第五話 真相は如何に


 戸ノ内デパートの三階、イベント広場は、放送を聞いた人々によって埋まりつつあった。

 広場のほぼ真ん中に陣取った麗美も、これから始まるというアイドルのライブを、緊迫した表情で待っていた。


 そして、時計の針が八時を指した後、舞台袖からマイクを握った一人の男性が現れる。

 うっすらとストライプの入った黒いスーツに、同じ柄のハットを被った、背の高い四十代初め頃のその男性は、にこやかに観客へ挨拶を行う。


「皆様こんばんは。本日は新人アイドルグループ、Y-10sの初ライブに来ていただき、真にありがとうございます。初と言いましても、このデパートでハロウィン限定で結成された、一夜限りのグループです。ちなみにY-10sのYは、妖怪のYをあらわしています。そう、彼女たちは、日本で恐らく初めて、妖怪をテーマに結成されたアイドルなのです」


 「妖怪」という単語に、周りの客は「おおっ」とどよめく。

 ハロウィンに押されていても、妖怪への食いつきが決して悪いものではないことが、麗美には密かに嬉しかった。


「では、前置きはこれくらいにして、早速お呼びいたしましょう。Y-10sの皆さんです!」


 男性は盛大にそう叫ぶと、左手を大きく上げて、ステージから降りていく。

 彼と入れ違う形で、拍手を受けながらわらわらと出てきたのは、十人の女の子たちだった。


「はじめまして! Y-10sです!!」


 重ならないように二列に整列した彼女たちは、観客に向かって元気よく挨拶する。上は着物、下はスカートのような不思議な衣装だったが、それもよく似合っていた。

 しかし、それ以上に目立つのは、少女たち一人一人に全く別の特徴があったからだった。


 一人の少女には、狸の耳と尻尾があり、もう一人の少女には猫の耳と二つの尻尾がついている。

 小さな角の生えた子や、一つ目の子と三つ目の子、髪の毛の中にもうひとつの口がある子もいた。

 髪の長い少女と笠を被った少女の周りには小さな雲が浮かんでいて、それぞれが雪と雨を降らせていた。

 そして、後列の一番左端に、金髪に狐の耳と尻尾のある少女の姿を発見して、やっと麗美は顔をほころばせた。


「あの耳、動いているよ?」「特殊メイク? 瞬きしてるけど?」「あの雲って、ホログラムかなー」「よく出来てるねー」


 観客たちは拍手を送りながら、驚きの声を上げるが、まさか目の前にいるのが本物の妖怪だとは思わないようである。


「それではお聞きください、『恋にYOUKAI!?』です!」


 前列真ん中に立つ、二口の少女がそう声をかけると、音楽が流れ出し、少女たちはぴったりと合ったダンスをしながら、歌い始めた。


「あなたと みつめあった あの瞬間

 ときめき きらめき つのってく

 化けても 溶けても 降っても

 ひとつの 瞳に あなただけ

 ああ こっちにの 口にも キスをして」


 妙に昭和の香りのする歌詞を歌を聞きながら、少し心に余裕の出来た麗美は、改めて集まった観客の方を眺めてみる。

 仮装した人間たちに混じって、ちらほらと和服を着た、居酒屋面面で見かけたことのある顔がいくつかあった。

 何だ、結構知られているじゃないのと、少し気抜けしながら、もう一度ステージの見知った顔に注目する。


 狐耳の少女は、周りと比べると緊張している様子だったが、笑顔で楽しそうに歌って踊っている。

 その可愛らしさにかまけていた麗美だったが、ふと思い出してスマホを取り出すと、カメラモードでステージを録画し始めた。これを、他のみんなや本人たちにも見せてあげようと思っていた。


 そうして一曲目が終わり、狐耳の子だけがステージをいそいそと降りて行っても、麗美は今飛丸が一体どこで何をしているのか、全く考えもしなかった。






   □






「……アイドル?」

「そう、妖怪の少女たちを集めて、アイドルにする」


 戸ノ内デパート本社屋上、札や紙人形やらが散らばった酷い状況で、飛丸はつい先ほどまで戦っていた陰陽師の青年、栄藤と向かい合って、彼から事の真相を聞いていた。


 スーツは竜巻によってぼろぼろで、帽子も斜めになり、思いっきり飛丸に殴られた所為で右頬が赤く腫れて喋りにくそうだったが、栄藤は何故かにこやかに妖怪の少女たちをこのビルに集めた理由を説明している。


