」


お?目覚めたん?

思っていた以上に早かったな。

なんという回復速度だ。

正直3時間は起きないと思っていたが。

常人にはあるまじきスピードだ。

こいつ………できる。


『レベルアップしました。』


『スキルを習得しました。【ブラストLV1】』


お?新スキル習得した。

後で試すか。


「あ、あなた!体に怪我はありませんか?!」


起きて早々、僕の体を掴み、頭、胴体、腕、足と部分的に体のパーツの状態を視認してきた。

何と世話焼きな奴だ。

オカンかっての。


「大丈夫………ぽいですね。良かったぁ」


一通り僕の体を確認し尽くした後、勝手に一安心している。


「あの、痛いんで離してもらえます?」


「は、はい」


男はゆっくりと僕の体を野原に寝かせる。

はぁ……びっくりした。

ある程度、コミュニケーション力は身につけていると自負していた僕だが、いきなり組みかかられるとは思わなかった。

対応できたもんじゃない。

しかし、このリアクションから察するにコイツに僕は助けられたのだろう。

礼を言わねば。


「あー、……昨晩は魔獣に襲われたところを助けてくれてありがとうな。」


『レベルアップしました。』


人に向かって礼を言うのは久しぶりだ。

何か照れくさいものがある。


「いえいえ、僕は勇者として当然のことをしたまでです。」


勇者なのかコイツ。

てことはRPG的観念に乗っ取って考察するに、魔王が支配している系異世界かな。

おらワクワクしてきたぞ。


「ところで、昨晩ここで何をしていたのです?深夜にこの道の見張りを営んでいたって身なりでもありませんし。」


確かに僕は現在ジャージ姿。

こんな姿じゃ見張りなんてとても向いてないな。

とは言っても、何も考えず寝ころんでいたって言うのもなぁ。

コイツを馬鹿にすることになりそうだ。


「ええと、レベル上げ…かな?」


まぁ、間違ったことは言っていない。


「レベル上げは深夜にやることじゃあないですよ。モンスターも普段よりも強力になりますし。」


「あ、いや違う。」


この勇者、何か勘違いしとるな。

これには僕も否定をする。

魔獣と戦うなんてもっての外だ。

動かないことこそが人生の本質。


『レベルアップしました。』


「違うって……?」


勇者が首を傾げる。


「………何というか。僕の場合は動かないとレベルが上がるんだ。それで……レベル上げを」


勇者がハトが豆鉄砲を食ったような顔をする。

そして憐みの表情が浮かび上がってきた。


「動かないとレベルが…すいません。失礼なことを聞いてしまったようで。」


なるほど、僕のレベルの上がり方は特殊なようだな、これは。


「でも安心してください!貴方にかけられた呪いを一刻も早く解けるよう、魔王を討伐して参りますので!僕の名前は勇者アルク!魔王を倒し、この世に平穏を!」


アルクが剣を空高く掲げる。

何か決まり文句みたいな台詞だな、とりあえずうるさい。


「それでは一旦村に薬草を買いに行ってきます。それでは!」


アルクは剣を収めると、僕が見えなくなるまで手を振りながら村へ走っていった。

嵐の様にうるさい奴だった。

できる限りもう会いたくはない人物リストに追加だ。

少し深呼吸をして、一息つく。

……あいつから聞いた話から考えるに僕は魔王の呪いをかけられているのか。

あの勇者の感じだと僕は魔獣を倒してもレベルが上がらないのだろうな。

動かないとレベルアップか。

………魔王、良い奴だな。


『レベルアップしました。』

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動かないとレベルアップ ~気が付くと大魔導士~ フクロトジ @uhhyoooaaaaaaa

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