「俺の師匠は戸ノ内デパートの社長と古い知り合いで、先月社長からハロウィンのイベントはどういうものがいいのか尋ねられて、妖怪のアイドルを提案したら、採用されたんだよ」


 先程までの戦闘とは全く違う砕けた口調の栄藤とは正反対に、飛丸は眉間に皺をしっかりと刻み込んだまま、口を開く。


「ちょっと待て」

「ああ、師匠が何でここの社長と知り合いかって? それは、デパートの建設の時、方角とか占ったのが師匠で、その縁が今でも続いてるんだ」

「いや、それはどうでもいいんだよ。そもそもなんで、アイドルなんだ?」


 飛丸は最初から抱いていた疑問をぶつけると、相手は「あ、そっちか」と拍子抜けした顔で、何でもないように続ける。


「それは単純に、師匠が昔から大のアイドル好きで、妖怪の子って可愛い子が多いなーといつも思っていたのと、アイドルをプロデュースしてみたいと思っていたからだな」


 一人納得したように、うんうんと頷く栄藤だったが、飛丸の疑問の眉間の皺は、まだ消えていない。


「妖怪たちはどうやって集めた?」

「こっち側からスカウトして、アイドルに興味はありませんかーって。ただ、大人よりも子供の方が喰い付きが良かったから、結局子供だけのグループになっちゃたな」

「強制はしていないのか? 騙すことも?」

「もちろんもちろん。報酬と言っていいのか分からないけど、あの子たちの好きなものを、用意できるのなら何でもプレゼントすることを条件にした」

「本当にやましい事はしていないんだよな? じゃあなぜ、このビルに結界を張って、妖怪たちを閉じ込めていた?」

「あー、それか……」


 今まですらすらと答えていた栄藤は、急にバツの悪そうな顔で頬を掻いた。


「九月の終わりにはメンバーがほぼ決まっていたんだ。だけど、いざ皆で歌やダンスの練習をしようと思ったら、集まりが悪いし遅刻するし、来た子たちも練習よりもおしゃべりで夢中で……全然上手くいかなかったんだ。ま、自由気ままに暮らしている妖怪たちに、突然人間たちの掟に従ってもらおうなんて、都合のいい話だったんだな。そうこうしているうちに、ハロウィンまで残り一週間を切って、俺たちは苦渋の決断をした」


 そう言って、栄藤は自分の立っているビルを指差した。


「ここで一週間の練習合宿を行うことになったんだ。逃げ出さないように、対妖怪の結界も張って。多少強引になってしまうが、本人たちからの了承はちゃんと得た。それから、ビルの一室を貸し切って、殆どの時間を本番への練習に費やした。最初は何かと理由を付けてサボろうとしたみんなも、日を追うごとに真剣になって、全然だった歌とダンスが上達していく様子は、なんか感動的だったなあ」


 当時の事を思い出して、腕を組み感慨深げに語る栄藤だったが、残念ながらその気持ちは飛丸に一ミリも伝わっていない。未だに納得のいっていない表情で、鋭く疑問を投げかける。


「しかし、彼女たちが合宿に了承しても家族や友達は、それを知らなかったんじゃないのか?」

「いや、集合する前に、きちんと本人たちの口から、説明されているはずだぞ?」

「……確かに、妖怪たちの間で今回の事があまり騒ぎにならなかったのは、皆事情を知っていたからかもしれない。だが、雨降らしの滴の友達と兄貴は、何故滴が行方をくらませたのか、何も知らなかったけど、それはどうなんだ」

「あー、あの子か」


 飛丸がこの騒動の核心に迫ると、またしても栄藤は苦笑を浮かべながら、少し申し訳なさそうに答えた。


「滴ちゃんは、一週間前、丁度合宿の買い出しに俺が行ったときにスカウトして、そのままビルまで来てもらったんだが、他の子と合流した後に家族に連絡したかどうか確認したら、『かたつむりさんに伝言を頼みました』って言われて……」


 その時の事を思い出して、栄藤は思わず吹き出してしまっていた。


「俺、もう一度大丈夫か聞いてみたんだが、本人は胸張って、『かたつむりさんは少し遅いですけど、ちゃんと伝えてくれますから』って言うもんだから、こっちが引き下がるしかなくなってさ」


 栄藤は陽気にけたけた笑いながら話すが、飛丸は呆れ顔をするしかなかった。


「それですれ違いが起こってしまったのは分かったが、ただ、こんの事はどうしたんだ」

「ああ、こんちゃんね。あの子が急に侵入した時は流石に驚いたけど、事情を説明して、滴ちゃんとも会わせて、きちんと誤りは解いた。その後、滴ちゃんの方から一緒に舞台に上がらないかと誘われて、彼女も練習に加わったんだ」

「じゃあなぜ、こんはその連絡をしてこなかったんだ」

「それは、俺が何も言わないようにと頼み込んだからだ」


 そんなことを聞かれたのか分からないといった表情で、肩をすくめて栄藤が言う。

 その一言の衝撃に、絶句している飛丸をよそに、彼はまたいけしゃあしゃあと続けた。


「俺、今まで天狗と会ったことなくて、一度でいいから戦ってみたいと思っていたんだよ。だから、ここで戦えるように、こんちゃんにも協力してもらって、さらにこっちがヒールになれるように演技したんだ」

「……そんな理由で……」


 強い者と戦ってみたいからという、最近の少年漫画でも聞かない言葉が返ってきて、飛丸は一気に脱力してしまった。

 しかし、栄藤の自信に満ちた目を見ると、説教する気持ちも消えていく。


 ふと、栄藤が完全に文字盤のガラスが割れている腕時計を見た。


「もうそろそろ、ステージも終わっちゃう頃だな。俺も少し見たかったけど、仕方ない。君もそうだろ?」

「……そうだな」


 一気に疲れが来てしまった飛丸は、力なく答える。もう妖怪のアイドルなどどうでもよくなっていた。


「俺はこのまま帰るよ。まだ羽も乾いていないし、ビルの中を通っていってもいいよな?」

「いいよ。ビルの警備員とかには、俺の方から説明しているから。……あ、ちょっと待って」


 屋上の出入り口へと向かった飛丸は、慌てた様子の栄藤に呼び止められて、振り返った。

 栄藤は、地面に落ちていた天狗のお面を拾い上げると、無邪気な笑顔で飛丸に差し出した。


「これ、忘れもん」

「……ありがとう」


 相手に悪気がないことがよく分かっている飛丸は、引きつった笑みでそれを受け取った。

 以前なら「もういらねーんだよ!」と逆切れした場面だったため、このような所で自分自身の成長を感じずにはいられなかった。






   □






 麗美が出演者の知り合いだというと、驚くほどあっさり舞台のバックヤードに入ることが出来た。


 舞台の後ろにつけられたテントの中には、音響や照明の設備でごちゃごちゃとしていて、あちこちでスタッフも動き回っている。

 その奥の方に、先程ステージを終えたばかりのY-10sのメンバーが、一番最初の舞台挨拶を行った男性と向かい合っていた。


 その黒いスーツの男性は、少女たちに向かって、熱く語っていた。


「今夜、君たちの初舞台が成功したのは、間違いなく君たちの努力の賜物だ。最初は普通の妖怪の女の子たちだった君たちだが、今、こうして大勢の人の前で歌って踊れる度胸を身につけた。私は、プロデューサとして、それを一番誇りに思う」


 段々と涙声になっていく男性と同じように、少女達も目元を抑えたり、鼻をすすったりする子が現れ始めた。


「正直言うと、テレビに出ているアイドルたちのテクニックには、君たちは遠く及ばない。しかし、あの瞬間の君たちの眩しい笑顔は、今夜日本、いや世界で一番だったと、私は断言できる。最高のアイドルに成長してくれて、ありがとう!」

「「「「「「「「「「先生ーー!!」」」」」」」」」」


 感極まった少女たちは、すでに涙を流している男性へと駆け寄っていく。

 その光景は、まるでアイドルの密着ドキュメントを見ているようで、ここまでの経緯を知らない麗美にも、こみ上げてくるものがあった。


 しばらく、お互いに褒め合ったり、先生と呼ばれる男性と喋ったりしている少女達だったが、


「滴ー!」


 麗美の脇を小さな影が通り抜けて、短い黒髪で肌の白い笠を被った少女の方へと走っていった。


「あ、時雨お兄ちゃん」


 名前を呼ばれた少女は、紺の着物に灰色の羽織を着て、笠を目深に被った小学校中学年くらいの少年と向かい合い、顔を綻ばせる。

 兄の時雨も嬉しそうに妹の滴の手を取った。


「お兄ちゃんも来ていたんだ」

「うん。さっき、かたつむりから手紙を受け取って。間に合って良かったよ」

「私たちの舞台、どうだった?」

「すごくうまかった!」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


 雨降らしの兄弟が、楽しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねているのを、麗美は微笑ましく眺めていたが、滴の隣に立っていたこんが彼女にふと気付いた。


「麗美さん! 来てくれていたんですね!」

「ええ。偶然こっちにいただけなんだけどね」


 麗美は苦笑しながらこんの元へ歩み寄る。

 ステージを見ていた他の妖怪たちも、いつの間にかこちらに来ていて、仲間と合流していた。


「他の皆さんはどうしたんですか?」

「八咫くんは入れなくって、飛丸くんは多分、ビルの屋上で術師と戦っているわ」


 そう説明した麗美は、ふと飛丸の事を思い出して眉を顰めた。


「でも、こんちゃんも人が悪いわね。こういう事なら、黙ってないで教えてくれてもよかったのに」

「すみません。先生の弟子の、栄藤さんのお願いだったんです。どうしても天狗と戦ってみたいから、私の方から連絡は入れないでくれないかって」


 麗美はそれを知って、目を丸くした。彼女も都市伝説として誕生してから三十年以上経つが、妖怪と直接対決したいという人間の話は初めて聞いた。


「その人、すごく変わっているわね。どんな人なの?」

「栄藤さんと言って、若い男の人の陰陽師さんです。先生に弟子入りして、三年くらいですが、もうほとんどの術は使えるそうです」

「どうして、こんちゃんはその栄藤くんと飛丸くんが戦ってもいいと思ったの?」

「それは、栄藤さんがちゃんと手加減するし、自分の身もしっかり守ると言っていたからです」


 飛丸本人が聞けば、「倒す気満々だったぞ」と反論しそうなことを、こんは口にする。

 それから、何故か突然思い出し笑いをこらえるような顔になった。


「あと、私が栄藤さんに見つかってしまった時、栄藤さんが怖い事を言うから、私、泣き出してしまったんです。そしたら、栄藤さん、酷く慌てて、『ごめん! 調子に乗り過ぎた!』って土下座しそうな勢いで謝って、むしろ私の方が申し訳なく感じちゃうくらいだったんです。それで、ああ、この人はそんなに悪い人じゃあなんだなって思って」


 くすくす笑いながら話すこんに、麗美も溜息と共に笑みをこぼした。


「そうなっちゃったら、仕方ないわね」


 話が一段落した二人の元に、滴と時雨の兄妹も加わった。

 周りの妖怪たちも、それぞれがテントの外へと出ていく。

 それを眺めながら、麗美はやっと八咫烏や飛丸の事が心配になってきた。


「そろそろ八咫くんと飛丸くんにも連絡入れないと。多分、何が起きているのか分からなくて、不安がっていると思うわ」

「あ、その前に、こん、先生に挨拶していかなくっちゃ」

「うん。麗美さん、すみませんが少し待っててください」

「いいわよ」


 いそいそと先生の所へと駆けていくこんと滴を見送った麗美は、隣の時雨へと話しかけた。


「妹ちゃん、何にもなくってよかったわね」

「はい。一安心です」

「もしかしてだけど、滴ちゃんを探そうとしなかったのは、かたつむりからの伝言が来ると思ったから?」

「そうですね。前にも一度同じことがあったので……」


 困った様子を見せながらも、時雨はどこかそれを楽しんでいる様子もある。

 こういうトラブルも面白がる所は、自分たち妖怪の性分なのかもしれないと、麗美はしみじみと思っていた。


 しばらくして、こんと滴が戻ってきた。滴の瞳には、うっすら涙が浮かんでいる。すぐに兄の時雨が反応した。


「どうしたんだ、滴!」

「うん、大丈夫お兄ちゃん。先生から、これからもがんばれって言ってもらっただけだから」

「私も、先生とは一日しか練習していないけど、厳しくても優しくて、すごくいい人だったよ。先生は陰陽師だけど、妖怪の事を悪く言わないから、みんな信用してるみたいで」

「そうなの……いい人と巡り合えたのね」


 麗美の言葉に、滴とこんは大きく頷いた。


「もしも、来年もY-10sで踊れるんだったら、必ず参加しようね」

「うん、一緒にやろうね」


 滴の呟きに、こんも力強く返した。






   □






「……遅い」


 戸ノ内デパートから出ると、天狗の面を被って鳶の羽を生やしたままの飛丸が、麗美たちを待っていた。


「ごめんね、飛丸くん。ちょっと色々あって。ところで、そのお面と羽はどうしたの?」

「面は店長から無理やり持たされた。羽は戦いで濡れてしまったから、仕舞えないんだよ」

「……栄藤さん、無茶したんですね」


 こんが申し訳なさそうに呟く。彼女自身が栄藤と飛丸の対決を許可した部分もあるため、責任を感じるようであった。

 すると飛丸は、気にするなというように片手を振った。


「あいつが勝手に色々やってきただけだから。それに、勝負にも勝ったし、もう恨んでいないよ」

「でも、お面があって、結果オーライだったね。羽が仕舞えないままじゃあ、顔がバレちゃうし」

「ほんとに……。大学の知り合いは通らなかったけど、さっきテンションの高い外国人に、『クール!』とか『ジャパニーズホラー!』とか言われながら、写真撮られまくったからな」

「ジャパニーズホラーって……意味変わっていない?」

「俺も心底そう思ったが、突っ込む気力もなかった」


 深い深い溜息を飛丸がついて、その後は誰からともなく歩き出した。

 ハロウィンの町並みには、仮装して浮かれた人々で溢れていて、着物やアイドルのような恰好や羽の生えた妖怪たちが歩くと、振り返る人がいても特別目立つほどではなかった。


 すれ違う人々も、凝ったアニメのキャラクターのコスプレの一方、猫耳を付けただけや、大きな箱を頭から被っただけの人物もいる。

 なぜか季節外れのサンタクロースの格好をした人の群れをすれ違った後、麗美に誘われて妖怪たちは路地裏の方へと入っていった。


 人影がどこにも見当たらない路地裏を歩いていると、すぐに背後から彼らを呼び止める声が聞こえてきた。


「みんなーー無事だったんだなー」


 振り返ると、八咫烏が夜風を切りながら、真っ直ぐにこちらへと飛んでくる。そして、丁度ぴったり飛丸の頭上にとまった。


「……なんで俺の頭なんだよ」

「いやー、なんか目に入っちまって」

「八咫烏さん、ご迷惑をお掛けました、申し訳ありません」


 こんが八咫烏を見上げて、謝罪を口にする。すると八咫烏は、嬉しそうに羽をばたつかせた。


「無事に何よりさ。ただ、アイドルをしているだけだったってことは、正直に教えてほしかったなあ」

「申し訳ありません」

「私も、連絡が遅れたせいでこんな大事になっちゃって、本当にすみませんでした」

「こんちゃんも滴ちゃんも、これでわかってもらったから、もう大丈夫よ。人間社会でも妖怪社会でも、ホウレンソウは大切なのね」

「麗美さんの言う通りです。滴とこんも、早く教えてくれれば、君たちの舞台を見たい妖怪たちも来れたのに」

「うん……」

「そうだね……」


 しょんぼりとしてしまった滴とこんを励ますように、麗美が明るい声で言った。


「そんなにがっかりしないで。途中からだけど、私、二人のステージを録画してあるから。それをDVDに焼くから、みんなに渡したらいいじゃない?」

「それはありがたいんですが、僕たちや他のみんなも、でーぶいでー再生機を持ってないんです」

「あ、じゃあ、それを面面に置いておくから、いつでも好きな時に見れるようになるわ」


 麗美が新しい案を出すと、やっと三人も笑顔を見せた。

 その直後、八咫烏が「そういえば」と声を上げる。


「さっき、面面に連絡を入れたら、みんなで集まって、かぼちゃの煮つけでパーティーしているって、のっぺらの旦那が行ってたぜ」

「いい気なもんだな。少し前まではハロウィンがどうこう言ってたのに」

「ハロウィンだからかぼちゃの煮つけ? 安直すぎるわ」


 飛丸と麗美の苦言を軽く受け流して、八咫烏は三人の子供たちの方に向き直った。


「どうだい、坊ちゃんと嬢ちゃんたちも、一緒に行かねえかい?」

「え? 僕たちも?」

「いいですか?」

「でも、私は会ったばかりですし……」


 尻込みする三人に、麗美はいいのいいのと笑いかける。


「そんなこと、みんなあまり気にしないわよ。せっかくだから、面面であのステージを見てみるのも、いいんじゃない?」

「「「ありがとうございます!」」」


 三人は声を合わせて、元気よく返事した。


「あ、でもあまり遅くまでいるのはだめだからね」

「俺も、明日学校だからな、あまり長居出来ないけど」

「麗美姉さん、あまり飲み過ぎないでくれよ」

「大丈夫よ、自分の限度は分かっているわ」


 こうして妖怪たちは、ハロウィンの雰囲気に浮かれる街の中を、面面に向けて陽気に歩き出した。 


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ハロウィンの妖怪大作戦 夢月七海 @yumetuki-773

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